SAC東京2期コースⅡ第3回月例会 事務局レポート

6月21日開催 SAC東京コースⅡ第3回月例会 事務局レポート

blog160621sac2-3-2東北大学大学院農学研究科の都築教授による「和食は長寿食!?~伝統的日本食のすすめ~」です。身近な言葉が並ぶ分、どんな講義なのかを楽しみにしてのスタートです。

和食とは

「和食」のとらえ方が様々ある中、教授の定義する和食は「日本人の一般家庭での食事全般のこと」です。私たちの好きなカレーライスやラーメンも和食に入るという考え方です。
日本食=和食+日本料理

和食の特徴

多様で新鮮な食材と素材の味わいを活用
バランスがよく、健康的な食生活
自然の美しさの表現
年中行事との関わり

健康に良いとされた和食

ユネスコ無形文化遺産に登録された和食は、地中海料理と並んで健康に良いと認められています。野球のダルビッシュ選手の名言に「今日の身体は昨日までの食事でできている」とあります。この世に誕生してから今日まで何も不思議に考えずに毎日食事をしてきた私ですが、食べて生きる深い話が続きます。

ニンジンのカルチノイドが良いなどの評価はあるものの、食事全体の評価がなかったため身近な日本食をターゲットに研究をしてきたそうです。日本人にとって当たり前の日本食を研究テーマにするあたりが農学研究科の教授らしく、自分の身近なところに「研究のテーマ」があることを感じた参加者も多かったのではないでしょうか。

平均寿命世界一の日本

日本人の長寿に生活習慣病の多いアメリカ人が目を付けたそうです。アメリカ人の食事を研究していく中で、低カロリー、低脂肪など、日本食は健康に良いから寿命が長くなると評価されたのです。

日本食とアメリカ食

各食を一週間分(21食)献立作成してマウスでの研究がなされ、現代の「日本食」の健康有益性が認められました。「そりゃーそうだろう・・・」と思いながらもその根拠を求められると私は説明ができません。しかし、都築先生は医学的な根拠を示して説明していきます。

DNAマイクロアレイ

DNAマイクロアレイは医学・薬学の研究者によく使われます。食品などの研究ではあまり使われていない遺伝子発現量を評価する研究方法でした。教授の研究はここに着眼して「ストレス」「全体」「ファジー」に評価を進めていったそうです。

ストレス性が高いアメリカ食

アメリカ食はストレス性が高く、エネルギー(糖)代謝と脂肪代謝は減少という特徴が遺伝子発現量の研究で明らかになりました。アメリカ食に比べると日本食はカロリー制限されていると考察されたのです。ただ何となくではなく研究結果として明らかになったのです。

老化介入

加齢は病気ではなく、したがって少なくとも現在のところ加齢を“治療”し、その進行を止めること“防止”することも“予防”することもできない。しかし老化過程に介入してブレーキをかけて遅らせることは可能。

老化介入で老化を遅らせるという有益な効果のあるもの

・定期的な運動
・豊かな生活環境(さみしくない)
・カロリー制限食
・日本食?
・レスベラトロール(ただし、最近の研究では有効性に疑問が持たれている)
これらがたくさんの論文で明らかにされていることをおさらいしました。

カロリー制限と老化

研究は猿の段階まで進んでいます。そして、カロリー制限をした猿の方が健康で若々しく、寿命も4~5割延びたそうです。写真で紹介された猿の表情・体型などの比較では「やっぱり、長生きするなら健康の方がいいなぁ」と考えさせられます。

老化性疾患

がん
動脈硬化
糖尿病
メタボリックシンドローム
アルツハイマー病など
これらの病気が健康寿命への影響が大きいこと、加齢と共に発症しやすいことは分かっています。

50~60年で大きく変化した食卓の風景

孤食も増えた現代の日本の食卓です。米の摂取量は半減したのに対して、乳製品は4倍に増えています。データとして魚介類全体の増減はない様子ですが、カイ、エビ、タコが増加して魚は減少しているとも言われます。

今と過去の食生活の変化

1960年、1975年、1990年、2005年と4つの時代における日本食の実験で各時代の特色が見えてきました。そして、1975年の食生活が内臓脂肪(白色脂肪)も中性脂肪も少ないことが分かりました。カロリーは減らしていない1975年食ですが、カロリー制限したような効果が得られたのです。

現代の日本食に比べて1975年頃の日本食が肥満になりにくく、健康有益性が高いことが明らかになったのです。

blog160621sac2-3-1健康に有益性を持つ日本食は老化を遅延できるか

年代別日本食の長期摂取が老化に与える影響を検討したところ、1975年群は内臓脂肪がたまりにくく、血圧値も低値であり糖尿病にもなりにくいなどがマウスの実験でわかってきました。DNAマイクロアレイ解析においても、老化による糖尿病・脂肪肝の発症のリスク抑制が期待できたのです。

脳の学習記憶能の評価

マウス実験では受動的回避試験(パッシブアボイダンス)で脳の認知能も測定しました。それによると2005年群より1975年群は4倍の記憶力を発揮しました。老化度の変化、寿命測定、病理的所見においても1975年群は有意だったのです。

1975年の日本食が最も老化遅延に有効である

では、何が良かったのか?
日本食中のエネルギー比、PFCバランスや、イオン性代謝物、脂溶性代謝物、ミネラルを比較評価した主成分分析(PCA)においても1975年で高値であった成分を明らかにしていきました。

1975年の日本食に含まれる食品群

日本型食生活の有益性についての大崎研究において、ヒトを対象としたコホート研究が行われました。5年間に新規要介護認定(原因疾患別)者に対して「食事パターンによって要介護リスクは変わるか?」を調べたところ、味噌汁、魚類、大豆、果物、海藻、緑茶を多く摂取しているヒトは要介護リスクが低下し、牛肉、豚肉、コーヒーを多く摂取している人は要介護リスクが増加したという結果です。

日本型食生活は要介護リスクを低下することが分かり、1975年の日本食が意味のある食材であることが明らかになったのです。

健康的な日本食とは

日本食(和食)の特徴
・ごはんが中心
・出汁・発酵食品を上手に使う
・野菜・大豆・きのこ・果物・海藻をよく食べる
・青魚をよく食べる
・卵・乳製品・肉なども適度にとる
・毎日適度の緑茶を飲む
こういう食生活の人の要介護リスクは低いということです。

「ごはんが中心」は、ごはん好きの私にとって朗報でした。糖質制限ダイエット流行りで、ごはんを食べない人がたくさんいます。参加者の間でもたくさんの「?」が飛び交っているようでした。

「出汁・発酵食品を上手に使う」は素直にうなずけます。発酵食品ダイエットは女子の間で広まっていると聞いています。

「野菜・大豆・きのこ・果物・海藻をよく食べる」ことも、血圧や脳卒中・心疾患などとの関係を考えるとうなずけます。

「青魚をよく食べる」も不飽和脂肪酸を取り入れ心疾患に有意に働きます。

「卵・乳製品・肉なども適度にとる」。乳製品から摂るカルシウムは心疾患リスクを減少させ、久山町研究ではアルツハイマー病の発症リスクも低いとされています。この項目だけが「適度にとる」という表現であることに肉食の私は苦笑いをしました。肉は選んで適量にとどめなさいと教授に言われたような気分でした。

「毎日適度の緑茶を飲む」。緑茶(またはコーヒー)の摂取量が多いほど脳卒中発症リスクが低下することは分かっていますが、この頃あまり緑茶を飲んでいない気がします。

「お酒について」は適量飲酒をしている者が最も死亡率が低いというデータにニンマリした方も多かったようでした。

日本式食事(都築シート)

いろどり豊かに、おかずの種類を多く、様々な味を楽しむ。お菓子は週に1回程度。肉・魚介類は数日に1回程度。きのこ・いも・ごま・海藻・乳製品・卵は毎日1回程度。果物・大豆・発酵食品・野菜・魚は毎日2回程度。だし(出汁)・味噌・醤油・酢・みりん・(砂糖、塩)・お米(雑穀)・みそ汁は毎日2回以上。お酒は2日に1合。お茶は1日3杯。そして適度な運動による健康な身体づくりが教授から推奨されました。こんな食生活なら健康になれそうです。

まとめ

健康を維持するために多くの種類を少しずつ摂る日本型食生活が良いことが分かりました。ただしこれは現在健康な人が健康を維持するために良いことです。すでに病気の人や、未病(もうすぐ病気の人)の改善のためには、改善箇所を狙った食品が必要になります。また、疲れにくい身体づくりなど、パフォーマンス向上のためには別の切り口が必要ですとのコメントで講義は終了しました。

【アイスブレイクタイム】

blog160621sac2-3-3村田特任教授のもとで用語や意味の確認をしながら頭の中を整理していきました。その中で人の食生活が40歳位でかたまることを教わります。齢をとっても人は40歳頃までに慣れた食事を食べていくとのことで、時代の変化と共に食生活は変わりますが、個人としてはそんなに大きく変わらないというのです。男性は大病をした時、女性は妊娠・出産をした時位しか大きくは変わらないそうです。

SACの講義において「酒は毒」という説が多いです。今回、ネズミの実験でも極小のアルコールは全く摂らないより良いデータであることが再度確認されました。個人の適量を決めるのは難しいですが、「適量はゼロではないでしょう」の言葉に、少しお許しが出たようでうれしそうな笑顔が会場にひろがりました。

個別質疑タイム】(質疑のみ掲載)

Q1.長寿、認知症になりにくい食事は?
Q2.糖質制限が言われ、ごはんが悪者扱いされているが?
Q3.年代による調理方法の違いによる影響は?
Q4.主成分分析(PCA)において、なぜ第二成分に着目したの?
Q5.日本食はどのようにしてこのようなバランスの取れた形になったのか?

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【パネルトークタイム】

参加者代表の3名と教授によるパネルトークです。自己紹介、企業紹介の後、教授への質問と回答が繰り広げられました。一部を紹介します。

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Q.ごはん、みそ汁1日2回は多すぎないか?
A.神戸は週に1回、東北では1日に7杯のみそ汁を摂る。地域性を見ること。きのこ・ワカメは単独では食べにくいが、みそ汁だと摂りやすい。

Q.無機ヒ素を含め、米を食べるリスクは?blog160621sac2-3-14
A.日本では米を食べての健康被害事例はない。日本人ように白米を食べている人の方が多種を摂れている。

シリアルも多様性は増やした方が良い。流行りの腸内細菌においては、一点集中ではなく菌の種類の多さが良いといわれている。菌はそれぞれエサが違うので、たくさんの種類を摂った方が良い。食物繊維を増やすためには炭水化物が手っ取り早い。バラエティーは多い方が良い。と食品開発のヒントをいただきました。

Q.食事から摂りやすい成分とサプリの活用は?
A.食事から摂りやすい成分は個体差、世代差が大きい。20~30歳の年代はビタミン、ミネラルに関し男性はOK、女性は不足。30歳以上では水溶性ビタミンは男女とも不足。

例えば「尿の色が薄いからサプリを飲もう」などの知識があると良い。尿の観察でサプリを調整できるスキルがあれば豊かな生活になる。知識のない素人さんには聞き取り調査からその人に合ったサプリを勧めること。毎日魚を食べている人にはEPAサプリはいらない。シニア(60歳以上)は食生活が固定化しているため分かりやすい。これらの教授のアドバイスに「過剰摂取で尿に出ることは分かっていましたが、足りないものを・・・という考えはなかったです」と大きな収穫があったようでした。

blog160621sac2-3-15Q.日本食の献立にて、食物繊維の量・多様性などの解析は?
A.食物繊維のマウス実験での変化はなし。ヒトの実験は解析中。不溶性、水溶性、食物繊維のバラエティーと腸内細菌のバラエティーと類似しているが結果は出ていない。

Q.コーヒーは香りが重要なように、栄養素以外のデータは?
A.だしの香り。だしは味覚で感じていないため、鼻をつまむとだしの良し悪しは分からない。健康に関わることは予測される。うまくニオイを使えば塩分を減らすことも可能であろう。ニオイは重要なファクターです。

【会場からの質疑】(質疑のみ掲載)

Q1.地中海料理と日本食との比較は?
Q2.1990年の人達が高齢化したら平均寿命は下がるのか?
Q3.健康に留意するきっかけ提案は?

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ひとつ一つの質問に教授は丁寧に答えてくれましたが、健康に意識を持ち、健康寿命を延伸するのは自分自身です。
「健康の意識を高めることの大切さを感じました」との小川事務局長の言葉でパネルトークは終了しました。
以上

(文責)SAC東京事務局

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