SAC東京コースⅡ第12回月例会 事務局レポート
3月15日開催 SAC東京コースⅡ第12回月例会 事務局レポート
「これから介護ビジネスはどうなるのか?」をテーマにSAC東京小川利久事務局長が講師を務めました。制度になって、まだ17年目の介護保険です。2018年には診療報酬改定と同時に変化します。「制度批判をしていても始まりません」の言葉は、制度の中で苦労してきた実践者の重みのある言葉でした。
高齢化率の推移+これからを読む
過去を知り、8年後の2025年を見据えることで、変化を先取りしていかなければならないとテーマの核心から講義が始まりました。営利企業を退職し、社会福祉法人の世界に入った小川事務局長の経歴に沿って、介護保険の歴史を理解していきます。
これからの介護のポイント
1.住環境の力
2.脳の力(認知症ケア)
3.食べる力(食力)
4.生きる力(看取り援助)
統合化 Integrated
この4つの力がバラバラに援助されていてはいけないと、全人的に関わるためのマネジメントシステムを考察します。全てのサービスを統合して提供する力が生活を安定させ、経営の安定につながります。この安定が地域貢献へ発展し、もちろん利用者が幸せになっていく仕組みです。
1、 住環境の力
高齢期に住みやすい住環境を考えていきます。建物をシェアする共同住宅から、暮らしをシェアする共同居住へ変えていく意味が分かってきました。我々は、プライバシーを大切にした結果、社会とのつながりを遮断し、家庭内でも個別化し過ぎました。最近流行りのシェアハウスのような「個の空間」と「共有する空間」のバランスが高齢期には特に必要なのです。
老人ホームは共同居住の場:ユニットケアの意味を知る
家庭のような空間を求めて介護単位が小規模化してきました。6人部屋や大規模空間での老人ホームの研究データでは「24時間一緒だと他人を無視するようになる」ことが分かりました。相部屋で、大勢で、仲良く暮らすイメージが吹っ飛んだ参加者も多かったようです。一時的な入院のように、退院日まで我慢すればよいのではありません。同室の人の存在を無視して暮らす場所を終の棲家にすることには無理があることが実感としてわかるデータでした。
車イスで生活が変わる
「メガネは個別なのに、車イスは個別でなくてよいのか?」と車イスで変わる姿勢と移動から考えました。歩けなくなっても、車イスの自走(操)ができれば自分で移動ができます。体格の違い、不自由な部位の違いなど、車イスが使う人にマッチしていることが大切なことが分かりました。パラリンピックでの車イス選手が思い浮かびます。車イスなどの補助具は使う人の手となり足となる大切なモノです。施設にある車イスで十分だと考えることで「移動する自由を失う」のであれば悲しいですね。
個室のマイ・トイレ
誰かに連れていってもらわなければ行けないトイレは辛いものです。好きな時に、自分の力でトイレに行けることの大切さを考えました。排泄の自立は生きる気力を促してくれます。夜間トイレの電気を付けたままでフタも開けておくと、認知症でも自立して排泄できる方が多いです。
浴槽やオムツで変わる介護労働
介護職員の離職の理由は、実は体調不良が多いのです。その代表に、入浴介助で濡れた職員が風邪をひくということがあります。ノン・リフティングの浴槽ならば、抱きかかえなくても介助ができ職員は濡れません。全裸で介助される利用者にとっても嬉しい機能です。オムツも生活には大切な要素です。介護する側にも、される側にも良いものを求めてきた商品がたくさんあります。
2、脳の力
認知症ケア:認知症になっても安心して住めるまち
病院の中で何とかしようとしてきた認知症は、かつて「薬物療法」が中心でした。しかし、ケアとは薬で何とかすることではありません。認知症ケアは「非薬物療法」へと変わってきました。もちろん、認知症のもとになっている病気には薬が効果を示し、結果として起こる周辺症状(BPSD)を軽減する薬も必要なことは多いです。
認知症を病気と考えると「病気を治す」ために医療に依存しがちです。しかし、実は認知症になったことだけならば問題は大きくありません。多くの場合、認知症になったために起きる生活上の障がいに苦しむのです。その生活上の障がいを受け入れて生きることが必要なのだと小川事務局長は説いていきます。認知症は「病気」ではなく生活上に起こる「障がい」であると捉えなおすことが提言されました。
学習療法
非薬物療法の「学習療法」で成果を出してきた活動が紹介されました。認知症は脳の気質障がいによっておこる状態であり、学習療法は脳(前頭前野)を活性化させ、笑顔で即時にフィードバックするケアによって中核症状の改善を促します。周辺症状の改善によって情緒が安定すれば認知症も怖くありません。
認知症の種類と誤診
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、ピック病の疾患別症状が示されました。この分類さえ分からない医師が多い現状です。介護現場ではケアの工夫で認知症をみてきましたが、正しい診断がなされず、さらに合わない薬で悪化している方も多いのです。関係者が学ぶことの責任を感じます。
3、 食べる力
食べる力の支援:高齢期の誤嚥性肺炎予防
口から食べることが難しくなった高齢者の生きる力を支える実践が嚥下内視鏡の動画を使って紹介されました。我々が毎日使っている「ノド」ですが、その仕組みを正しく理解できている人は決して多くはありません。食品メーカーはもちろん、多くの業種で説得力のある企画や営業のためには知っておくと良い摂食・嚥下機能評価の取り組み事例です。介護保険施設には口腔衛生(口腔ケアで肺炎を予防)と経口維持(食べて生きる)が求められています。
4、 生きる力
看取り援助:どう生ききりたいのか
「終末期に近づいた高齢者は病院で死ねなくなりました」と講義は進みます。「特養にたどりついた人を、又、どこかへ送り出すことは、僕は虐待だと想う」と強い覚悟を示した小川事務局長です。社会福祉法人における特別養護老人ホームの施設長時代、たくさんの「いのち」と向き合って来た実践者の強い意志を感じました。
介護保険はサービスであり、選択も自由です。しかし、実際、要介護高齢者はたくさんの苦労の道を経て特養ホームにたどり着くのです。「ここで死ぬまで生きたい」と希望する人に「生きていてよかった」「ここにたどり着いてよかった」と思ってもらえる施設作りをしてきた小川事務局長でした。
「自分の親と話をしたことがありますか?医療施設は生活を犠牲にして治療をする場ですよ」
看取り援助で関係者(利用者・家族・職員・医師・地域など)がハッピーになるためには施設職員の教育が必要です。制度を根拠に行う介護サービスですが、正しい説明ができる職員は100人に1~2人程度だそうです。職員がそのレベルですから、家族や地域住民が理解を得ることはもっと容易ではありません。参加者たちも「自分のこととして」いのちを考える時間となっているようでした。
これからの介護ビジネスはどうなるのか
やっと本日のテーマに到達しましたが、この課題に取り組むには介護業界・介護の現場を正しく知らなければならないのです。介護費用は膨らむ一方ですが、社会保障費の財源はなかなか増えることはありません。自己負担を増やすか、サービスの質を下げるか、自分で何とかするか、国に頼っていても簡単に解決してくれません。介護ビジネス創出の糸口をつかみ取るために、介護現場の喜びと悩みをもっと知りたいという参加者の皆さんの気持ちを感じました。
介護保険サービスの周辺事業
1. 要介護者と家族のニーズを知ること
2. 介護事業者が困っていることをサポート 人材活用、経費の削減
3. ニーズの変化に対応すること
4. 重度化対応(認知症、食べること、看取り)
5. 住環境を整える、古い施設の改修、建替えシステム、安価なスプリンクラーの開発など
6. 介護サービスを統合する
7. 地域モデルを作り上げる
介護保険サービス外サービス
1. ターゲットを定める
2. 介護保険が提供できないサービスを提供する
3. 生活総合支援サービスのシステム化
4. ICT、AIの応用と新たな開発
5. 教育&情報システムの開発
6. まちづくりの視点で考える
7. 日本からアジア市場への広がりにチャレンジする
異業種と手を取り合うことに意味がある
参加者の皆さんの中には理解が追い付かない表情も見えました。しかし、制度が分からない参加者の声こそが国民の声であり、そこにヒントがあるのです。様々な企業が協力し合うことで、日本の未来を作っていくしかありません。SAC東京の参加企業どうしの異業種協働に期待を寄せて講義は終了しました。
【アイスブレイクタイム】
「なぜコースⅡの最後の講義が介護なのか?」は、高齢化する社会で「これを知らずしてスマート・エイジングは語れない」と深堀りしていく村田特任教授です。メディアの情報に踊らされない力を身につけなければいけません。都市と地方が同じ考え方や取り組みをしていては無理があります。制度は同じですが、地域モデルを作っていくしかありません。そんな思いを共有しながら、介護業界での専門知識をかみ砕きながら理解を深めていきました。
【個別質疑】
企業の優秀な研究者も多い参加者ですが、まだまだ介護の専門知識の理解は薄いのかもしれません。小川事務局長が伝えるケアは、単に「介護を受ける」ことではありません。もちろん「何でもやってあげる」ことでもありません。質疑応答をうなずきながら聞き入る参加者の顔が他人事ではなくなっていく様子が見られました。
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Q1.独立性を保ちながら、どの部分をシェアしたらよいのか?
Q2.学習療法の実践において具体的にどういった効果がありましたか?
Q3.2025年問題、場所・サービス・役割分担等の理想の連携は?
【パネルトークタイム】
3人のパネリストから、年齢の違い、地域による違い、活動の違いから介護への想いが語られました。パネリストと会場からの質疑を中心にテーマを深めていきました。
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Q1.在宅支援において、メーカーはどのような価値のあるものを提供できるか?
Q2.賃金・待遇だけでなく、医療・介護の仕事に誇りをもってもらえることは?
Q3.エンディングノートが普及するには?
Q4.今後、介護スタッフ不足でユニットケア(個別援助)ができなくなるのでは?
Q5.介護施設では、入居者の宗教観へも個別に対応しているのか?
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Q6.生活用品を施設向けに開発しなくても、個人が持ち込んで良いのか?
Q7.学習療法はどうすればもっと広がるのか?
Q8.地域包括ケアを海外に広げられるのか?
Q9.介護保険は重度者対応が主となるが、軽度者向けに企業ができるサポートは?
Q10.介護保険外サービスについてもっと知りたいのですが。
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医療(病院が多い)が充実している地域は施設や在宅での看取りが進んでいない日本です。また、「看取り」は死の問題ではなく、生ききるための課題として取り組まなければならないことを考える機会となった参加者が多かったようです。
【総括コメント】
措置の時代から介護保険サービスの時代になりましたが、17年たっても供給側が中心となるサービスが多く、サービス産業としては道半ばです。人生を豊かにするために、必要で価値があればお金を出してでも手に入れたくなる介護サービスが求められています。今の日本人が「介護保険制度」に捕らわれ過ぎていることを考えさせられました。
近年、介護業界の若い経営者は他の業界から参入してきた人が多く、介護福祉の業界のことしか知らない人より新しい動きをし始めています。イノベーションを起こすには、業界の中の目のみではなく、異業種の目こそがビジネスチャンスにつながるのです。
究極のケアは、その人をケアすることではなく、その人に「人のため、社会のために何かをやってもらうこと」と語る若きイノベータのように、これからの介護ビジネスを担うのは自分たちの価値観の変容であると感じた参加者でした。
(文責)SAC東京事務局
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