SAC東京6期コースⅢ第12回月例会 事務局レポート

どのような油脂をどれくらい摂取すれば健康によいのか?

コースⅢ第12回月例会は、未来科学技術共同研究センター 池田郁男教授による「どのような油脂をどれくらい摂取すれば健康によいのか?」が講義テーマです。

池田先生の専門は、脂質栄養、動脈硬化症を予防する機能性食品成分の基礎研究です。コレステロールや脂肪吸収を抑制する食品成分の作用機構解明研究を行い、産学連携として、いくつかの特定保健用食品の開発にも関わっています。

油脂(油、脂肪、脂質)

油脂は、油、脂肪、脂質などと呼ばれ、グリセリンに脂肪酸が結合して構成されています。4種類ある脂肪酸のうち、n-6(ω6)系多価不飽和脂肪酸n-3(ω3)系多価不飽和脂肪酸には、ヒトが必ず摂取する必要があるリノール酸α-リノレン酸が含まれています。

厚生労働省は、日本人の食事摂取基準2020で生活習慣病の一次予防、重症化予防、高齢者の低栄養やフレイル予防を目的とした脂質の摂取基準を設定しています。しかし、日本でのヒト研究事例は少ないため摂取基準の明確な根拠が無いとのことです。

総脂肪摂取量

食の欧米化に伴い、脂肪摂取量は年々多くなっていると思われがちですが、1985年以降からほぼ横ばいで、一日あたりの摂取量は総脂肪で60g前後のままとなります。

脂肪摂取基準の目標量は、20~30%エネルギー(%E)とされ、重量に換算すると女性36~55g/日、男性46~69g/日となります。日本人の現状は、男性50歳以上、女性70歳以上を除いたどの年代の中央値も30%近くあり、摂取量に注意が必要のようです。

2012年の海外の研究論文では、ヒト介入試験のメタ解析で死亡摂取量と循環器疾患に関係性が無いとされています。しかし、現在は摂取量の上限を超えると肥満や糖尿病、メタボリックシンドローム、冠動脈疾患リスクが増加すると考えられています。

脂肪摂取量の8割は、見えない油(肉類、乳・卵類、魚介類、穀類、豆類等)で決まるため、脂肪摂取量だけを減らすことは簡単ではありません。摂取量の多い人は、肉の摂取量が多い傾向にある一方、高齢者は良質なタンパク質である肉の摂取不足に注意が必要となります。

油脂の質(脂肪酸の種類の違い)

以下の脂肪酸の種類の違いが説明されました。

  1. 動物性脂肪:固形脂:ラード、牛脂、動物性食品
    ① 飽和脂肪酸:パルミチン酸など
    ② モノ不飽和脂肪酸:オレイン酸
  2. 植物性脂肪:液体脂:植物油、植物性食品
    ① 多価不飽和脂肪酸:n-6系のリノール酸とn-3系のα-リノレン酸
    ② モノ不飽和脂肪酸:オレイン酸
  3. 魚由来脂肪:EPA、DHA、DPA(n-3系)
    ① EPA-エイコサペンタエン酸
    ② DHA-ドコサヘキサエン酸
    ③ DPA-ドコサペンタエン酸

 動物性脂肪である飽和脂肪酸は、牛肉の霜降り部分やラードなどの動物性食品に多く含まれます。過去の欧米の研究では、血漿LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)を上昇させ冠動脈疾患のリスクを高めることが言われてきました。しかし、近年、有意な関連は認められないとの研究報告が多いそうです。

植物性脂肪であるn-6系多価不飽和脂肪酸は、主にリノール酸を指し植物性食品や植物油に多く含まれます。同じくn-3系多価不飽和脂肪酸は、植物性食品に少し含まれるα-リノレン酸と魚介類に含まれるEPA、DHAが代表的となります。リノール酸、α-リノレン酸ともに必須脂肪酸ですが、必要量は少なく日本人が不足する心配はないとのことです。

その他、動物性食品にも植物性食品にも含まれるモノ不飽和脂肪酸や、マーガリンやショートニングに多く含まれるトランス脂肪酸が紹介されました。ともに、通常の食生活での摂取量で問題は無いようです。

機能性が期待される中鎖脂肪酸

最近、機能性で注目されている、中鎖脂肪酸について説明がありました。

  1. 以前から行われてきた疾患への利用
    ① 脂質異常症、慢性腎臓病患者、手術後の未熟児のエネルギー補給
    ② てんかん発作の予防
  2. 健常者への利用
    ① 体脂肪蓄積予防
    ② 低栄養のエネルギー補給
    ③ スポーツ時の持久力向上
  3. 新たな利用(今後の研究が必要)
    ① サルコペニア、フレイル改善
    ② 認知症改善

サルコペニア、フレイル改善に関しては、中鎖脂肪酸とたんぱく質の強化で脳卒中患者の摂取エネルギーの改善、体重や骨格筋量増加、日常生活動作の改善が報告されています。また、アルツハイマー型認知症における中鎖脂肪酸の症例観察研究においては、記憶力や認知機能の改善に効果がありそうだとする多数の報告がありました。まだまだ研究が必要なようです。

油脂(脂肪酸)の摂取の考え方

現状、日本人がどのような脂肪酸をどの程度摂取すればよいのかは、エビデンスが不十分で明確なことは言えません。但し、飽和脂肪酸は高齢者の摂取不足を除いて摂取過剰に注意が必要です。また、見える油の植物油は全体の14%しかない為、食品中の見えない油を考慮しなくてはなりません。

そこで、食事のバランスが重要となります。農林水産省、厚生労働省が提示している食事バランスガイドを参考にして、栄養とカロリーのバランスを取ることが重要となります。

(以上で講義終了)

〔グループトークによる質疑〕(質疑のみ記載)

Q1.オリーブオイルは過熱すると酸化の影響があるか?
Q2.中鎖脂肪酸(MCT)以外で認知症効果がある油脂はあるか?
Q3.学術理論が実社会に落とし込まれるまでどのくらい時間がかかるか?
Q4.個体差や人種の違いによって油の消化力に差はあるか?
Q5.魚を週2~3回食べて摂取過多による冠動脈疾患にはならないか?
Q6.中鎖脂肪酸による認知症改善はどのような仕組みなのか?
Q7.背油の非常に多いラーメンを食べ続けると体にどのような影響を与えるか?

〔総括〕

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

  1. 本日の講義を消費者の立場で聴いた場合、欧米の研究データは必ずしも日本人に適応できないということが分かりました。理由として比較のベースが違うこと、すなわち飽和脂肪酸の摂取量が違い、心筋梗塞の発生による死亡率も違うという背景が挙げられます。一方、日本は研究エビデンスが不十分であるため、現状の日本人の摂取量が適量であるということが示されました。あらためて、機能性を訴求している商品のエビデンスレベルを確認することが重要であると認識しました。
  2. 売る側の立場で講義を聴いた場合、事実に基づく記述表現が重要であるということです。インターネット普及で消費者のレベルも上がっています。最近の例で言うと、免疫力アップの表現も気を付ける必要があります。
  3. 池田教授の表現にならえば、色々な情報に対し、まず信じないということが重要です。そこからスタートして、どれなら信じられるのかというアプローチをすることです。信用度の高い情報ソースは何か、そしてその情報ソースを複数持っていることが重要となります。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

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