「三つのI」コンセプト

sact_contents_researchcenter3当センターの立ち上げに際し、私たちは「三つのI」を中心コンセプトにしました。三つのIとは、いくつかの異なる学問分野にまたがってかかわる「学際」を意味するInterdisciplinary、異なる世代が互いに交流して協力し合う「世代間」を意味するIntergenerational、そして組織名にも入っている「国際」を意味するInternational、の三つです。なぜ、この三つのIを中心コンセプトにしたかを次に説明します。

視野狭窄に陥らないための「学際」の重要性

まず、「学際」については、個人の加齢や社会の高齢化に伴う諸課題は、特定の学問分野や専門家だけでは解決できないものが多いからです。例えば、国内外の他の研究施設を見ると、医学、疫学、社会学、心理学など個別の「老化」研究は盛んに行われていますが、生まれてから死に至るまでのすべての過程を対象とした時間軸の医学を中心とした立場から、加齢科学の研究・教育に統合的に取り組んでいる例はほとんど存在しません。

一方、例えば、認知症介護の現場を眺めてみれば、認知症の方を診断して医学的に的確な指示を出す医師、その医師をサポートする看護師、実際に介護を担当する介護スタッフ、介護方針を決めるケアマネジャー、介護保険制度の面から支援する行政や地域包括センター、さらには認知症の方の財産や人権を守る成年後見制度の担い手である弁護士、司法書士、家族カウンセラーなど多くの分野の専門家の連携が必要です。

以上の理由から、私たちは、医学部はもちろん、医学部以外の多くの学部の研究者と連携して研究活動を進めています。これに加えて、東北大学以外の大学や研究施設、さらには多くの異業種の民間企業との産学連携を推進しています。特に、民間企業との産学連携は、当センターの強みであり、これまでに多くの実績をあげています。

超高齢社会の課題解決は「世代間協力」が不可欠

次に、「世代間」については、社会の高齢化に伴って生じる課題は、高齢者だけではなく、すべての世代にかかわるものです。その解決のためには、世代間の協力が必要であり、そのための相互理解と交流が不可欠なのです。

大学の学生は、学部生だと20代前半、大学院生でも20代前半から後半、博士研究生でもせいぜい30代です。こういった年齢の若い学生・研究者が個人の加齢や社会の高齢化というテーマで研究する場合、年齢が若いがゆえの視野の狭さからどうしても机上の空論に陥ったり、高齢者に対する先入観から高齢者の気持ちや境遇を理解するのが難しかったりするケースがあります。

こうした弊害を極力少なくするために最も有効なのは、若い学生・研究者が高齢者を含む異なる世代の人たちと直接交流することです。

もちろん、これまでも若い学生・研究者と高齢者との交流機会は、特に医学系の場合、比較的ありました。しかし、多くの場合、両者の関係は、実験する学生・研究者と、そのための治験者という関係にとどまることが多く、両者が共にこれからの高齢社会のあるべき姿について、あるいは長寿命時代の生き方について深く学び合うことを目的に交流する機会はほとんどありませんでした。これは高齢者にも同じことが言えます。

超高齢社会のさまざまな課題解決のためには、大学はもはやかつてのような象牙の塔であってはいけません。大学の持つ知識や知恵を広く社会に還元するために、大学が高齢者を含む地域住民の皆さんとこれからの時代を担う若い学生・研究者とを結び付け、互いの交流を促す「触媒」としての役割を担うことは社会的要請です。

世界が注目する「超高齢社会・日本」

最後に、「国際」については、個人の加齢や社会の高齢化に伴う課題が日本だけのものでなく、世界共通の課題であり、今後ますます国際的な活動が必要になってくるからです。国連の定義によれば、高齢化率(65歳以上の人口を全人口で割った率)が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、そして一般には21%を超えると「超高齢社会」といいます。

sact_contents_researchcenter4皆さんは2030年までにアフリカや中近東を除く世界の多くの国が「高齢化社会」に突入することをご存じでしょうか? 日本の高齢化率は2013年で25.1%であり、世界一になっています。この主な理由は少子化と長寿命化の同時進行です。

少子化については、すでに多くが語られている一方で、日本人が過去どれだけ長寿命化しているかはあまり知られていません。日本人の平均寿命は戦後伸び続けており、厚労省平成22年簡易生命表によると、女性の平均寿命は86・39年で世第界1位、男性の平均寿命は79・64年で世界第3位です。

世界一の「超高齢社会」といってよい日本の動向は世界各国から注目されています。50歳以上の会員3700万人を有する世界最大の高齢者NPOである米国AARP(エイ・エイ・アール・ピー、旧称・全米退職者協会)が最も注目している国は日本です。AARPは、グローバル・エイジング・プログラムという世界各国の高齢化研究を進めており、日本についても相当研究しています。

また、成長が続くアジア各国も日本の高齢化対応に注目しています。特にシンガポール、韓国、香港、台湾といったところは日本よりも少子化が進んでいるために、近い将来、急速に高齢化が進むと危機感を強めています。

このように日本が世界から注目される理由は、良くも悪くも日本が、社会が高齢化することで起こることの「ショーケース」になっているからです。年金などの社会保障の課題だけでなく、個人の健康や生活設計に対するニーズは、生活水準がある程度近ければ共通のものが多いのです。

社会の高齢化という面で良くも悪くも世界の先頭を走る私たちは、他国に先駆けて諸課題に立ち向かわなければいけません。これは正直言ってかなり大変です。しかし、見方を変えれば、問題解決のための知恵を他国に先駆けて蓄積できる優位性があるともいえます。

世界に先駆けて高齢社会に相応しい研究を行い、その結果を応用して商品・サービスを次々と生み出し、必要な制度について提言していく。それらが素晴らしいものであれば、今後同じように高齢化の諸問題に直面する多くの国から一目置かれるようになるのです。このようにして、私たち日本人は、高齢社会対応の面で世界の人々に対して貢献できる可能性が大きいのです。

これらの理由から、私たちは「国際」を中心コンセプトのひとつにしました。具体的には、先に挙げたAARPと日本の大学として初めて包括的学術協定を結んだのをはじめ、欧州やアジアの大学、研究機関とさまざまな共同研究を進めています。特に、学習療法については、海外からの関心も高く、アメリカを中心に日本以外での展開を進めています。

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