SAC東京コースⅡ第8回月例会 事務局レポート
11月24日開催 SAC東京コースⅡ第8回月例会 事務局レポート
「五感を介した感性特性の分析と評価」をテーマに東北大学文学研究科、心理学講座の行場次郎教授の登壇です。「濁音の多い名前で堅苦しく思われがちですが、堅苦しいのはキライです」と笑顔の自己紹介でした。
これからはロボットが伸びていくでしょう
「アトムの世界を楽しみにしていましたが、2016年、まだそうなっていないよね」と、ロボットの活躍社会と比較して介護犬の進歩を紹介しながら、いまだ生体の方が人間のサポートに役立っている現状の理解から講義は始まりました。
知性と感性の一般的定義
知性とは、物事を知り、覚え、考え、判断する能力。比較・抽象・概念化・判断・推理などの機能。感性とは、物事を感覚的に、直感的に感じ取る能力。実感、体感、共感する機能と定義付けされました。この二分法に情動が加わり三分法となり、感性は知性と情動をクッションのように支えているそうですが、感性に相当する言葉は英語にはないことに驚きました。
感覚の大分類
体の外側にある刺激源を感知する外受容感覚。自己の姿勢や動きに由来する刺激源を感知する自己受容感覚。体の内側にある刺激源を感知する内受容感覚があります。また、刺激源が遠くにあっても検知できる視覚、聴覚などの遠感覚と、刺激源が近くにないと検知できない皮膚感覚、味覚などの近感覚に分類されました。普段意識しない自分の「感覚」も、このように分類されることで、素晴らしい機能であることを再認識しました。
五感ではたりない多様性
視覚、聴覚などが影響しあうことを、映像と音響で紹介されました。美味しそうなりんごを食べる音に比べ、その音が弱ければ軟らかいりんごに感じます。単にうるさい水の音も、滝の映像と合わせると心地よく感じられました。普段意識しないこの感覚を探っていきます。
空間感性
臨場感と迫真性は空間感性として異なった独立した感性である可能性が高く、正しく評価される必要があります。オーケストラの例では、臨場感は多少の音や映像のズレは問題ありませんが、迫真性はピッタリとあっていないといけません。なるほど、確かにそうです。
臨場感と迫真性の両方の感性を鑑賞者が求めていることは、サッカー観戦において競技場の大画面で臨場感にひたりながら、個人の携帯端末でスロー再生して迫真性を味わおうとする行動に表れているようです。落語では、そこにはない「そばを食べる」姿を、私たちが頭の中で補完しています。たくさんの事例で講義しながら、「研ぎ澄まされた感性へ進むといいですね」という先生の言葉を、日本人が大切にするわび・さび(侘・寂)の感覚で受け止めたのは私だけではなかったと思います。
感性を計る方法
SD法では一般に評価性因子、活動性因子、力量性因子が抽出されます。これらの3因子は、印象評定の対象を変えたり、文化や言語の異なる回答者を対象とした場合でも安定して抽出されることが多いそうです。顔への応用、顔と名刺のペアの再認、形状情報・テクスチャ(濃淡)によるものなどがMD法とともに紹介されました。
応用可能性:例)アレキシサイミア
心身症患者に特徴的であるアレキシサイミアへの応用例が紹介されました。アレキシサイミアは情動の認知・言語化の一連の障害を特徴とする一方、生体にとって心理的なストレスに対する適応機制の側面も考えられ、過酷な環境に対する一種の生体防御機能であるとも言われています。脳科学研究と結びつけることは、これらの傾向のある人の支援に有効な手立てとなるようです。
【アイスブレイクタイム】
村田特任教授による用語の理解に参加者の期待が感じられます。質問への行場先生の言葉をひろってみました。
1. 空間感性の定義について
テーブルの花は自らの感性で空間を創出している。料理の盛り付けはハンバーグにキャベツを添え、プラスアルファの工夫でミニトマトを添えるなど空間をアレンジして食べる人と共有している。食べる人のことを考えて作ることが、人との出会い、物との出会いであり、活動の共有に必要な感性なのです。我々は、日ごろから花を置いたり、アクセサリーを飾ります。こうした空間を作り、共有する人間の性質が空間感性なのです。
2. 空間感性について
臨場感より迫真性が日本人らしく重要。墨絵の濃淡、空白の多さは、想像しながら観る人が補完する部分です。観る人の感性で完成させます。
3. 臨場感と迫真性の両方の感性を求めている
迫真性は日本人の「日本的おもてなし」のような感覚の世界にメスを入れて研究してきました。
参加者の感性によっては感じ方、とらえ方も異なるのでしょう。私の感性も磨きが足りないようですが、行場先生の言葉は心に染み入ってきます。
【個別質疑】
Q1.芸術家の人の感性と迫真性の関係は?
Q2.評価性を高め、企業開発に活かすためには?
Q3.脳イメージングと感性の関係は?
![]() |
![]() |
【パネルトークタイム】
3名のパネリストの自己紹介・企業紹介から始まりました。事情活動内容を興味深く聞く参加者たちです。参加企業同士の連携や産学連携もいろいろなところで繰り広げられてきました。パネリストの質問を中心に、講義内容を深堀りしていきます。
![]() |
![]() |
![]() |
パネリストからの質問
Q1.質感研究を日本がリードしている理由は?
Q2.バーチャルとリアルのギャップストレスは臨場感・迫真性と同じか?
Q3.スマホアプリはバーチャル空間か?
小川事務局長が、感覚・感性・知性のピラミッド(概念図)のおさらいをしながら「感性を磨くことは知識・経験を重ねて磨かれるのか?」の質問をしました。
「感性も放置すれば錆びます」と、情動と知性の間にある感性は知性と一体化しており、三分法が絡み合って磨かれていくと回答されました。
会場を交えての質問
Q4.会議室で議論するのと、非現実的な所で議論するのとではどちらが良いか?
Q5.活動的に運動する中で変化する感性の男女差は?
Q6.感性を研ぎ澄ます方法は?
Q7.旅行に対して日本人の感性と外国人の感性の違いは?
Q8.開始時の報酬は高いが、続けていると報酬が下がるのは?
![]() |
![]() |
パネルトークの中での行場先生コメントより
・「ちょうど良い」を大切にする日本人。モノだけでなく、空間を大切にしてほしい。
・ハリウッド映画は情報過多のため引き算感覚。邦画は補完、足し算の原理。
・アレキシサイミアは40~50歳代では減り、60~70歳代に上昇する。
・男性は自分の感情を外の原因に帰属させる。外との接点が少ない女性は歳を重ねると感情を表せなくなる。
・日本人はハリウッドに憧れ、外人は日本文化に憧れる。ないものねだり。
・自分の育った文化で補完する。
60分の講義では理解が難しかった部分も、アイスブレイク、パネルトークと質疑によって気付くことがたくさんありました。感性と多種類の感覚との関連性、およびその脳内基盤が明らかになってきたことに期待して月例会は終了しました。
(文責)SAC東京事務局
過去のSAC東京月例会 事務局レポートはこちら
過去のSAC東京月例会 参加者の声はこちら
あわせて読みたい関連記事
- SAC東京コースⅡ第8回月例会 参加者の声
- 自分の身体ではなく、自分の行為への気づきが、運動能力を向上させる
- THE世界大学ランキング日本版2020で東北大学が1位に選出されました
- 日本経済新聞、日刊工業新聞にSAC東京関連記事が掲載
- SAC東京4期コースⅡ第4回月例会 事務局レポート