SAC東京6期コースⅠ第5回月例会 事務局レポート

生涯健康脳の維持①

コースⅠ第5回月例会は、加齢医学研究所 機能画像医学研究分野 スマート・エイジング学際重点研究センター 副センター長の瀧 靖之 教授による「生涯健康脳の維持①―超精密脳健診と大規模脳画像研究との融合による認知症予防事業―」が講義テーマです。

日本人の平均寿命と健康寿命は年々延びていますが、その差(男性約9年、女性約12年)はいっこうに縮まりません。要介護になった原因の病気としては、最新データでは認知症が第一位になっています。瀧教授は、認知症を予防し、少しでも発症を遅らせることが平均寿命と健康寿命の差を小さくする上で重要であると考え、認知症がもたらす個人や社会への負担を減らすために脳の発達から加齢までの研究を行っています。

 本日の講義は以下の構成で進められました。

1.脳科学からみる脳の発達と加齢
(1)脳の発達
(2)脳の加齢と認知症

2.脳科学を応用した認知症予防事業

脳の発達

瀧教授は、子どもから大人までの脳MRI(磁気共鳴画像装置)、認知力、生活習慣、遺伝子の情報を収集して包括的データベースを作っています。その中でも中心となるのは脳のMRIデータであり、脳の形態や機能の加齢に伴う変化を研究しています。

また、エビデンスを得るために多くのデータが必要ですが、当初は子どもの脳画像データが殆ど無かったため、宮城県や学校の協力を得て「小児脳発達Project」に取り組むことで子どもの脳のデータを収集することに成功しました。

脳血流量と年齢

子どもの脳は、後部(視覚、聴覚など)から前部(論理的思考能力など)に向かって発達が進みます。その研究から、何歳頃に何をすると脳の発達が促進されて色々な能力を効率良く獲得できるかが分かってきました。

脳の発達と獲得しやすい能力の関係では、親子の愛着形成は0歳から、読み聞かせは1歳頃から、知的好奇心は2歳頃から、運動や音楽は3~5歳頃から、英語は8~10歳頃から、そして他者とのコミュニケーションは小学生から中学生頃に獲得しやすいということが分かりました。

知的好奇心

知的好奇心と学力とは相関があります。好奇心は集中力や深いレベルでの情報処理や情報保持力と関連し、面白いと感じた物事を学習し、探索し、没頭させる力があります。最近では学力の高さはソーシャルスキルや自尊感情等の社会的適応変数と関連し、問題行動や身体的健康、精神的健康等のメンタルヘルスとの関連が示されています。

また、知的好奇心が高いと記憶の定着が良くなります。これは、脳科学的にみると海馬、腹側被蓋野、側坐核、中脳黒質等の活動が高まることに関係しています。

子どもに知的好奇心を持たせることは大変重要です。子どもの学習は模倣から始まり、身近な存在である親の模倣が重要となります。ここでは、知的好奇心をどのように持つと良いのかの説明がありました。

  1. 仮想の世界と現実の世界を結びつける
  2. 親が楽しんでいる姿を子どもに見せる
  3. アウトドア体験の効果

 また、子供の脳の発達によい影響を与える次の要因について説明がありました。

  1. 新聞や読書が脳発達に与える効果
  2. 平日の睡眠時間と海馬灰白質体積
  3. 朝食の主食と灰白質体積
  4. 運動と脳の可塑性
  5. 楽器演奏と脳の可塑性

親が子どもを褒めることの重要性

親が子どもを褒める頻度が高いほど精神疾患等でも関わる領域の一つである後部島皮質の灰白質体積が大きくなるという研究が紹介されました。健康脳構築のためには、子どもの行動を適切に評価して褒めることの重要性が脳画像情報で示されました。

脳の加齢と認知症

40代、50代、60代、70代の健康な4人の男性被験者の脳を輪切りにした画像の説明がありました。どれだけ健康であっても、脳は加齢とともに萎縮し機能が低下していきます。同じ年齢でも差があり、その原因や予防策を解明した研究結果が説明されました。

飲酒はアルコールによる組織損傷性が高く脳萎縮の原因となります。比較的飲める人への影響は少ないのですが、飲めない人の組織破壊性が高く影響は大きくなります。

喫煙も脳萎縮の原因となります。肺機能の低下が小脳などの脳萎縮を引き起こす可能性が明らかになっています。

肥満も脳萎縮の原因であり、中年期の肥満は高齢期の認知症リスクを増やします。これには男女差があり、男性に多い内臓脂肪型の肥満が良くないとされています。

これらから、動脈硬化が脳萎縮の原因となることが分かりました。血管の壁が厚くなり、脳や様々な臓器に対し酸素やブドウ糖の供給が悪くなるからです。そこで、何をすると脳に良いのかの説明がありました。

  1. 運動と海馬
  2. 知的好奇心と脳体積減少速度
  3. 社会的関りと認知症リスク

運動は最たるもので脳の萎縮を抑えます。激しい運動よりも一日30分程度の運動を習慣化することが重要です。

知的好奇心が高いほど脳の萎縮が抑えられます。趣味をもち続け、色々なことに興味を持って取り組むことはとても重要です。

社会との関わり、コミュニケーションが多いほど認知症のリスクは低いことが明らかになっています。

健康脳の維持と認知症の予防

食事、睡眠、認知トレーニング等も認知症リスクを下げることが分かり始めています。食事においては地中海食や和食が良いこと、質の良い睡眠は脳の中のタンパク質のゴミとされるアミロイドβを洗い流すということが分かってきています。

また、最近では幸せな人は長生きすることが明らかになってきました。実際、主観的幸福度が高い程平均余命が長く、主観的幸福度が低い人との差は10年近くに達するとの報告もあります。長生きした結果幸せだと感じたのではなく、幸せだと感じていた方が長生きするという可能性が高いのです。

脳科学を応用した認知症予防事業

 脳科学をどのようにして認知症予防事業につなげるのか、講師自身が立ち上げた大学発ベンチャーを例に説明がありました。

不治の病とされていた認知症も、現在は生活習慣の是正によりリスク低下が可能となりました。30~40歳代をターゲットとした早い段階での認知症リスク因子の除去、忌避、心身の健康増進、生活習慣改善の行動変容による0次予防を達成することが将来的な認知症リスクを引き下げると考えられています。

日本では脳ドックの需要は高まっていますが、認知症の早期スクリーニングサービスは不在です。そこで、認知力低下に先んじて海馬の萎縮など脳の形態変化を評価し、認知症の早期スクリーニングサービスを行うことをねらいとして、株式会社CogSmartを2019年10月30日に設立しました。

認知症にならない生涯健康脳の実現、持続的な0次予防の達成をミッションとし、その研究、事業構想の貴重な説明があり、生涯健康脳推進事業への参画を呼びかけて講義は終了しました。

(以上で講義終了)

グループトークによる質疑(質疑のみ記載)

Q1.主観的幸福度を高めるための具体策はあるか?
Q2.高齢者の認知症に対する意識の高さを市場規模で表したものはあるか?
Q3. AIの画像認識や画像判断で難しかったことは何か?
Q4.認知症予防に対して強制された運動や食事でも効果があるのか?
Q5.体に良くない食べ物が好きな場合、体と満足度のどちらを優先するべきか?
Q6.認知症に関わる悪いストレスは具体的に何か?
Q7.知的好奇心を図る指標や測定方法はあるか?
Q8.会話の相手がペットやAIロボットであっても知的好奇心は上がるのか?
Q9.飲酒や喫煙など、生活改善した時から脳の委縮は抑えられるのか?
Q10.認知症の0次予防対象者に50~60歳代でもなりうるか?
Q11.認知症のリスク要因である遺伝要因を予防することは可能であるか?
Q12.健康脳を作るために好奇心は必要であるが、趣味レベルでも効果があるのか?
Q13.子どもの脳の可能性を広げるため、年齢ごとにバランスよく何を学んだら良いか?
Q14.高齢者を褒めたりコミュニケーションを取ると脳のクリーニングにつながるか?
Q15.VRによる疑似体験が脳機能改善につながることはあるのか?

総括

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

  1. まず、脳の発達と萎縮の話がありました。加齢に伴う脳の萎縮を理解する為に、子どもの頃から脳がどのように発達するのかを理解することが重要です。発達促進要因としては、知的好奇心を育む、活字に触れる、よく睡眠をとる、運動するなどの多くの要因がありました。
  2. 一方、脳の萎縮の加速要因として飲酒、喫煙、肥満、それに伴う動脈硬化が挙げられました。改善要因としては、運動、知的好奇心、社会との関りなどがありましたが、重要なことは子どもの頃から習慣付けをすることで、歳を取ってからも抵抗無く脳が萎縮しづらい生活習慣が根付いているということです。また、脳には可塑性という性質があり、何歳になっても脳は変化できますが、可塑性は若い方が強いため、歳を取ると脳変化のための労力が必要になります。
  3. 最後に、リリース前の認知症予防事業の話が出ましたが、ポイントは特に海馬の萎縮に注目し、その萎縮度を精密に解析して評価する点です。瀧教授の長年の研究成果が、今の時代が求める事業に結実し、様々な企業とのコラボレーションが期待できます。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

 

あわせて読みたい関連記事

サブコンテンツ

このページの先頭へ