SAC東京6期コースⅢ第2回月例会 事務局レポート
自助・共助の社会を築くヘルスケアイノベーション
コースⅢ第2回月例会は東北大学革新的イノベーション研究プロジェクト 拠点長、東北大学産学連携機構 客員教授の和賀巌先生による「自助・共助の社会を築くヘルスケアイノベーション」が講義テーマです。
和賀先生は、分子生物学を専門とされており特定のタンパク質を5,000種類血液で計測した後、ビックデータ解析して健康を予測するといったベンチャーを立ち上げる予定もあり、参加者に対して産学連携の様々な成功事例、失敗事例、面白い事例を共有したいという説明から講義が始まりました。
本日の講義は以下の4つの項目となっています。
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- わたしたちの健康問題
- 健康データPHR事例
- COI東北拠点が学んだ事
- これから目指す方向
わたしたちの健康問題
冒頭、ご自身のひとり暮らしの義理の母に起こった出来事が紹介されました。ある朝、胸に強い痛みを感じて目を覚ましました。心筋梗塞です。自分で救急車を呼び、自力でエレベーターに乗り、やっと病院へ行くことができました。幸いカテーテル手術当番医が病院におり一命を取り留めることができましたが、何か一つ欠けただけでも死亡していたであろうという実体験を話してくれました。日本では2030年には男性243万人、女性487万人の65歳以上の方々が一人で暮らす社会がやってくるのです。
COI東北拠点で企業とシェアされている、健康問題やPHR(パーソナルヘルスレコード)の情報について説明がありました。世界各国の統計として、孤独な場合、死亡率は26%も上がるというデータが紹介されました。、孤独は認知機能低下を引き起こすリスク要因にもなるようです。また、約78万人のデータから精製糖質の食事の普及により、糖尿病やがんによる死亡リスクが100年前より22%も増加したとのことです。
合成保存料・抗生物質が含まれる食事の摂取は、人体のマイクロバイオームの破壊や食物繊維の不足に陥り、バランスが崩れることによって様々な疾患に繋がっているという説明がありました。
日本の女性は平均寿命が86.3歳と人類史上最強の長寿であるものの、世界有数の短眠、低い幸福度、独居増大が危ぶまれています。男性も65歳から悠々自適の思惑が外れる社会となり、100歳まで生きるための身体とお金の備えが無いことが懸念されています。COI東北拠点ではそもそも人間の遺伝子がどのようなものであったか、原子時代の生活スタイルも検証しながら企業との研究が行われています。
健康データPHR事例
PHR、パーソナルヘルスレコードは米国診療情報管理学会により患者の生涯に渡るカルテをまとめたもので、アメリカでは企業の取り組みが強く、それを個人が主体的に管理・活用しています。デンマークでは1968年に個人識別番号(CPR番号)を導入し、ヘルスケア分野における個人のカルテ情報やデータがCPR番号に紐付けられ、政府主導の医療ポータルサイトで閲覧可能となっています。
また、オランダでは2016年に民間企業主導のプロジェクト「MedMij(メッドマイ)」が立ち上がり、国民は政府が管理する健康情報を複数の企業から自主的に選択して閲覧しています。中国ではAIが自宅で受信した処方箋を、企業が薬剤デリバリーするサービスが開始されています。
各国が政府や民間企業主導でPHRを管理・活用する中、日本でも政府や民間企業によって研究が行われていますが、ターゲットやコンセプトが定まっていないため普及していないのが現状です。和賀先生はCOVID-19の影響でデジタルシフト2年分が2ヶ月でシフトしたことを例に挙げ、今後急速に普及することを期待しています。
COI東北拠点が学んだ事
文部科学省が平成25年度に開始した「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」は10年後の社会で想定されるニーズを検討し、そこから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしのあり方を設定しました。
COI拠点が掲げる3つのビジョンの中の1つ「少子高齢化先進国としての持続性確保」の研究拠点は全国に7か所ありCOI東北拠点(東北大学)はそのひとつとなります。和賀先生は全国の7拠点の大学、20社以上の企業と情報交換を行いイノベーションとは何かを追及し続けています。
COI東北拠点で研究されている、いつどこにいても自分や家族の生活や健康状態がわかり、家族を超えて支援が得られるさりげないセンシングによる「日常人間ドックプロジェクト」の研究が紹介されました。
「日常人間ドック」は、「はかる」(測る、計る、量る)、「わかる」(解る、分かる、判る)、「おくる」(送る[自助]、贈る[共助])という流れで遺伝子や各種センシング技術により健康とその要因を収集し、クラウド上に一元管理してその理解・共有を図りながらさまざまな活用を目指す取り組みです。ここでは数十社の産学連携企業の研究事例が紹介されました。
これから目指す方向
吉澤教授(コースⅡ第2回登壇)が開発中の魔法の鏡にAIの機能を入れて、日々の健康状態をさりげなく測る日常人間ドッグの例が紹介されました。その情報を自分や大切な人と共有して健康状態を知ることが出来ることを応用し、旅行会社が旅行先のホテルの鏡に採用したり、ハウジングメーカーが家の共有部分に置いて検証するような産学連携の研究が行われているとのことです。
東北大学の研究拠点を活用する企業共創のしくみをBUB(Business-University-Business)と呼び、COI東北拠点では企業20社と協力してヘルスケア分野での産学連携が行われています。和賀先生は、公的研究機関の役割として公的研究の成果が新しい購買を刺激する可能性を発見し、大学のデータをもとにパーソナル化されたデジタルデータからの「あなた向け」が有効であると結論付けました。そのため、具体的商品・サービスを特定してそれをどう使うのか、どの企業と組むと最適であるかまで検証して効果を最大限発揮できる取り込みに今後も注力されています。
(以上で講義終了)
グループトークによる質疑(質疑のみ一部記載)
Q1.具体的なPHRアプリの成功事例、失敗事例はあるか?
Q2.遺伝子ビッグデータで和賀先生が40歳前にハゲなかった理由は何か?
Q3.日常のさりげないセンシング結果が自覚症状と異なる場合はあるのか?
Q4.PHRのプラットフォーム構築に関し、日本特有の要素はあるのか?
Q5.日常の人間ドッグの検証から、より具体的な医療アドバイスまで応用されているか?
Q6.日常のさりげないセンシングを複数掛け合わせた治験や考えはあるか?
Q7.PHRの個人的なデータを守るために東北大学ではどのような対策を行っているか?
Q8.椅子に11時間座り続けると健康に悪いのは、動かないことが悪いのか?
Q9.身体機能はセンサーで取れるが、心身機能はどのように測ることができるのか?
Q10. 企業側のPHRデータの活用は有益だが、シニアを巻き込む得策はあるのか?
総括
村田特任教授よりポイント4点が示されました。
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- COI東北拠点の活動内容を包括的に話して頂き、独居に対する問題解決に焦点を置いて説明がありました。公助に頼り難いと判断した時、日常人間ドッグというテーマで何が必要となるかを詳しく説明頂きました。
- 個々の様々なセンサーの実用化(10人程の人間ドック)、健康診断データの問題点の研究が成果として紹介されました。
- BUBによる東北大学の新しい役割の説明があり、10年前と比較して大学の使命も新たに変わってきています。
- PHRについては道半ばですが、COI東北拠点の取り組みや新型コロナウイルスによる政
府の対応の追い風など、3つの事例を挙げて方向性を示して頂きました。
以上
(文責:SAC東京事務局)
タグ:COI, デジタルヘルスケア, パーソナルヘルスコード, 和賀巌, 少子高齢化
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