ストレス対応で宇宙環境に身体をアジャスト! 〜ストレス応答性転写因子Nrf2の宇宙における脂質代謝調節〜
12月8日開催コースⅡ第9回月例会にご登壇された山本雅之教授の研究「ストレス対応で宇宙環境に身体をアジャスト! 〜ストレス応答性転写因子Nrf2の宇宙における脂質代謝調節〜」について、講義中にもお話ありましたが、下記をポイントとして発表がありました。(以下、抜粋)
- 国際宇宙ステーション(ISS)に約1ヶ月間滞在したマウスから微量の採血を行い、血液成分の網羅的な解析を行ったところ、血液中のリン脂質やコレステロールが上昇し、中性脂肪が低下していました。
- 各種組織の遺伝子発現量の検討では、白色脂肪組織で中性脂肪を貯蔵させる変化が、また、肝臓では血中リン脂質を増加させる変化が生じていました。
- これらの代謝の制御に働くNrf2の遺伝子ノックアウトマウス※1ではこういった変化は見られず、転写因子※2Nrf2が宇宙環境における代謝変化に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
【概要】
宇宙環境における生体の代謝反応とその制御メカニズムの解明は、長期の宇宙滞在における健康維持にとって重要です。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究グループは、宇宙滞在で引き起こされる代謝変化に関する知見を得ました。
今回の研究では、マウスの血液中の代謝物の精密な解析を行い、宇宙滞在がリン脂質やコレステロールの濃度を上昇させる一方で、中性脂肪濃度を低下させることが明らかとなりました。また、各種組織の遺伝子発現量を調べたところ、それぞれの組織で脂質を調節する遺伝子の発現量が変化していることがわかりました。さらに、様々な遺伝子の発現を調節し、様々なストレスから細胞を保護するNrf2の遺伝子をノックアウトしたマウスを宇宙滞在させたところ、同マウスではこのような変化が見られませんでした。すなわち、Nrf2が宇宙滞在の際の生体維持に必要な代謝制御に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
本成果は、学術誌Communications Biologyオンライン版で12月9日に公開され、研究データは、ToMMoとJAXAが共同で開発した「データベースibSLS」で公開されています。
【用語解説】
※1 遺伝子ノックアウトマウス
遺伝子工学手法を用いて、染色体の遺伝子座に変異を導入して、特定の遺伝子を無効化した遺伝子改変マウス。遺伝子産物の機能を調べるために重要なモデル動物である。
※2 転写因子
DNA に結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質の総称。
タグ:NRF2, 宇宙マウス, 山本雅之, 東北メディカル・メガバンク機構, 遺伝子
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