SAC東京6期コースⅡ第6回月例会 事務局レポート
シニア市場とスマート・エイジング・ビジネス②
コースⅡ第6回月例会はスマート・エイジング学際重点研究センター 企画開発部門長、東北大学ナレッジキャスト株式会社 常務取締役の村田裕之特任教授による「シニア市場とスマート・エイジング・ビジネス②~日常消費以外にどんな消費の可能性があるのか~」が講義テーマです。
東北大学加齢医学研究所と女性フィットネスクラブ最大手のカーブス・ジャパンが興味深い共同研究成果を発表しました。中高年女性が30分のサーキットトレーニングを一回行うだけで、認知能力の一種の「抑制能力」と「活力」が即時的に向上するということです。本日は、そのカーブスをアメリカから日本に紹介した村田先生の講義です。
本日の講義は以下の4つの項目となっています。
- なぜ、中高年は「コト消費」に向かうのか?
- 世代特有の嗜好性は、消費行動にどのような影響を及ぼすか?
- 60歳代に増える「解放型消費」とは?
- 「コト消費」を応用したスマート・エイジング・ビジネスとは?
なぜ、中高年は「コト消費」に向かうのか?
●シニアの3大不安の傾向は変わらない
老後の日常生活への不安調査において、健康不安、経済不安、孤独不安のトップ3はここ15年傾向が変わっていないようです。また、将来不安がシニア消費の阻害要因であることも示されました。一方、旅行支出はシニア層が一番多いこともデータで示されました。
では、ウィズコロナの時代において定年退職後の旅行はどうなるのでしょうか。以下2点の説明がありました。
- 旅行に行くが、スタイルを変える
①近場のリゾート地・観光地に行く(マイクロツーリズム)
②徹底的に感染予防策を講じて行きたいところに行く - 旅行以外のことをする
①キャンプ、登山などのアウトドア活動
②美術館・博物館めぐり
●モノ消費からコト消費へ
中高年の成熟経済では、退職や子育て終了といった個人や家族のライフステージの変化に伴い、モノの満足より心の満足を求める「コト消費」が強まる傾向が分かりました。これは、後半生の脳の生理的変化・心理的発達も影響していることが分かりました。
世代特有の嗜好性は、消費行動にどのような影響を及ぼすか?
●シニアの消費行動に影響を及ぼす「5つの変化」
- 加齢による身体の変化
- 本人のライフステージの変化
- 家族のライフステージの変化
- 世代特有の嗜好性とその変化
- 時代性の変化(流行・生活環境)
他の年齢層に比べて「変化の要因」が多いシニアです。ここでは4.世代特有の嗜好性とその変化につて説明がありました。
●世代特有の嗜好性の多くは、20歳頃までの文化体験(世代原体験)で形成される
大正世代、昭和一桁世代、焼け跡世代、団塊の世代、ポスト団塊の世代の、それぞれの対象年齢や時代背景の説明がありました。ここで村田先生は、40代を過ぎると、なぜ「ノスタルジー消費」が現れやすくなるのか参加者に問いかけました。
「世代原体験」とは、特定の世代が20歳頃までに共通に体験する文化です。世代特有の嗜好性の多くは、「世代原体験」で形成されます。理由は、脳の発達が20歳頃までであることと考えられます。
●「ノスタルジー消費」が現れる背景
20代は初めての体験が多く、わくわくドキドキする機会が多くあります。しかしながら、40代を過ぎる頃は結婚なども理由となって生活は平凡化します。その反動から「ドーパミン」系刺激を求めたくなりますが、脳機能が衰えているため昔馴染んだものを求めるのです。
50代以降の「自己復活消費」「夢実現消費」、60代以降の「解放型消費」
50代を過ぎると認知機能の衰えにより全く知らないものより昔から知っていて理解しやすいものに向かうようです。また、60代になると心理面の変化から自己解放を促す精神のエネルギー(インナープッシュ)も影響するようです。
「コト消費」を応用したスマート・エイジング・ビジネスとは?
「コト消費」を応用したスマート・エイジング・ビジネスとして、ショッピングモール内のカーブスや生協店舗での脳トレ教室など、多くの事例が紹介されました。
ここから、脳科学・認知神経科学の切り口でシニアの消費行動を見ると次のシニアビジネスのヒントが得られることが分かりました。
(以上で講義終了)
グループトークによる質疑(質疑のみ記載)
Q1.コーエン教授の“後半生の心理的発達の4段階”は日本人にもあてはまるか?
Q2.開放型の消費行動において男女の差はあるか?
Q3.コロナ禍におけるシニアの体力維持向上策はあるか?
Q4.「わくわく消費」の高額な旅行は、リピートの持続性があるか?
Q5.カーブスに通うシニアは健康なので、ショッピングモール内を歩かせてはどうか?
Q6.シニアが新しい趣味を持ったとき、どのくらい持続するのかを表した統計はあるか?
Q7.コロナ禍で通販の電話がパンクする中、シニアをオンライン導く手段はないか?
Q8.カーブスなどのフィットネスクラブに行かず、バーチャルで行うことは可能か?
Q9.“開放段階”よりも“まとめ段階”の方にビジネスチャンスはないか?
Q10.ドーパミン刺激は50代から求め始めるが、60代以降になるとどうなるか?
Q11.シニアの消費行動に地域差はあるか?
総括
荒井事務局長よりポイント3点が示されました。
- シニアの特徴は「モノ消費」から「コト消費」にシフトするということです。背景には「モノ消費」の充足感によるモノ消費の減少がありますが、脳の加齢変化もコト志向の強まりに影響するということです。
- シニアは他の世代と比べて変化の要因が多く、消費行動に影響を及ぼすものとして、大きく5つの紹介がありました。
- シニアは世代特有の嗜好性が消費行動に影響しているという点です。脳科学的な解釈でみると、シニア世代は「ドーパミン」系刺激を求めたくなるため、世代特有の嗜好性を誘引するということです。
以上
(文責:SAC東京事務局)
タグ:コト消費, スマート・エイジング, スマート・エイジング・ビジネス, 村田裕之, 解放型消費
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