SAC東京コースⅠ第4回月例会 事務局レポート

7月28日開催 SAC東京コースⅠ第4回月例会 事務局レポート

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SAC東京第4回月例会コースIは瀧康之教授によるテーマ「生涯健康脳の維持 -超精密脳健診と大規模脳画像研究との融合による認知症予防事業」の講義です。

瀧教授は「脳科学からみると脳の発達は出口が明確である」と切り出しました。
人口動態ピラミッドが示すように若い人が減って高齢者が増えていきます。高齢期に入ると健康であっても脳の機能が衰えていきます。様々な疾病を原因として自立した生活が難しくなり、特に認知症が課題となっていきます。

現在400万人いる認知症高齢者は800万人まで増えるという試算もあります。仙台の人口が約100万人、そこと比較すると数の多さを認識できます。特に軽度の認知症の方が課題となってきます。

一口に寿命と言っても、その中の健康寿命が重要となります。ここに脳の発達の課題と脳のMRI、認知力、生活習慣、遺伝子を測るなどのビジネスチャンスが存在しています。

子供の脳の研究

かつては、子供の脳の研究がほとんどなかったそうです。そこで瀧教授は当時の宮城県の村井知事へ、子供の教育をどの時期にどのようにしたらよいのかを調べる研究提案を行い、子供のデータベースを作りました。しかし子供相手の研究は簡単なものではありませんでした。

MRIは暗くうるさいので子供にとっては怖い。その難題と向き合うことから始まった研究でした。そこで子供たちと一緒に行う勉強の機会を作り、脳のことを教えました。子供の脳の画像をプレゼントしてさらに興味をもってもらうようにしました。最後には「君たちのおかげで脳の発達に関する研究が進みました」という感謝状も贈りました。それらが功を奏したのか、子供たちから「医者になりたい、研究者になりたい」という手紙をたくさんもらったそうです。

アタッチメント形成

このような研究の積み重ねを経て、子育てにはアタッチメント形成が重要性など、子供の脳の発達のメカニズムが解明されてきました。子供は乳幼児期に母親から無条件に受け入れられ、愛される経験を通して母親とのアタッチメントを形成していきます。

このアタッチメントが子供の人格形成の基盤となり安心感につながっていきます。言葉の獲得が始まる時期には「読み聞かせ」が重要であることは、瀧教授の大学時代の優秀な友人へのヒアリング結果とも一致しているそうです。第二外国語である英語の獲得には8歳から10歳が適切な時期であることも分かってきました。

コミュニケーション能力は前頭前野で司られています。思春期の過ごし方が重要であり、その時期のクラブ活動などで仲間とたくさんのコミュニケーションをとることが有効です。それではその時期が過ぎてしまったらもう無理なのでしょうか。

脳には可塑性があり、いつからでも獲得が可能です。しかし、それに要する時間が異なるのです。大人になってからの英語能力の獲得は子供の時期に比べて数倍もの時間がかかってしまうのはそのためです。

成績が良かった子供たち、大人になって成績が伸びた子供たちは「仮想と現実の世界を結びつける体験を豊富にしている」と言います。例えば、図鑑をみたら野山に連れて行くなどのように子供たちの知的好奇心を育てると良いのです。

その親たちは「勉強をしなさい」と子供にほとんど言ったことがありません。なぜならば、好奇心があるから子供が自分で行うからです。親が楽しんでいる姿を見せるということも重要です。子供たちは楽しいことは真似ますが、イヤイヤやっていることを真似ることはありません。

ビジネスと同様、提供する側だけではなく、受ける側もハッピーとなる、そこがポイントです。ここで瀧教授は「分かりますか」と参加者の理解を再確認しました。

blog160728sac1-4-2子育てに良いこと

睡眠は長さが重要です。「寝る子は育つ」と言われてきたように、子供は脳の発達のためにも眠る必要があります。

また食事も重要です。朝食を食べないことは論外です。それでは何を食べると脳に良いのか。子供が必要なエネルギーは大人の2倍です。それは脳の中で神経細胞を「壊す」と「作る」を繰り返すからです。食品として取り入れたでんぷんが体内で糖に変わり血糖値が上昇するスピードがGI値(グリセミック・インデックス)です。このGI値がゆっくり上がってゆっくり下げる食事が良いので、菓子パンよりお米の食事がお勧めです。

さらに、運動は脳の発達を促進します。楽器演奏も脳にはお勧めです。東大生の共通項にピアノ が弾けるということがあるそうです。裕福な家庭であるという要因もありますが、音を司る脳の領域は言語の獲得にも有効です。もちろん大人にとってもよいことは言うまでもありません。

逆にストレスは脳にも良くありません。最先端の研究によってキラーストレスも解明されてきました。親が子供をほめることは、脳の発達を促進します。何でもかんでもほめるのではなく、少し前に進むことができたとき、今までより難しいことができたときにほめてあげることがポイントです。

生涯健康脳を構築し、その維持のために、子どもの頃の過ごし方、育て方を年齢別にまとめてみました。

まとめ(子ども)
3〜5歳頃から
・ 運動・楽器に親しむ
・ 図鑑や野山に言って、知的好奇心高める

10歳頃から
・ 英語などの言語に親しむ
・ 趣味を高める
・ 朝食や睡眠などの生活習慣を整える

認知症

「脳画像を見てみましょう」と瀧教授は60歳男性の年齢相応の脳と、萎縮している脳画像を見せ比較してくれました。脳の輪切り画像です。瀧教授は脳画像の診断専門医です。画像内で白いところが萎縮している部分です。年齢別の脳画像を見ると、年齢が高くなると白い部分、つまり脳の萎縮部分が増えていくことが分かります。

それでは何が脳の萎縮の原因となっているのでしょうか。
飲酒は脳の萎縮を促進します。しかし飲める人が適量を飲む分には大丈夫だと言います。問題はお酒を飲めない人が飲むことです。
中年期の肥満は脳萎縮の原因です。特に男性の内臓脂肪型肥満はリスクが大きく、女性の皮下脂肪型肥満は大丈夫のようです。

認知症のリスクを下げる3要素

瀧教授は疫学からみる認知症のリスクを下げる3要素を示しました。
1.運動:1日30分程度の歩行 、散歩を習慣化すること
2. 趣味や好奇心;脳の高次機能障害リスクを下げ、さらに勉強が楽しくなる
3.コミュニケーション;社会との関わりを持つと楽しくなる

認知症人口は減るのか

この疑問に瀧教授は明確に「減る!」と言い切りました。その証拠に英国では減少しはじめているそうです。遺伝もあるので認知症はゼロにはなりませんが、運動による動脈硬化のコントロールによって、脳にたまるアミロノイドベータを抑えることができます。

そして認知症になった方には早期治療が重要です。これは早期予防、二次予防です。しかし、「認知症にならないために必要な健康増進などの一次予防は最もビジネスになる可能性が高いと訴える瀧教授です。

一次予防をいかに行うか、これは教授が所属している東北メディカルメガバンク機構の役割です。そこでは遺伝子と生活習慣を調べ、世界一のデータベースに基づき認知症にリスクを抑える研究を行っています。

Happy Pepple Live Longer

今まで「幸せな人は長生きする」という言い方は科学の領域ではタブーの言い方でした。しかし、2011年には「幸せな意識の主観性が高い人は平均余命が長い」という論文も発表され「主観的幸福感」は重要な研究テーマとなっています。

趣味やコミュニティづくりは認知症予防のリスクヘッジとなります。そこに向けた生活習慣を変える取り組み、このテーマがビジネスの方向性だと瀧教授は強調しました。

まとめ(大人)
認知症を予防し、生涯健康脳を構築し、その維持のために必要なことを年代別にまとめてみました。
20〜40歳頃から
・ 生活習慣に気を付ける
・ 友人・知人付き合いを増やす
・ 趣味を持ち続ける

50〜60歳頃から
・ 生活習慣に気を付ける
・ 運動習慣を持ち続ける
・ 家族、社会と繋がりを保ち続ける
・ 趣味を持ち続ける
・ 自分の人生が幸せだと実感する

認知症予防事業

認知症の方が増えることは経済的損失にもつながります。日本国内では5兆円、世界規模で6040億ドル(50兆円)と試算され、世界各国の共通課題となっています。ゆえに国挙げて認知症の発症予防に力を注いでいるのです。東北大学加齢医学研究所においては脳加齢コーホート研究から認知症予防へ貢献することが国からのミッションとなっています。

認知症の一次予防の実施から早期治療発見、発症予防もできる可能性が見えてきています。しかしながら、現状では日常生活情報収集、診断、介入、研究を包括的に行うことが難しく、認知症の超早期二次予防、一次予防の遂行がうまく進んでいない面も否めません。そのために生涯健康脳推進センターの設立と生涯健康脳サイクルの確立を目指していると言う瀧教授は、参加企業の協力が必要だと訴えかけました。

生涯健康脳サイクル

生涯健康脳にはセンシング、介入、診断・研究というサイクルが必要です。センシングとは、自宅にて日常生活習慣の種々の情報を収集することです。例えば、口腔内環境を整える活動、キッチンにいるときの行動をデータ化することなどが必要です。

そのために家電メーカー、ハウスメーカーなどが連携してクラウド利用してデータを共有しDeep Learningを行い、認知症のリスクを層別化する活動に取り組みはじめています。

介入とは、糖尿病予防のための食品、睡眠、旅行などテーマは幅広い項目が必要です。運動はジムに行かなくても良い方法が考えられています。主観的幸福度を上げるために日々のストレスをその日に処理するためにクラウドを利用して配信することも可能となります。

診断・研究は脳のMRI画像,認知力、生活習慣、遺伝子情報などの包括データベースを構築していきます。

この分野はアカデミックとビジネス両面からみても新しいフィールドです。付加価値をつけた商品の開発、あるいは既存商品に付加価値をつけたサービス、商品の提供するベンチャー的事業となります。

認知症になってから考えるのではなく、子供の時から考えることによって、さらに健康寿命の延伸、医療費の削減を実現できるようになります。

瀧教授はすべての業種は生涯健康脳維持につながること、そのためには参加企業へあらためて産学連携の協力をお願いして、講義を終了しました。

今回からグループトークを先行し、その後に個別質疑の順番としました。

【グループトーク】

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グループ質疑は以下の通りです。質疑項目のみご紹介いたします。

<グループ1>
Q1. 脳画像による早期認知治療の必要性は分かったが脳画像以外の方法はあるのか。
Q2. 人間は脳に悪いことをどうしてやってしまうのか。

<グループ4>
Q1.脳の活性化度合はもともと各人が持っている能力によって異なるのか。
Q2.知的好奇心を起こす事例を教えてほしい。

blog160728sac1-4-8<グループ6>
Q1.一次予防への取組み推進策として企業の健康診断は有効か。
Q2.認知症予防として、子供と高齢者の関係づくりはどうか。

<グループ3>
Q1.脳機能の低下の加速の根拠と社会的要因は何か。
Q2.脳の中にある道が壊されると可塑性があり復元するのか、諦めるのか。 診断や人によって違うのか。

<グループ5>
Q1.60歳以上の方の要介護支援は全ての方に有効か。
Q2.企業とコンソーシアムつくるときの行政の介入などの手法は

<グループ2>
Q1.男女の違いはどうか。
Q2.知的好奇心の指標はあるのか。

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【個別質疑】

個別Q1.喫煙の良し悪しはどうか。
個別Q2.脳トレやクロスワードゲームはどうか。
個別Q3.高学歴をテーマとしたビジネス成功モデルはあるか。

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瀧教授は仕事の時間が95%を占めていたとしても、自意識の95%は趣味にあると、ご自身の生活習慣を例にとって説明してくれる場面がいくつかありました。それは子供時代に図鑑を見て好奇心を育て、日常で昆虫採集に明け暮れた体験と研究がつながっているからだそうです。

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参加者も、生涯健康脳を維持する研究が健康寿命延伸ビジネスへつながっていることを強く再認識できたようです。きっとおひとりお一人の生涯健康脳づくりも始まっていきそうです。
自ら実践してみる、その日常生活の変化を今後お聞きしてきたいと思います。

以上

(文責)SAC東京事務局

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