SAC東京6期コースⅢ第9回月例会 事務局レポート

食品成分によるスマ-ト・エイジング ~プロバイオティクスやプレバイオティクスの可能性~

コースⅢ第9回月例会は、大学院農学研究科食品化学分野、未来科学技術共同研究センターの戸田雅子教授による「食品成分によるスマート・エイジング~プロバイオティクスやプレバイオティクスの可能性~」が講義テーマです。

戸田先生は、食品免疫学・分子アレルギー学が専門です。食品成分の免疫機能性や超加工食品(ファーストフード)が免疫系に及ぼす影響の解析、食物アレルギーに関する解析などの研究を行っています。食品の免疫機能性解析における第一人者、戸田先生の講義が始まりました。

本日の講義は以下3つの構成です。

  1. 背景 ~腸内細菌について~
  2. プロバイオティクス
  3. プレバイオティクス

背景 ~腸内細菌について~

厚生労働省が示す日本人の死亡原因のうち、悪性新生物(がん)の次に心疾患脳血管疾患が挙げられ、これらは高脂質や代謝に影響を与える食事が深く関わっています。老化(細胞劣化:内因性)や生活習慣の悪化防止策として、食による予防法の開発が必要となります。

一般に免疫力(生体防御力)は30歳台をピークに低下すると言われています。そのため、食品摂取による免疫機能の維持は生体にとって重要です。

腸の環境と免疫の関りを、加齢に伴う属レベル菌の推移で示されました。出生とともに有用菌の代表格であるビフィズス菌が母乳を介して増加します。逆に、老年期に向けて悪玉菌であるウェルシュ菌が増加します。

腸内細菌叢の機能は、植物の消化・吸収の促進やアミノ酸、各種ビタミンの合成などが挙げられます。加齢に伴う生理機能の低下・食事内容の変化により、高齢になると腸内細菌叢の多様性は低下し構成菌種も変化します。

腸内細菌叢の異常は腸管バリア機能や免疫力を低下させ、大腸がんやアルツハイマー病、健忘症など様々な疾患リスクに繋がるようです。

アンティバイオティクス(抗生物質)に対して提案された用語として、共生を語源とするプロバイオティクスと、腸内のバランスを改善することで健康に好影響を与える生きた微生物を指すプレバイオティクスが紹介されました。

  1. プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など):適切な量が投与されることで、宿主の健康に利益をもたらす生きた微生物
  2. プレバイオティクス(オリゴ糖や食物繊維など):消化管の細菌叢の構成や活性に特異的な変化をもたらし、その結果、宿主の健康に有益である選択的な発酵性の成分

プロバイオティクス

代表的な物に乳酸菌やビフィズス菌があります。これらが腸内で増殖すると、悪玉菌を減少させ、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)の吸収を促進します。また、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促し、食物が腸を通過する時間を短縮させ、脂肪の排出量を増加させる機能があります。

乳酸菌やビフィズス菌を含む製品の中に、特定保健用食品と機能性食品があります。

  1. 特定保健用食品(厚生労働省1991年~、消費者庁2009年~):保険用途について体調や身体の生理機能の維持と改善に役立つ旨の表示が可能(国の審査あり)
  2. 機能性食品(2015年~):事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示(国の審査なし)

近年、整腸作用以外の機能性食品も食品メーカーから多く開発されており、メンタルヘルスや脂質異常症の改善、大腸がん発症リスクの低減など多くの期待が持てます。

食品成分は自然免疫系を介して、免疫賦活や免疫調整を誘導します。乳酸菌は数千種以上存在し、その菌体によって、抗炎症・抗アレルギー抗体産生抗細菌抗ウイルスなど、その免疫機能性は異なりながら免疫細胞を活性化しています。

プレバイオティクス

腸内の宿主の健康に有益である発酵性の成分として、オリゴ糖食物繊維があげられます。

オリゴ糖は、母乳中のビフィズス菌の増殖因子として同定され、おなかの調子を整える食品として特定保健用食品の中に入れることが許可されています。

食物繊維は、日本食品成分表示表で「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総称」と定義されており、多くは植物性、藻類性、菌類性食物の細胞壁を構成する成分であり、動物性もあります。

おなかの調子を整えたり、体脂肪を付きにくくして血中の中性脂肪を上昇しにくくしたり、食後の血糖値上昇を緩やかにするなどと言った機能関与成分があるとされています。さらに近年、腸内細菌による食物繊維の代謝物が様々な機能を発現することが分かってきている点を強調されました。

食物繊維には、不溶性食物繊維水溶性食物繊維があり、この二つがうまく組み合わさることにより腸内環境が維持されます。

  1. 不溶性食物繊維(繊維の固い野菜、さつま芋、きのこ類、豆類、乾物):水に溶けず水分を吸収して膨らみ、便のかさを増やし便通を整える働きをする
  2. 水溶性食物繊維(果物、繊維の柔らかい野菜、芋類):水に溶け、腸内環境を整え、コレステロール値・食後血糖値の上昇を抑制する

水溶性食物繊維は、腸内細菌による発酵(代謝)によって酢酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を生成します。短鎖脂肪酸の受容体が腸管に発現されると、蠕動運動や栄養吸収、満腹感などが促進されます。また、膵臓に発現されると血糖値低下を促す効果も分かりました。

戸田先生は、現在各々の健康状態にあったプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクスを研究しています。

腸管機能や免疫機能の維持・向上のみならず、加齢性疾患やアレルギー、うつ病の緩和など個人に合わせて作用する腸内細菌代謝物のオーダーメイド化が実現するかもしれません。

(以上で講義終了)

〔グループトークによる質疑〕(質疑のみ記載)

Q1.プロバイオティクスやプレバイオティクスの適切な摂取条件はあるか?
Q2.新しくサプリメントを選ぶ際に有効な機能性の確認方法はあるか?
Q3.機能性食品を製造する際、論文の調査の範囲は決まっているか?
Q4.特定機能性食品によっておなかの調子が良くなる場合、善玉菌を数値化できるか?
Q5.特定保健用食品や機能性食品摂取による副作用的な事例はあるか?
Q6.膠原病やリウマチのような疾患に対して、樹状細胞を活性化させる菌はあるか?
Q7.下剤は腸内細菌にどのような悪影響を及ぼすか?
Q8.免疫系とアルツハイマー病の関係について教えてほしい
Q9.抗体製剤を使用し続けることは、免疫力に影響を及ぼすか?
Q10.納豆やヨーグルトは一日のいつ摂取すると良いか?
Q11.善玉菌、悪玉菌が決まる根拠は何か?

〔総括〕

村田特任教授よりポイント4点が示されました。

  1. 腸内細菌について、ヒトは加齢とともに善玉菌が減って悪玉菌が増えるためバランスが重要です。乳酸菌やビフィズス菌のようなプロバイオティクスを腸に入れてあげることと、プロバイオティクスの餌となるオリゴ糖や食物繊維などのプレバイオティクスの摂取が重要です。
  2. 特定保健用食品と機能性食品について。前者は、効果検証のデータが公表されているが、後者は必ずしもそうではないため注意が必要です。
  3. プロバイオティクスの中で、食品の成分も自然免疫を介して免疫賦活を行うメカニズムが分かりました。乳酸菌の種類によって免疫機能性が異なることも分かりました。
  4. 食物繊維が代謝されてできる短鎖脂肪酸が非常に有用であることが分かりました。

東北大学は未来型医療・予防を標榜しています。SAC東京を通じて疾患の治療や予防、健康維持に繋がるヒントが得られるはずです。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

 

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