SAC東京6期コースⅢ第8回月例会 事務局レポート

郷土芸能とテクノロジーを活用した地域と人の活性化

コースⅢ第8回月例会は、大学院教育学研究科の佐藤克美准教授による「郷土芸能とテクノロジーを活用した地域と人の活性化」が講義テーマです。

佐藤先生の研究テーマは、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を使って学習者の学びを支援することです。モーションキャプチャによる身体動作のデータや、様々な三次元データをCG(Computer Graphics:コンピュータ・グラフィックス)やVR(Virtual Reality:仮想現実)へ応用することによる学びについての研究を行っています。本日は、モーションキャプチャとCGアニメーションを活用した郷土芸能の研究成果から講義が進みました。

本日の講義は以下の3つの構成です。

  1. 郷土芸能をデジタルで伝える ~モーションプロジェクトの紹介~
  2. 郷土芸能が生まれる・育つ ~変わる? 変わらない?~
  3. 郷土芸能と継承の場 テクノロジー活用

郷土芸能をデジタルで伝える ~モーションプロジェクトの紹介~

舞踊の熟達化や神楽の舞の継承支援のため、モーションキャプチャで舞を計測するモーションプロジェクトを2004年から行っています。

モーションキャプチャには、スタジオで計測する磁気式と持ち運び可能な慣性センサ式があります。主流となる慣性センサ式は、身体の17か所に慣性センサを装着して動作をリアルタイムでパソコンにデータ送信することが可能です。これをCGアニメーション化することにより、踊りの上達や継承に活用しています。

劇団わらび座(秋田県の役者養成所)では、ひとりの研究生の舞踊を2年かけて計測し、その変化の過程を5体のCGアニメーションを並べて比較しました。計測時期の異なる5体の動きから、2年前と現在に至る舞踊の変化が可視化できます。

青森県の八戸法霊神楽では、CGアニメーション化した弟子の動きを、遠方にいる師匠がCGを見ながらリアルタイムで指導しています。練習前と練習後のCGでは、腰や関節の細かい動きに気付きが生まれました。また、フラダンスの練習におけるCGの活用では、ひとりに対してだけでなく集団による舞踊のスキルアップに活用されました。

表情や衣服などの情報を削ったCG画像は、練習する側の見るべきポイントが分かりやすくなります。モーションキャプチャは自分の動きですが、非自分化したCGを客観視することにより自分の感覚との差に気が付くのです。

東日本大震災後は、被災地の郷土芸能をモーションキャプチャ化することで、芸能の保存やアプリによる記録といった取組みも行っています。

郷土芸能が生まれる・育つ ~変わる? 変わらない?~

郷土芸能は、中央の舞台芸能に対し地方や祭礼などで行われる芸能の総称です。宮城県でみると、国指定は3、県指定が33、指定のないものを含めると実に約500もの郷土芸能が伝承されています。

現在伝わっている芸能は、おおよそ奈良時代までに中国や朝鮮から伝わったものであると考えられます。その土地の支配者からやがて民衆のものとなり、江戸時代以降は山伏(修験者)が伝え歩きました。

八戸法霊神楽を例にすると、江戸時代に山伏の移動が禁止となり、土着化した山伏により神楽が奉納されました。

明治時代には廃仏毀釈の影響もあり、修験(山伏)が禁止となりました。山伏は神職や農民等の一般人となり、明治時代の神楽は山伏の血統により伝承されました。

大正から昭和時代にかけて、神楽は娯楽の一つとして一般の人(農民)が継承し、地域の芸能へと変化しました。戦争時に娯楽を慎む雰囲気から、消えた芸能も数多くありましたが、戦後は神楽の復興が地域の復興になると願う人々が現れ、再び習いだす人によって継承されたのです。

郷土芸能は人々の生活に根ざしたもので、その変化のスピードもゆっくりとしたものでした。また、農耕社会に最適化されたものでもありました。しかし、戦後、高度経済成長期を経て農業人口は急速に減少し、社会や生活の変化が急速に進んでいます。

郷土芸能が危惧されていることは、信仰(祭祀)の希薄、地域の共同体意識の消失、少子高齢化、流行の変化等により「祭り」という信仰から遊び経済活動へと考えが変化し、「芸能」安価な集客システムへと考え方が変化していることです。

郷土芸能の一つの可能性として、東日本大震災後、数多くの芸能が復活したことが挙げられます。人間にはよりどころとなる郷土がまだ必要なのではないか、と教育学研究科の先生らしく、教育の役割としての郷土芸能継承課題が投げかけられました。

郷土芸能と継承の場 テクノロジー活用

これから取り組もうとされている郷土芸能支援について、下記3点の説明がありました。

  1. 「継承」の支援 :継承の手法を支援する
  2. 「郷土」の支援 :農村社会に適合した郷土芸能を現代社会に当てはめて支援する
  3. 「継承の場」の支援 :師匠から弟子への継承の場、空間を支援する 

ICTにより、情報の量や質を変化させて、目的に応じた活用が可能である利点を説明しました。

VRの活用により「神楽」の神社と儀式をバーチャルで再現し、その仮想空間の中で演出体験ができる例を挙げました。モーションデータの積極的な利用法を検討することで、郷土芸能の「継承の場」にいざなうことも可能となります。

今後の研究、事業構想として、全国の様々な祭り(郷土芸能)体験を可能にするVR郷土芸能システムの構築と、自宅で郷土芸能が楽しめるエクササイズシステムが紹介され、講義は終了しました。

(以上で講義終了)

 

〔グループトークによる質疑〕(質疑のみ記載)

Q1.わらび座養成所の舞踊に関して時間軸の連れによる課題はあったか?
Q2.エクササイズシステム構想を具体的に教えてほしい
Q3.世界各地の祭りや盆踊りをVRで体験できるビジネス構想はあるか?
Q4.新人指導等でモーションキャプチャを活用した事例はあるか?
Q5.モーションシステムのコスト体系を教えてほしい
Q6.慣性センサではなく、カメラによるモーションキャプチャは検討したことがあるか?
Q7.スマートフォンを活用したモーションプロジェクトの事例はあるか?
Q8. 伝統芸能の難しい指導部分をエクササイズシステムで簡単にする方法はあるか?
Q9. デバイスを活用して伝承の場の地域コミュニティをつくったことがあるか?
Q10.VRを活用した郷土芸能に対するゴールは何か?
Q11.伝承者である高齢者はモーションキャプチャに対してどう考えているか?
Q12.郷土芸能に興味を持った背景は何か?

〔総括〕

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

    1. 郷土芸能をデジタル化すること、すなわち非自分化することによって熟達者の目の付け所が客観的に分かるようになりました。スキルアップの事例として、個人を対象とした神楽と、集団で活用されたフラダンスへの応用が紹介されました。興味深いことに、新人だけでなく熟達者自身も勘所の気付きに繋がりました。郷土芸能以外への応用として、スタッフの教育や製造技術への応用にビジネスチャンスがありそうです。
    2. 郷土芸能の歴史的経緯について学びました。農耕社会との関係が不可分であり、産業構造の変化により廃れやすいということです。一方、日本は疫病神も神様として共存してきました。郷土芸能が現代に必要な理由を考えるにあたり、新型コロナウイルス感染症拡大防止予防、すなわちコロナウイルスと共存するために、伝統芸能が役立つといった理論化・研究が進むと東北大学のオリジナリティになると思います。
    3. 郷土芸能へのICTの活用について学びました。コロナ禍による活動自粛により、特に高齢者はコミュニケーションが取れず、運動不足にもなります。それに対してやりたくない体操をやらせるよりは、VRを使った出身地の盆踊りで運動した方が喜んでやれそうです。カラオケルームで祭り全体を再現したら、面白いかもしれません。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

 

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