SAC東京6期コースⅠ第4回月例会 事務局レポート

スマート・エイジング研究の実際

コースⅠ第4回月例会は加齢医学研究所 認知健康科学研究分野 野内 類 准教授による「スマート・エイジング研究の実際:認知機能を向上させる生活介入効果」が講義テーマです。

野内先生は、認知健康科学を専門とし、民間企業との産学連携を数多く手掛けています。本日の講義は、その多くの事例の中から認知機能を向上させる生活介入効果を中心に紹介されました。

研究テーマ:認知健康科学

認知的健康は「個人や社会に適応した柔軟で健やかで豊かな認知機能である状態」と定義付け、これを維持、促進する要因の解明や介入方法の開発と実証を行っています。

認知機能の生涯発達

認知機能とは情報を覚え、思い出したり、注目したり、判断したりする心の働きの総称です。ここでは認知機能検査の例として、世界標準のストループ検査などが紹介されました。

認知機能の多くは加齢と共に低下することがわかっており、高齢者の認知機能の低下は、生活の質を低下させ、MCI/認知症のリスクファクターになります。

健康な人を対象にしても認知機能が幸福感を予測する

20代から70代の54名を5年間にわたって縦断研究を行った結果、個人の幸福感はもともと認知機能得点の低かった人を除き加齢とともに向上することが判明しました。このことから、早期から生活介入などを通じて、認知機能を維持、向上させておく必要があるという知見が得られました。

認知機能を向上させる研究手法の紹介

高齢者の作業ストレス軽減を考慮して開発された「学習療法」による認知介入は、簡単な計算、音読、手書きなどのトレーニングにコミュニケーションを加えたものですが、できるだけ早く行うことによって脳活動が高まります。脳トレゲーム「大人のDSトレーニング」も同じ原理で認知機能向上に非常に有効であることが評価され、現在はタブレット型PC用のゲームにも応用されています。

認知介入による認知機能の向上

有酸素運動トレーニングと筋力トレーニングを組み合わせたサーキット運動トレーニングは、効果が出るまで42週間かかるとされていました。しかし、野内先生がカーブスで実験を行った結果、4週間のサーキット運動で広範な認知機能が向上することがわかりました。

また、1回のサーキット運動だけでも即時向上効果があり、トレーニングを複数回実施することで認知機能の長期向上効果があることも判明しています。

認知介入による日常技能の向上

車に乗った状態での注意トレーニングを高齢者に行った結果、運転技能が向上したため「自宅のTVで実施する脳トレによる運転技能・認知機能向上」の脳トレゲームを開発しました。6週間の介入によって運転技能の向上と認知機能(処理速度と抑制能力)が向上しました。

最終ゴール:個人に最も適した生活介入方法を提案

野内先生の将来的なビジョンは、事前に簡単な検査を行うことで、個人に合わせた生活介入方法が提案できる仕組みづくりであり、下記2点を掲げられました。

  1. 認知力を維持・向上させる最適な訓練を提供する積極的な個別・予防対策の展開
  2. 年齢を重ねても、元気に健康で暮らせる適応的な超高齢社会の実現

(以上で講義終了)

グループトークによる質疑(質疑のみ記載)

Q1.個人に最適化された生活介入方法の提案に最適な団体や発想はあるか?
Q2.サーキットトレーニングを一人で行うことと複数で行うことに差が生じるか?
Q3.個人向けの生活介入方法を提案する前の検査方法は具体化されているか?
Q4.高齢者に対して様々な介入を行う際、最適なアプローチ方法はあるか?
Q5.認知症の発症に関係のあるバックグラウンドはあるか?
Q6.トレーニングを楽しむものや気分が上がるものとして行うと効果を損なうのか?
Q7.「心の疲労度の変化」のグラフは長寿化に比例して増加するのか?
Q8.講義で紹介されていないお勧めの栄養素はあるか?
Q9.高齢者の社会活動支援や就労支援の観点から研究されたことはあるか?
Q10. 認知機能測定と聞くと高齢者が敬遠するので、他の手段で測定したことはあるか?

総括

村田特任教授よりポイント4点が示されました。

  1. 加齢とともに認知機能は低下します。認知機能が低めの人は年齢とともに心の疲労度も大きくなります。
  2. 認知機介入の効果検証の手法として、科学的なエビデンスレベルの高いはRCTが必要であること、高齢者には処理速度のトレーニングが効果的であることがわかりました。
  3. 運動介入は、1回の介入でも即時効果があることがわかりました。とりわけ、抑制機能が強化される点が重要です。
  4. 栄養介入ではカロテノイドとフラボノイドによる介入効果が注目されています。企業にとっても今後注目すべき点です。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

 

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