SAC東京6期コースⅠ第12回月例会 事務局レポート

なぜ、今「看取り介護」なのか?―死の看取りから生ききる援助へ―

コースⅠ第12回月例会は、東北大学ナレッジキャスト株式会社、生活を支える看護師の会 会長 小林 悦子ファシリテーターによる『なぜ、今「看取り介護」なのか?―死の看取りから生ききる援助へ―』が講義テーマです。

小林講師は、介護施設での看取り介護を専門とし、核家族化した日本において「介護施設が支える新しい看取りの文化」を提唱しています。2006年から勤めた特別養護老人ホーム(東京都足立区)の看護職員として、生ききるための看取り介護の仕組みを確立しました。その後、施設長職を経て、2014年には「生活を支える看護師の会」を設立、主宰しています。現在は、セミナー等を行いながら「生ききるための看取り介護」の普及活動を行っています。

看取り介護とは

 全国老人福祉施設協議会の定義において「看取り介護」とは、近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援することとされています。

 「生ききる」とは

「生ききる」とは、望みを叶えて生きて死ぬことであると説明されました。近年、高齢者介護の現場では「生ききる」を援助する大切さが語られています。そして「生ききる」を援助するとは、本人の望みを叶えて生きて死ぬことを援助する、すなわち「看取りを援助する活動=看取り介護」と示されました。

看取り介護の対象者が望むこと

 厚生労働省の2018年度の調査では、国民の7割が自宅や介護施設での最期を希望しているにも関わらず、実際は7割以上が病院で亡くなっています。

特別養護老人ホーム(以下、特養)での看取り介護の対象者は、医師により医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断された人たちです。その多くが病院で死ぬことを望んでいません。これらの事実から、看取りの準備の必要性について理解を深めていきました。

看取り介護は、社会情勢の変化から医療費削減策を考慮して始まった国の施策ですが、実は、生活の場である自宅や介護施設で最期を迎えたいと希望している国民のためのサービスなのです。介護事業者は、この人たちに対して生ききる援助を提供することが必要であると強調されました。

 看取り介護の重要ポイント:特養の事例に学ぶ

 看取り介護を有意義に行うには、入居者の人生の歴史を知ることが大切です。どんな人生をどんな想いで生きてきたのかを知らないままでは、この先の人生において「望みを叶えて生ききる」を援助することができません。実際に行われた看取り介護の事例から、その意味や意義を感じ取ることができました。

本人・家族の望みを叶えることを追求する

やり残したことはないか、この先の人生をどのように生ききりたいのかを本人、家族、施設職員で考えます。本人から聞き出せないことは、家族と相談しながら見つけ出し、少しでも望みが叶うように援助します。それは死を見据えた個別ケアプランとなり、看取り介護へのケアプラン変更となっていくのです。

介護保険は、家族が後悔しない看取り介護を求めています。本人の望みを叶えると同時に、家族の望みを叶える必要があるのです。なぜなら、特養等では意思決定や契約に同意するのは殆どが家族だからです。しかし、多くの家族が特養等における介護サービスを正しく理解できていません。

看取り介護家族勉強会で家族に情報を提供

そこで、家族に対して看取り介護勉強会を開催しました。介護保険と医療保険の違い、医療の限界、老いるということ、特養にできることとできないこと、これらを家族に理解してもらい、選択できる力を身につけてもらいます。

選択できる知識や情報を家族に提供した上での具体的な個別相談では、「生ききる」ためのポジティブなケアプランができるようです。入居者の生き方を決める家族への意思決定支援(道先案内)がいかに重要であるかが分かってきました。

看取り介護家族勉強会の詳細が紹介されました。「看取り介護の同意」が整っていれば、施設内で嘱託医が死亡診断します。しかし、看取り介護の同意がないケアプランでは施設内の死亡は認められません。救急搬送を依頼しますが、死亡時は警察が介入します。高齢者の人生の最期が慌ただしい事件・事故になってしまうのです。

また、高齢者の誤嚥性肺炎について正しい知識を持つことも重要です。多くの高齢者は食べることが楽しみですが、食べることに危険を伴う嚥下状態の方も多いのです。その原因の殆どが、病気ではなく「老い」による機能低下であることを考えさせられました。そして、死ぬ時までの生活を援助する看取り介護が高度な技術に支えられていることを知りました。

介護施設への入居を「離れに引っ越した」とポジティブに考える提案が示されました。看取りの相談も「生ききるための準備」と考えると気持ちが楽になります。看取り介護勉強会では、このように看取りに対する偏見を取り除き、家族が受け入れられるよう導くそうです。

 最期までその人らしく生きる権利を守る

看取り介護加算算定要件で管理されている看取り介護は、決してあきらめの介護ではないことが分かりました。近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援するという看取り介護の定義が理解できてきました。

看取り介護で成長(変化)する施設たち

看取り介護による施設側の成長として、下記4点が説明されました。

  1. 組織マネジメントの変化:自施設での完結、生き続けるから「生ききる」へ
  2. 家族との関係性の変化:チームケア、家族の資源を活用(引き出す)
  3. 達成感、やりがいの変化:家族=(親)孝行の達成
               :職員=やりがいの獲得、楽しく働ける職場
  1. 介護という仕事の価値の変化:スマート・エイジング

看取り介護は、施設の安定した経営のためにも大切であることが強調されました。介護施設の人員不足は、多くの場合、仕事に魅力がないからです。そこで小林講師は、介護職員が仕事を楽しめる仕組みを整えてきたそうです。

家族や職場仲間と看取り介護の達成感を認め合い、担当職員の労をねぎらう機会としてのお別れ会は参加者にも好評でした。看取り介護からの学びで介護職員は育ち、地域でも評判になり、働きたいという人も集まって来るそうです。一方、全ての特養がこのような水準で活動している訳でありません。

 介護施設において、生ききることを求める人が増えていることが分かりました。看取りの時期は自ずと介護量が増え、職員は施設内の生活を援助するだけで精一杯だそうです。望みを叶えて生ききって欲しい願いを施設の力だけに頼る時代ではないことが分かります。

そこで、施設が望む支援にビジネスチャンスがあることを、下記、具体例を交えて紹介されました。

  1. 外出支援:「温泉に行きたい」=企画・運営・同湖までのサポート
  2. パーティの開催:「本人が主催者」=感謝される存在としての満足を獲得する
  3. お葬式・お別れ会:職員手作りのお別れ会と葬儀を合同開催

家族だけの力では外出や食事会、ドライブさえも実行できない方が多いようです。そこで、介護事業者以外の異業種による「生ききる力を支えるサービス」が必要となります。

連携企業は、高齢者の自律支援を支える仲間としてサービスを提案・提供・協働する際に、自社製品にも付加価値が生まれる可能性があります。

人生100年時代、異業種企業の多くの参入により、介護施設の看取り介護をさらに質の高いものに変えて欲しいという願いが込められ講義は終わりました。

(以上で講義終了)

〔グループトークによる質疑〕(質疑のみ記載)

Q1.医療と介護のどちらに頼るのか、判断基準となる考え方はあるか?
Q2.入居者本人の判断が難しく家族も非協力的な場合どう対応するのか?
Q3.身元引き受け人や相談相手となる家族がいない場合の対応策は?
Q4.看取りにおける医師の判断に遠隔医療が適応されている例はあるか?
Q5 看取り介護を量と質で測った場合、質を高める要素は何か?
Q6.お一人様が増え入居者が契約者の場合、本人の意見はどこまで尊重されるか?
Q7.医療マジック同様、介護も素晴らしいと認識させるには何が必要か?
Q8.コロナ禍で施設はどのように看取りを行っているか?
Q9.施設での看取り介護中に容体が急変しても病院に行かないケースはあるか?
Q10.「生ききる」ためのサポートとしてIT化の好事例はあるか?
Q11.看取り介護に携わる施設において、金融の知識を持つ人材のニーズはあるか?
Q12.イベントや企画以外で、介護施設が日々円滑に運営できる必要な支援はあるか?

〔総括〕

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

    1. なぜ今看取り介護なのかを供給側からの理由で考えると、超高齢化が進み療養病床に高齢者が集中しましたが、コストの問題で許容しきれなくなりました。その受け皿として、特養等の入居者が増え、国は政策的に誘導するためにも看取り介護加算を進めているといった背景があります。
    2. 本人やその家族の需要側の理由で考えると、自分の意志で自分の最期を決めたいという価値観が強まったことです。亡くなられた方が、こっそりと病院の裏から運ばれるといった事実は、情報として皆が知るようになりました。先般講義した鈴木先生は、「死生観」とは哲学でも生物学でもなく文化であるという説明がありました。そのような観点からも、看取りというものの文化が新しくなろうとしている、まさにその途中ではないでしょうか。
    3. これからの介護の新しい文化には、従来の介護に携わる企業だけでなく、既存の視点に囚われない異業種の視点、参入が必要です。日本では介護が規制産業であるため、同じアジアでも香港やシンガポールに比べて異業種の参入が少ない状況です。門戸開放に向けて国も動いているため、新しいニーズ、解決できていない「不の解消」を皆さんの力で盛り立てて、ビジネスチャンスに繋げていけたらと思います。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

あわせて読みたい関連記事

サブコンテンツ

このページの先頭へ