SAC東京6期コースⅢ第1回月例会 事務局レポート

超臨界で天然物がお宝に~新しい食品加工と廃棄物処理技術~

コースⅢ第1回月例会は東北大学環境保全センター 化学工学専攻の渡邉賢教授による「超臨界で天然物がお宝に~新しい食品加工と廃棄物処理技術~」が講義テーマです。

渡邉教授は東北大学にしかない超臨界を専門とする超臨界溶媒工学研究センターで、天然物(水、二酸化炭素など)や廃棄物、身近にあって捨てているものを超臨界流体によって利用可能な媒体に変化させる研究開発を行っています。人間が生活しやすい環境や社会づくりがエンジニアの果たす役割であるとする「Human-Friendly」が研究室のコンセプトであり、バイオマス資源循環やバイオ分子によるグリーンプロセスの開発、コーヒーからカフェインを溶かす研究の紹介から講義が始まりました。

本日の講義は以下の4つの項目となっています。

    1. 超臨界流体プロセス
    2. 物質の三態と超臨界
    3. 私の研究紹介:デカフェ+水熱反応による資源変換
    4. 課題は何か?

超臨界流体プロセス

超臨界流体が世の中に役立てられている実用化の例として、超臨界二酸化炭素抽出の2つの紹介がありました。一つはアメリカの企業によりコーヒー豆の中に閉じ込められたカフェインを溶かしノンカフェインに変えて商品化したもの。もう一つは天然コルクに含まれ、ワインコルクの異臭の原因となるトリクロロアニソールを溶かす事例です。

そして、今度は逆に二酸化炭素を超臨界状態にして染色する、NIKE社のCOLORDRYという製造工程が説明されました。二酸化炭素を超臨界状態にして染料を行うことで排水が生じず、染料も無駄にならず、二酸化炭素は95%再利用されるという利点があります。

衣料を傷めずに染料を行うこの技術を逆に利用して、医療器具の殺菌やCOVID-19で汚染されたマスクを二酸化炭素で洗浄できるよう、アメリカでは商業化まで試みられているとのことです。

物質の三態と超臨界

物質は通常、気体液体固体三態をとりますが、一定以上の圧力と温度を加えることで、気体と液体の両方の性質を兼ね備えた超臨界流体と呼ばれる状態になります。この超臨界流体は気体の持つ拡散性と液体の持つ溶解性を併せ持つため、物質内部への浸透性と成分の抽出効率の両方に優れています。また温度と圧力の条件を変えることで、親水性〜疎水性のさまざまな成分の抽出に適した条件を選択することが可能となります。

二酸化炭素は温度と圧力が臨界点(31以上、74MPa)を超えると超臨界状態となります。  この条件は他の物質(比較例:水の臨界点は374℃、22.1MPa)より常温常圧に近く、その生成が比較的容易であることと、超臨界状態でも他の物質との化学反応を起こしにくいという特性を持ちます。

また物質を抽出後、常温常圧に戻せば二酸化炭素の除去は極めて容易であり、万一残留してもその毒性を考慮する必要がないことや廃液処理の必要がない点など、さまざまな点において人体や環境に優しい化学(Green chemistry)であるとの説明がありました。

私の研究紹介:デカフェ+水熱反応による資源変換

渡邉教授の研究が二つ紹介されました。ひとつ目はコーヒービジネスとして味わいを残したデカフェの生成、ブレンド方法や香りについての研究です。なかでも天然成分の香りが体にどのように働きかけるかという研究に近年注目されています。ストレス低減や集中力向上といった機能性の高い香りを未利用資源から生成する実例として、ヒノキの枝葉から精油を超臨界二酸化炭素で抽出して製品化まで到達した実例が紹介されました。

ふたつ目は、水熱反応による資源変換です。リチウムイオン電池は高容量かつ軽量であるためにノートPCやスマートフォン、電気自動車などにも使用され需要が増加の一途をたどっています。その正極材料の一つであるコバルト酸リチウム(LiCoO2)の主要元素であるLi(リチウム)およびCo(コバルト)は、資源の偏在性や需要の増加などから廃リチウムイオン電池から回収し再利用することが望まれています。

そこでコバルト酸リチウム(LiCoO2)の酸浸出に対し,条件を緩和しながらも完全に酸浸出するために水熱反応の適用を検討して研究した結果、水熱条件でクエン酸を浸出剤とすることで、錯体形成および還元作用の双方の機能性のために過酸化水素(H2O2)などの還元剤を添加することなく良好に浸出した可能性を示されました。

課題は何か?

超臨界状態にするために圧力容器が必要となりますが、日本は海外に比べて普及がされていません。高圧ガス製造設備の法令による規制がネックになっているようですが、近年、小型超臨界流体設備や超臨界乾燥に対し、その緩和が少しずつ広がっているようです。また、水を使ったハイドロサーマル反応に関しても、第一種高圧容器の法令見直しが普及拡大につながるとの説明がありました。

今後の研究・事業構想として3点説明がありました。ひとつは、超臨界の国内技術の普及です。様々な成分を超臨界状態で抽出し、体に働きかけてどのような効果が得られるかという研究です。次に、医療への活用として医療器具の洗浄や殺菌、滅菌を小型装置で可能にすることです。最後に、リサイクル技術のキーテクノロジーとして国内、そして世界に展開したいという説明がありました。

(以上で講義終了)

グループトークによる質疑(質疑のみ記載)

Q1.超臨界はカラオケボックス内の滅菌や滅菌に活用可能であるか?
Q2.NIKE社の染色の事例の他に超臨界を活用して成分を付加する事例はあるか?
Q3.超臨界を実用する際の設備規模や価格帯はどれくらいになるか?
Q4 小さなプラント内で濡れることなく、人への消毒は実現可能であるか?
Q5.超臨界の実用化の遅れに関し、法規制以外の他に要因はあるか?
Q6.自動車に超臨界装置を搭載し、排気ガスから不純物を取り出すことは可能か?
Q7.超臨界装置を使った場合、植物によって抽出しやすい成分はあるか?
Q8.ほくろや皮下脂肪を取り出すといった人体への活用可能性はあるか?
Q9.デカフェ以外で食品への超臨界抽出した面白い事例はあるか?
Q10. プラスチックから原油に戻した後、石油精製にどう活用されているか?
Q11.超臨界研究を行っている最先端の国、事例、その理由は何か?
Q12.超臨界で抽出したヒノキの精油は商品としていつ世の中にでてくるか?
Q13.超臨界状態から圧力を抜いた後、常温の状態で使用することは可能か?
Q14.細かい粒子を化粧品にして、肌への噴霧による使用は可能であるか?
Q15.身近にある超臨界状態は何か?
Q16.超臨界の有用な事例、換金化しやすい事例はないか?

総括

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

    1. 超臨界とは何か、そして超臨界によって今までできなかった物質の分離や浸透が可能となったことを学びました。
    2. 超臨界が得意とする分離には、溶剤や匂い、成分、そして鉱物の分離にも活用できることを学びました。また、超臨界による洗浄・除去作用は、少し工夫すれば新型コロナウイルス対策に応用が可能となるかもしれません。
    3. 今後の課題は、圧力容器の設備環境改善と国の規制緩和が考えられます。また、企業側としては市場価格もさることながら、環境に優しく廃棄物が出ないといった新しい価値やグルーンインダストリーの観点で捉えることが重要です。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

 

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