SAC東京6期コースⅢ第3回月例会 事務局レポート

眼を活用した健康ビジネス~AI読影×創薬~

コースⅢ第3回月例会は東北大学大学院医学系研究科、神経・感覚器病態学講座眼科学分野の中澤 徹 教授による「眼を活用した健康ビジネス~AI読影×創薬~」が講義テーマです。

眼科のスペシャリストである中澤教授の講義です。冒頭、目を介してどのようなビジネスが存在するのか、その成功率はどれくらいであるのかを紹介することで、参加者のビジネスヒントに繋がって欲しいという期待を込めた説明から始まりました。

本日の講義は以下の3つの項目となっています。

  1. 目と全身の意外な関係
  2. 緑内障とはどんな病気?
  3. 眼を活用した健康ビジネス

目と全身の意外な関係

日本の超高齢社会と眼科受診率の関係から講義が始まりました。65歳以上になると急激に目の病気が増加し、年齢別眼科受診率はそれ以前の約2倍となります。一方で2055年には65歳以上の人口比が41%を超えるとの予測から、必ず訪れる超高齢社会と患者の増加に対し、いかに効率的に低コストで治療するかが課題となります。

人間が視力低下を放置すると、転倒リスクが2.5倍になり寝たきりが増え、視力0.7未満は2.9倍認知症になりやすいといった例は、世界中の論文で報告されています。逆に、白内障手術による視力改善から認知機能の改善や血圧を下げる効果がわかり、死亡率が低下することもわかってきています。視覚維持は認知機能や健康寿命の延伸など、全身の健康管理に有意義との説明がありました。

眼底にレーザーをあて、その反射光の分析が認知症の判定に有用であるというイギリスの総合学術雑誌『Nature』の研究が紹介されました。更に、OCT Angiography(光干渉断層血管撮影)によって、眼底の光の入射光と反射光の時間差を利用し、組織や血管を描写できるようになっているとの説明がありました。

目は血管や神経を非侵襲的に観察できる唯一の臓器であり、眼底毛細血管の情報を全身の病気の発見に活かす研究が行われています。

緑内障とはどんな病気?

緑内障は視野が狭くなる病気で、視野の障害により生活の質が低下する眼疾患です。失明原因の第一位であり、視覚障害者の原因疾患のうち28.6%を占めています。緑内障有病率は40歳以上で5%、70歳以上になると11%と加齢により増加頻度の高い目の病気です。

目は血管から栄養分をこしとった眼房水から栄養を吸収しますが、栄養吸収後の房水排出が円滑に行われないと眼圧が高くなります。眼圧が高くなると血流障害を起こし、視神経の神経線維を圧迫して障害されることが緑内障の原因となります。

緑内障診断の問題点

  1. 自覚症状が弱い
  2. 治療が効かない緑内障

日常生活では両目で見ているため、一方の目が緑内障になっていても、もう一方の目が映像を補正するため気付きにくいのです。また、視野異常がゆっくりと進行するため、自覚症状の弱いのが特徴です。

近年、眼圧を下げる治療を行った後も、約半数の緑内障患者は進行が続いていることがわかってきました。その原因となる眼圧非依存性因子も一緒に治療するといった、機序依存的な個別化医療が期待されているという説明がありました。

例えば、フラマー症候群は、フラマー問診票による緑内障の早期発見が重要であることや、健康成人と比較して睡眠時無呼吸症候群を合併している緑内障患者が高頻度に認められているという驚きの研究結果が紹介されました。

眼を活用した健康ビジネス

緑内障の予測や早期発見をすること、目の情報から血管や脳の病気を予測するところにビジネスチャンスがあるという説明がありました。また、中澤教授はCOI東北拠点において「目と健康のBUB(Business-University-Business)センシングゲノム連携研究」に取り組まれています。緑内障から失明を予防して健康寿命を延ばすことと、目からの情報を活用して全身疾患を予防することを目的とし、共感されるビジネスパートナーの参画も求めました。

COI東北拠点では、疾患リスク、毛細血管、血流、自律神経などを可視化する研究が行われています。さりげなく計測されたこれらの数値から健康状態を管理し、将来的には眼病だけでなく認知症、心血管領域にまで展開することで、ソリューションもセットで提供するベンチャーの構想もお持ちでした。

最後に眼科領域における医療AI活用の進歩と、今後考えられる目を活用した健康ビジネス事例が紹介されました。一枚の眼底写真から、年齢、性別、喫煙歴、血圧など様々な項目が判定可能であり、AIは全身状態を予測することが可能です。

ライフスタイルの可視化や持続的な生理検査の確立が望まれているなか、眼科領域では容易な検査機器の開発と、AIの活用による新しい市場にビジネスチャンスがあるという点を、海外の様々な事例も含めながら紹介頂き講義が終了しました。

(以上で講義終了)

グループトークによる質疑(質疑のみ記載)

Q1.65歳以上から急激に眼科受診率は高くなるが、失明に至る割合はどれくらいか?
Q2.血液採取による血液中のタンパク質から目の病気はわかるか?
Q3.COI拠点の可視化検査キットは医療従事者以外でも使用して判定まで可能か?
Q4.眼底検査は現在どの程度まで診断検査が可能であるか?
Q5.AIアルゴリズムの緑内陣に正常者の分布が見られるのはどうしてか?
Q6.緑内障は無呼吸症候群になりやすいか?
Q7.点眼薬の以外で緑内障に効果のある他の予防はあるか?
Q8.世界中で始まる目のケアの事例はあったが、アジアや日本での具体例はないか?
Q9.緑内障の点眼薬を混ぜて一気に点眼できない理由は何か?
Q10. 緑内障を診断してもらう場合、眼科医を選ぶ基準は何か?
Q11. スマートフォンを使用したリスク診断アプリはあるか?

総括

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

      1. 目と全身の意外な関係では、特に眼底の写真の情報から血管の状態と組織の状態が分かることによって全身の病気の状態まで推測が可能となりそうです。認知症についてもアミロイドβがどのくらいかあるか、血管がどのくらいもろい状態であるかまでわかる画期的な未来が予感できます。
      2. 緑内障は眼圧の以上だけかと思われたが、正常眼圧でも睡眠時無呼吸症候群やフラマー症候群で誘発されるという新しい知見がわかりました。
      3. 目を活用した健康ビジネスとして、3点が挙げられます。
        ① 医師の診断力や知恵を活用したAIの活用、容易な検査機器の開発
        ② ウィズコロナの時代における非接触エコノミーの価値
        ③ 世界中で始まる目のケアとして、異業種からの参入の兆候

      以上

       

       

       

      (文責:SAC東京事務局)

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