SAC東京第5回月例会 事務局レポート
8月27日開催 SAC東京第5回月例会 事務局レポート
東北大学大学院医工学研究科 永富良一教授から「健康は測れるか?」というテーマの講義でした。
医師であるのに体育の先生のような永富教授は、「実は健康は測れない」という結論から入りました。そして教授は「健康を測れるか、真剣に考えてみよう」と参加者に投げかけました。
ケータイ、スマホ、時計、GPS 歩数計など、すでにウェアラブルデバイス(装着型生体情報センサー)はたくさん存在しています。教授はさらに、これらウェアラブルデバイスに何を求めるか?と問いかけます。
情報を以下の三つに分けて考えてみます。一次情報、二次情報、三次情報。次に誰が、誰のために、どこで、いつ、どうやって、何のために、すなわち5W1Hが重要となります。
例えば医療機関におけるモニタリングでは
- What;心電図、脈拍、呼吸数、血圧、血中酸素飽和度など
- Where;医療機関、集中治療室
- Who;医療スタッフ、From Who;重症患者のために
- Why;生命維持において危険な状態にあるか知りたいから、あるいは生きているか死んでいるかを知りたい、リスク回避をしたいから
それでは活動量計(歩数計)の場合を考えてみましょう。
- What;歩数・運動強度、エネルギー消費量
- Where;どこでも測れる 歩行という動作があるときに測れる
- Who;ユーザー個人の装着者
- Why;自分の運動量の過不足を知りたいから
しかし、研究者のニーズと一般人のニーズは異なります。階段昇降運動の場合はどうでしょうか。平地歩行より負荷がかかるきつい運動となります。アメリカの場合は心筋梗塞が多いそうですが、階段をいつも昇降している人は心筋梗塞になりにくい。例えばロンドンの2階建てバスの運転手は車掌さんより心筋梗塞発症率が高いという事例も示されました。このように行動により運動強度が大きく異なる訳ですから、上下移動量の把握は重要です。
しかし、多くの歩数計では階段の昇降による運動強度の計測は難しいようです。気圧センサー利用方式などが紹介されました。上下移動量による基礎代謝は勾配10%程度で平地歩行の3倍となるそうです。よって階段昇降がわかる活動量計は、研究者にとっては「Why」は未踏峰への挑戦だと力説する永富教授でした。
しかし、一般ニーズからはかけ離れているとも言います。ちなみに東京は電車利用で、高い建物も多く階段昇降の機会は多い。仙台の場合は高い建物は少なく、日常的に階段の上り下りする機会は少ない。1フロアは20段以下、5階まで登っても30秒かからないのに「階段は嫌い」という人が多いのが事実です。ニーズとは困っている人がいること、何に困っているかを明確化できることです。しかしこのニーズに応えるだけではもはやビジネスにはなりません。ビジネスを発掘するためには「面白いこと」を付加する必要があります。
普段どれだけ動いているか?動いていない時間、それはタバコより高い不健康状態の危険因子となっています。高齢に伴う虚弱、要介護は筋力の低下によって起こってきます。しかし強制してもうまくいきません。自分にとってやる価値がある、そして面白く楽しい。そこを理解する教育も重要項目です。しかし人は健康自体で困っていない、永富教授は「健康は空気の如し」と表現しました。事実、人は病気になってはじめて困ることになります。
さて、ここで前半講義終了しました。
参加者に7グループごとに質疑項目を決めるグループトークをしていただきました。
質疑は以下の通りです。
- 不健康を測れるか?
- 疲労を測れるか?
- 寝たきり防止の運動量・質
- 健康寿命は健康の尺度に?
- スマホで健康管理継続者の共通項目は?
- 健康の定義 最新のトレンド?
- 男女差 個人とグループはどうか?
- 三次情報 何を測ることができれば健康か?
- 座位時間はどうか
- WHO健康定義 メンタルは測れるか?
- 面白いことは測れるか?
- 階段と坂道、種類,負荷の違い?
- 継続性との関係
- 満足を満たす 医学的根拠の必要性
- 飽きない、続ける事例?
- 啓蒙推進方法?
- 医療費削減の取組み?
- 3次、4次、5次情報の先は?
- 指標・データ?
- もともと健康な人へさらに理解を求めるか?
- 教育とは?
ひとつひとつの質疑に回答した永富教授でしたが、まだまだ手がついていない調査や研究がたくさんあることも分かってきました。
(後半講義)
後半は現在、永富教授が取り組んでいる「ミクロビオームと健康の新しい世界」をテーマとした講義でした。現在は人体の微生物叢が注目されています。人間の細胞の数は60兆と言われてきましたが、最近では100兆とも言われているそうです。
ヒト微生物叢(微生物のまとまり)とは、ヒトの皮膚表面あるいは腺管や毛根などの深層、結膜、外耳道、膣、唾液や口腔・鼻腔内各部位、消化管各部位に生息する細菌、真菌、古最近などの共生微生物叢と定義されています。ヒトミクロビオームプロジェクトはNature誌に掲載論文にもたくさん掲載されている将来展望の高い分野となります。
なぜ今微生物叢なのか、従来の分析法は培養可能な微生物に限定され、腸管内の台謝産物に依存する微生物は解析困難でした。しかし今では新しい分析法として次世代シークエンサーが配列を読むことができるようになりました。メタゲノム解析による細菌の分類を属、科、目、網、門に分けて行います。DNAを基本にして進化の過程を調べ系統解析メタボや代謝を調べることができるようになってきました。
驚くことに糞便が一番多様だと言うことです。太った人の便を入れた無菌マウスなどの変化も研究しているのだそうです。糞便微生物移植はClostridium difficile(日和見感染)、ガンの抗生物質、免疫機能低下、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)などの医療への応用が期待されています。またスポーツ選手の多くは消化機能が弱く、腸内環境変化とコンディショニングについても研究が始まりました。最近のニュースでは、口腔内微生物叢は個人差より個人内日内変動が大きいことも分かってきました。
生活習慣の違いもみていきます。メタボ解消には身体活動と歯磨きの回数が多い人が良いそうです。野菜は健康に良いかというテーマにも興味がわきました。追跡調査によると野菜をたくさん食べている人は転倒骨折が多く、累積転倒率が高く、肉をたくさん食べている人は累積転倒率が低くなります。永富教授から最後に将来展望1「腸内微生物叢評価指標確立」、将来展望2「ミクロビオームとゲノムと環境と健康」を示され講義は終了しました。
後半質疑は以下の通りです。
- ヨーグルト 菌の定着 危機?
- 口腔の細菌叢の効果?
- 糞便の細菌叢の関係は?
- 健康への影響
- 特定の菌、様々な菌の影響?
- 太ったネズミ、痩せたネズミ?
- サプリメントは有効か?
- 腸内洗浄効果?
- サプリメントは有効か?
- 腸内洗浄効果?
- 腸内細菌叢を変えた場合はもとに戻るか?
- それぞれの菌同士の相互作用は?
- 生活が同じだと細菌叢は同じか?
- 便移植、あるいは便以外でもコントロール可能か
- 歯磨きが健康に良いというが回数、時間は?
- 口腔内の細菌を使った事例は?
- 腸内微生物叢 メカニズム
- 人間への応用は?
- ヨーグルト 腸内細菌 うつ病予防 精神的改善になるか?
後半も様々な視点から質疑がでました。
私にとって難解な講義テーマではありました。しかし歯磨きの回数という毎日の習慣、さらには糞便や口腔内細菌が健康寿命延伸ビジネスにつながるかもしれない、という期待が膨らんできました。
以上
SAC事務局長 小川利久
タグ:スマート・エイジング, 健康寿命, 健康科学, 免疫, 永富良一
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