SAC東京第10回月例会 事務局レポート
1月28日開催 SAC東京第10回月例会 事務局レポート
「男女共同参画による少子・高齢時代の経済・経営戦略」
東北大学大学院経済学研究科 高齢経済社会研究センター 吉田浩教授
2016年1月28日開講の第10回月例会は高齢経済学の立場から、吉田浩教授によるテーマ「男女共同参画による少子・高齢時代の経済・経営戦略」についての講義です。
あらためて男女共同参画を考える
さほど目新しいテーマではない、と思っていたところ、吉田教授も「男女共同参画と言われると不安になりませんか?」と切り出しました。さらに「このテーマで社内の担当になったら嬉しくないでしょう」と、いつもより少し女性参加が多い会場を見渡しました。「しかし、今日の講義を聞いたら考え方が変わり、希望を持ちますよ」と言い切る吉田教授です。講義の前後でどう考え方が変わるのか、そんな期待が膨らんだところで講義はスタートしていきました。
冒頭、教授は「少子高齢社会は、女性の課題」と言い切りました。それでは高齢社会の何が問題なのか、なぜ女性の問題なのか、これはビジネスチャンスか、それとも義務としてとらえるのか、これが本講義の概要となります。
まずは参考事例を聞いてみましょう。吉田教授は一橋大学時代、「超整理術」の著者である野口悠紀雄研究室の一員だったそうです。実はどうも野口悠紀雄氏は整理があまり得意ではなかったようで、その「反整理」から生まれた「超整理法」だったという裏話を暴露してくれました。
超少子高齢社会の到来
毎年子供が1万人減っているおもちゃメーカー。今、玩具は福祉用具や作業療法の領域へとシフトしています。10年前の国立大学のセンター入試のシステムも変わったのも注目するところだと言います。日本の高齢化のスピードは早くい。一刻も早い対応が必要なのだと主張しました。
子どもを生む女性、お母さんになる人のことはもう30年前に決まっています。労働力は毎年100万人単位で減少し続けます。労働者が担がなければならないお神輿の上に乗るひとが100万人ずつ増えるのだと、教授は表現しました。
超少子高齢社会の到来
合計特殊出生率とは、一人の女性が一生に産む子供の平均数を示し、この指標によって、異なる時代、異なる集団間の出生による人口の自然増減を比較・評価することができます。日本ではこれが2010年時点で1.39人でした。しかし、2.0人が必要だと吉田教授は言います。日本の出生率の推移を示すグラフも示されました。日本の「少子高齢社会は、女性の課題」と言う根拠はここにありました。吉田は教授「日本人はトキと同じ絶滅危惧種だ」と警鐘を鳴らしました。しかし、先進国はみんな同じ状況ではありません。合計特殊出生率はフランス2.01人、イギリス2.00人、スウェーデン1.98人、アメリカ1.93人となっています。逆に台湾は0.9人、香港1.11人となっています。
「古い考えから抜け出せないところ」が問題だと教授は指摘しました。
2060年になると世界の全ての国が高齢化してしまいます。高齢化の先頭ランナーである日本発のシニアビジネスを海外へ輸出することができれば、大きなビジネスチャンスとなることでしょう。
昭和50年から合計特殊出生率は2.0人を下回っています。ところで昭和41年には1.58人まで下がりました。この年は「ひのえうま」であり、この年に生まれた女性は結婚できない、男性は早死するという迷信に基づくものです。こういう現象はタイミング効果というそうです。65歳以上の人口数は増え、逆に生産者人口働が減少しています。生産者一人が高齢者一人を支えることを「肩車経済」と呼ぶそうですが、それが崩れ始めています。
経済学では「利益を受けている人はだれか」ということがポイントです。高齢化した人が長生きすると「死なない、要介護状態になる」、すると社会負担が増えます。つまり、今、お金を負担している人が、利益を受けることができない構造になっています。
吉田教授は、「出生率を上げ、女性の社会進出を増やすこと」で働く人を増やすことが重要になると主張しました。
新・三本の矢
「新・三本の矢」について話しが移りました。それは①GDP600兆円、これは経済の問題です。②希望出生率1.8、これは少子化対策の視点です。③介護離職ゼロ、これは高齢化対策の視点です。ここが吉田教授の少子高齢化対策研究の軸になっています。
例えば、介護離職ゼロを紐解いてみましょう。
高齢者は一緒に住んでいる人によって介護を受けています。介護をしている人は女性が約7割です。さらに老々介護が多く、配偶者が介護をしています。悩みは介護している側にあると分析している吉田教授です。
介護している人には自分の時間がない、パートタイムの仕事しかない、介護を原因としたとした自殺者も増えてきました。その対策として周辺にいる人たちが支える、軽度者への対応、2005年を起点に2035年を見ていくと要介護者は 1.4倍増、しかし介護する人は0.745倍減少します。これは少子化によるものです。にも関わらず、約2倍の介護する人が必要になります。
女性が少子化対策を担う「母として」、労働者不足対策を担う「働く女性として」、高齢者介護を支える「娘、嫁として」の一人三役を担うことはできるわけがありません。社会改革が必要です。
ワーク・ライフ・バランス
女性が働きながら子育て、家族のお世話ができる「ワーク・ライフ・バランス」が必要です。もちろん男性にも必要です。「男も家事をしろ」ということです。国は「国民一人ひとりがやりがい・・・」ということを施策に掲げますが、その表現や内容がわかりづらい、「家事をしない男を夫と呼ばない」のような明解な表現が必要だと言う吉田教授です。
The Global Gender Gap Repot2012によれば、日本の男女平等度の国際ランキングは101位となっています。先進国の中では遅れをとっています。一番の問題は意思決定に女性が参加していないことです。女性のリーダーは誰が良いか、そんなアンケートもあるそうですが、何人かの実名は挙がりますが、適当な人がいないという結果だったそうです。
このテーマでは北欧から学ぶことがあります。結婚と国家登録は別であるという考え方、ノルウエーでは「子供をもつ親の権利」が尊重されています。
男女共同参画社会づくりを義務と考えるか、それとも戦略を組むか、吉田教授は会場へ問いかけます。大きな原理から説得すること、簡単に「多い、少ない」を捉えることが必要です。次に情に訴えた説得も有効だと言います。例えばイソップ物語の「北風と太陽」でした。強制すると管理コストが上がり、コスト増となってしまいます。永続性の面から考えてみることが重要となります。
ここでは、大分県の民話「吉四六(きっちょむ)」の事例も紹介されました。
産業構造の変化と本当のニーズ
「朝まで徹底討論」して、参加者全員が納得する結論に到達することができるか、そこにはOBM(権利にもとづく意思決定)やEBM(根拠に基づく治療)の活用が求められます。
企業における女性比率と利益率の関係グラフを示しながら、「儲けたければ女性を雇ってください」と説く吉田教授です。サービス残業を無くして、生産性をあげること。日本ではサービス業が70%をシェアしています。経済と雇用はサービス業で成り立っています。製造業もサービス化の時代です。言い換えればコンテンツが重要なのです。
「4分の1インチのドリル」の逸話も紹介されました。「穴をあけけたい」という本当のニーズは何なのか、ドリルを売ることなのか、穴をあけてあげるサービスを提供することなのか。橋を何のためにつくるのか、時間短縮は誰のために、予防接種は何のためにするのか。すなわち、究極的なサービス・ニーズは何か、ということを見極めることが重要なのです。
吉田教授はホワイトカラーの生産性が問題であると指摘しました。昔は力仕事が多かった、しかし今はサービス、ホスピタリティと知的業務が主流となりました。女性も働くほうが有利となり得る時代です。ペティ・クラークの法則が動いています。需要側からの説明は「モノからサービスへ」、供給側からの説明は「サービス産業へ女性・・・」と変わり、女性の社会進出が高齢社会の日本の運命を握っていると説明する吉田教授です。
その事例としてIBM、ヤオコー、金沢の伝統工芸を紹介してくれました。
講義のまとめ
「ワーク・ライフ・バランス」を整えるために生産性をあげること。
女性が活躍できる社会をつくりあげ、男女共同参画社会へのシフトをはかること。
この実現は義務や強制の考え方ではなく、戦略的に「より幸福な社会の実現」の観点から進めていくこと。
以上で、吉田教授の講義は終了しました。
【個別質疑】
Q1.国際ランキングの中でニカラグアはなぜ向上したのか
Q2.「企業における女性比率と利益率との関係」グラフ上で男女差を示す根拠はあるのか
Q3. 「企業における女性比率と利益率との関係」グラフにおいては業種や企業の利益体質との相関が強いのではないか。例えば介護関係、スーパーマーケット業界では収益性は低いのではないか。
Q4.男女の幸福度の関係(国別平均値)グラフで日本の世界ランキングが低いのは、日本人が幸せを口に出して言わない文化だからではないか。
Q5.ワーク・ライフ・バランスは社内でも追求している。GDPが増えたとしても、高齢者の数が変わらないとどうなるか。
Q6.北欧型を応用したらどうか
Q7.女性社会進出、生産性向上の法則性はどうか。
Q8.65歳以上になっても働いてもらうことはどうか。
【グループトーク】
今回は事務局からグループトークテーマとして以下のを示させていただきました。
グループトークテーマ「少子高齢化の課題」
「企業における女性の社会進出」
1.自社の事業の中で組んでいる例はあるか
2.その取り組みの事業上のメリットとデメリットは、その理由
テーマに基づき、グループリーダーを女性の参加者にお願いいたしました。
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【グループ発表】
各グループ発表の骨子は以下の通りです。
〈グループ7発表〉
女性の社会進出という言葉自体が古い、すでに女性が進出している社会である。
役割も変わった。男性の下で働いていないモデルも増えた。
男性優位の長い歴史がある企業は難しいのではないか。女性の社員数を増やすこと、数字的な利益貢献をみることは難しい。
役員に女性を登用することは重要である。
〈グループ3発表〉
グループ参加者の各企業は社員数が男女半々の企業や、男性が多い企業など様々である。歴史のある生命保険会社などは女性管理職は少なく、なりたがらない。
主任、係長クラスから女性登用して意識変革をしている事例あり。
残業は悪であるという意識が徹底している。しかし、男性がなんとなく会社にいて長時間労働している傾向が強い。男性も自分の時間、場所をもつが重要である。働き方は多様化してきた。
〈グループ5発表〉
なかなか良い事業成功例がない。
女性が昇格試験を受けない、受けたがらない
目指したいと思うロールモデルがない。
好き嫌いで判断している傾向が強い。
まだまだ男性社会、女性の登用の機会が少ない。
中小企業は一人の人材が抜けた時にどうするか、利益を上げられるのか、難しいと思う。
〈グループ1発表〉
女性が出産、介護、離職を防止している企業事例がある。
例えば医療福祉系企業では女性が多く人事研修が盛んに行われている。
研修に男女意欲差があるが、研修によってモチベーションを上げている。
産休明けのマニュアル、ランチミーティングなど。
女性が昇進しにくい、組織で大切にされているという実感を与えるシステム作りなどに取り組んでいる。
〈グループ4発表〉
このグループ参加企業は女性の社会進出を占める割合が多い。
離職が少なく、キャリアがとまらない。
ワーキングマザー向けステップアップ制度がある。
男性にも育児参加
妊娠で出張できず異動し、電話チームへシフトし売上向上に貢献している事例もある。
〈グループ2発表〉
生命会社は女性雇用の歴史がある。
必死で働く必要のある女性を活用
配偶者手当をやめて育児手当を厚くする。
働く女性が健康であることが重要、保険のインセンティブはどうか。
男性は本当に子育てができないのかが課題。
男女の脳の仕組みが異なる、そこを変えることができるか
いまさら少子高齢化の問題の議論なのか、という意見も出た。
〈グループ6発表〉
あらためて社会進出とは何か
働きたい女性が、環境変化があっても働き続けること。
IT系企業の事例、テレワークなど、コアタイム制度などでフレキシブルな働き方を実現し、労働生産性を上げている。
ファシリテーター村田特任教授
以上を持って第10回月例会を終了したしました。
名刺交換風景
事業における女性の活用による効果の話ではなく、自社の女性活用の現状報告の議論になってしまったようです。発表の中にもいくつかありましたが、確かに男女共同参画、女性の社会進出のテーマは決して新しいものではありません。しかし高齢経済という視点でとらえ、あらためて社会の変化をみてみると、まだまだ改革の必要性があることも分かってきました。
SAC事務局としても健康寿命延伸ビジネスの創出を「女性」という視点で掘り下げてみたいと思います。
以上
(文責)SAC東京事務局
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