SAC東京6期コースⅡ第8回月例会 事務局レポート

認知症に対する超音波治療の開発

コースⅡ第8回月例会は、国際医療福祉大学 副大学院長、東北大学客員教授の下川宏明教授による「認知症に対する超音波治療の開発」が講義テーマです。

下川先生は、超音波を使ったアルツハイマー型認知症の治療方法の開発を行っています。そのプロジェクトは、実用化に向けて最近テレビや雑誌にも多く取り上げられ話題となっています。本日は、20年に至る研究の歴史から実用化に向けた動向についての講義となります。

本日の講義は以下の4つの構成で進められました。

認知症に対する超音波治療の開発

  1. 研究の背景
  2. 低出力対外衝撃波治療(狭心症):2001年開発開始、2010年先進医療承認
  3. 低出力パルス波超音波治療(狭心症):2009年開発開始、2014年治験開始
  4. 低出力パルス波超音波治療(認知症):2014年開発開始、2018年治験開始

1.研究の背景

 心臓と血管は「生命を運ぶ臓器」と呼ばれています。血管に生じる動脈硬化は、全身に等しく進行します。つまり、脳梗塞を起こした患者は心筋梗塞のリスクも高くなり、その逆も言えます。

近年増加している心不全の種類は、高齢者の増加に伴い収縮不全型心不全ではなく、拡張が悪くなる拡張不全型心不全が7割を占めます。拡張型心不全も認知症も原因は微小循環障害によってそれぞれの臓器が正常に機能しなくなると捉え、どちらも血管の病気であると説明されました。

超高齢社会が進んでいる日本の中でも、特に北海道や東北地方は2035年に人口の33%以上が65歳以上の高齢者になると総務省が発表しています。また、厚労省は主な死因別死亡率として心疾患15.2%、脳血管疾患8.2%と発表しています。一つの臓器が原因であるとすると、心臓と脳で実に約25%を占めることになります。

正常な心臓と重症狭心症症例の冠動脈造影を比較してみました。動脈硬化によって血管が細くなり、血行の再建が困難な重症狭心症が増加しています。

血管新生療法の開発に、以下2つのアプローチがあります。

血管新生療法の開発

    1. 分子生物学的アプローチ:遺伝子、細胞を用いて外部から血管をつくる
    2. 臨床的アプローチ:物理的刺激による自己治癒力の活性化で血管をつくる

下川先生は、患者自身が自らの組織、臓器を直そうとする手助けを、物理的な刺激によって行う臨床的アプローチが重要であると考え、これが20年前に研究を始めるきっかけとなりました。

人間の耳は20KHzまでしか聞こえません。しかし、それ以上の聞こえなくても耳に入ってくる超高周波数は、脳の基幹部に働きかけて、人間の心と体をポジティブに活性する効果<ハイパーソニック効果>を発現させます。

新緑には濃い酸素や心を癒す効果とともに、基幹脳の活性回復による現代病克服が期待できます。そして、衝撃波や超音波との出会いが紹介されました。

2.低出力対外衝撃波治療(狭心症)

雷やジェット機による衝撃波は、第二次世界大戦後の医療において高出力衝撃波による腎結石破砕治療で活用しています。下川先生は、2000年の日本NO学会(NO:nitric oxide:一酸化窒素)でイタリアの研究者が発表した、低出力衝撃波のNO生産作用(ヒト培養内皮細胞)と出会いました。

NOが非常に優秀な血管新生作用を持つことに着目し、低出力の体外衝撃波をうまく利用することで、新たな血管新生療法の開発に取り組みました。その結果、腎結石破砕治療のちょうど10分の1の低出力衝撃波で血管新生に成功しました。

心臓病治療専用の体外衝撃波治療装置をスイスのメーカーと開発した後、動物実験を繰り返しながら、2005年にヒトへの体外衝撃波治療の臨床試験を開始しました。

衝撃波のメリットは、医師の意図するところに集中して出力をかけることが可能であり、心臓に行っても副作用が起こらないことです。術後、患者のニトログリセリンの使用量が減り、血流の検査でも改善が証明されました。

狭心症に対する低出力体外衝撃波治療は、世界25カ国で10,000名以上の患者に実施されています(2019年12月時点)。東北大学病院では、2010年7月に先進医療承認された後、多くの診療科で臨床応用されています。

3.低出力パルス波超音波治療(狭心症)

衝撃波は治療限定の装置であること、心拍同期のため治療時間が長いこと、肺を損傷する恐れがあるというデメリットを抱えています。

一方、日本が得意とする超音波による治療は、一つの機器で診断と治療の両方が可能であり、治療時間も短く、肺損傷の恐れがありません。

日本の強みと日本製の治療機器を完成させるため、周波数や出力を変えながら2年間研究を行った結果、矩形32波、波長1.875MHz、強さ0.25W/㎠の波形が有効であることを発見しました。

この低出力パルス波超音波(LIPUS:Low Intensity Pulsed Ultra‐Sound)による治療は、衝撃波と同様の治療効果が見られ副作用もありませんでした。現在、全国10カ所の大学病院で治験が行われています。

衝撃波治療は1点に照射しますが、超音波治療は1断面に照射をかけていきます。驚くことに、血の足りない虚血部にのみ効果が反応し、正常な部分には全く反応しないのです。

4.低出力パルス波超音波治療(認知症)

 日本における認知症患者は、2050年に人口の約5人に1人と言われ、世界中で毎年1,000万人の新規認知症患者が増えています。然しながら、症状改善薬は承認されていても、病体を改善する根本的な治療方法は存在していません。

内皮由来のNOとアルツハイマー病との関連を研究した論文を参考に、下川先生は、アルツハイマー病も循環器病の一つと捉え、内皮由来NOを脳内で増やせば、アルツハイマー病の治療となる可能性があると考えました。

頭蓋骨を通過するように、波長だけを長くした矩形32波、波長0.5MHz、強さ0.25W/㎠の波形で認知症モデルマウスに実験を行った結果、以下の効果が見られました。

LIPUS治療の認知症モデルマウスにおける効果

    1. 脳血管性認知症モデルマウス → 脳血流の改善、白質病変の軽減など
    2. アルツハイマー型認知症モデルマウス → アミロイドβの蓄積が軽減など

どちらのマウスも認知機能低下の抑制につながり、世界初の「疾患修飾療法」としての可能性が見えてきました。また、薬物療法の場合と違い血液脳関門( BBB:blood-brain barrier)を問題にせず、作用を発揮できるのです。

脳を標的とするために最適な超音波ビームの様々な研究が進み、現在では東北大学病院老年科長で加齢医学研究所の荒井教授と認知症に対するLIPUS治療の医師主導治験が行われています。今後の無作為化比較対照試験(RCT=Randomized Controlled Trial)の結果が楽しみです。

(以上で講義終了)

グループトークによる質疑(質疑のみ記載)

Q1.超音波治療の実用化はいつ頃を予定されているか?
Q2.血管新生療法の開発における具体的な物理的刺激とは何か?
Q3.認知症予防として気軽に使える場合、医療機器扱いのままか?
Q4.超音波で全脳照射をした場合、血流改善は期待できるか?
Q5.超音波治療によって認知症自体も改善を図ることが可能か?
Q6.認知症患者に対する医師主導治験によって具体的に挙げられる改善事例はあるか?
Q7.3~4年後の実用化予定を早めることは可能か?
Q8.高周波音でも不快に感じる音はないか?
Q9.超音波治療で無くなったアミロイドβは脳のどこに行くのか?
Q10.脳の萎縮レベルまで進行された認知症患者に超音波治療の効果はあるか
Q11.認知症患者選定にMMSE(ミニメンタルステート検査)以外の指標はあったか?
Q12.超音波治療は心筋梗塞など他の疾病にも応用可能か?
Q13.マウスの実験で認知機能低下の抑制が見られたがヒトの場合はどうか?
Q14.脳への超音波治療日を週3回にしている理由は何か?
Q15.超音波治療を実用化する場合、想定価格はどれくらいか?
Q16.微小循環不全の原因は何か?
Q17.超音波治療を全身で服から浴びることは可能か?

総括

村田特任教授よりポイント4点が示されました。 

  1. 認知症に対する超音波治療の研究背景として、超々高齢社会で血管疾患の増加、血管の新生療法には自己治癒力の活性化が優れているという着想、高周波は体に良いという知見、の3つが重要。
  2. 衝撃波が一酸化窒素合成酵素発生、血管新生促進という知見、血管内皮細胞にあるCaveolin-1(CAV1:Caveolin-1)のくぼみに衝撃波があたると化学反応が起きて血管新生を促すという発見が、新たな狭心症治療法に結実した。
  3. 衝撃波のデメリットを解決=超音波という着想、32サイクルの矩形波が最適という発見、衝撃波治療と作用機序が同じという発見、が超音波による狭心症治療法に結実した。
  4. 内皮由来の一酸化窒素がアミロイドβの蓄積を抑制し、タウ蛋白のリン酸化を減らすという知見からアルツハイマー病も循環器病=微小循環不全が下人という着想、モデルマウス実験によるアミロイドベータの抑制確認、またしても作用機序も同じという発見、が超音波による認知症治療に大きな可能性を抱かせる。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

 

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