SAC東京6期コースⅡ第2回月例会 事務局レポート
カメラによる健康センシング~身体映像からの生体情報抽出~
コースⅡ第2回月例会は、サイバーサイエンスセンター先端情報技術研究部、スマート・エイジング学際重点研究センター人間福祉工学研究部門長 吉澤誠教授による「カメラによる健康センシング~身体映像からの生体情報抽出~」です。
吉澤教授は情報通信技術を用いていつでも健康をモニタリングするためのシステム「魔法の鏡」を開発しています。このシステムでは遠隔・非接触で得られる映像信号に基づき、鏡の前に立つだけで血圧反射系に関係する自律神経機能を手軽にチェックすることができます。現在、実証実験を進めており、血圧変動推定や運動の効果の判定など、その有効性が確かめられつつあります。
本講義は以下の5つの項目となっています。
- 少子高齢化と医療問題
- 心電図を使わず脈波だけで健康をモニタリングしたい!
- 非接触で脈波を計測したい!
- 心拍数ではなく血圧を測定したい!
- クラウド版 魔法の鏡
少子高齢化と医療問題
オンライン診療に対する国の規制はコロナ禍による非常事態のため徐々に緩和されていますが、以前までは慢性疾患患者もしくは再診の患者しか認められていませんでした。
そのような環境下で吉澤教授は高齢者の在宅診療と医師不足を解決するため、2009年にICTを活用した電子診療鞄を開発して遠隔医療の実証実験を行っています。2011年の東日本大震災ではより小型化された超音波診断装置が実際に活用され、遠隔医療をいち早く実践した事例が紹介されました。今後は法制度や社会的制約の問題が更に解決されれば介護や保険、警備といった様々な事業分野との連携に新たなビジネスチャンスがあると説明されました。
心電図を使わず脈波だけで健康をモニタリングしたい!
心電計は循環器系の診断に優れていますが医療機器レベルとしては高度であり、病院以外での使用は薦められませんでした。そこで吉澤教授は脈の動きから神経系作用がわかることを応用し、家庭で安全に使える光電脈波計で測定した脈波から心拍数を解析して心臓の状態を知る方法を解明しました。
心拍間隔は心臓の収縮のタイミングを表すことから心臓の事変的調整機能を表し、脈波振幅は動脈の血流量を反映することから血管運動の調整機能が表せます。これによって患者の平常時の脈波に対し、心拍数を解析することでストレスがかかっているかどうかの比較を見ることも可能となりました。
非接触で脈波を計測したい!
東北大学は文科省/科学技術振興機構センターオブイノベーション(COI)プロジェクトの下、家庭内の様々な生体センサーを使った非接触の状態で健康が確認できる日常人間ドッグの研究をおこなっており、吉澤教授は鏡の前に立つだけで健康状態を教えてくれる「魔法の鏡」の研究に携わっています。
皮膚の外側の周辺光が皮膚の内側1㎜の毛細血管に吸収され、その残りの光を鏡に設置された小型カメラで捉えて映像解析を行うことにより、血行状態や脈、心拍数の計測が可能となりました。更に研究を重ねた結果、「魔法の鏡」は光電脈波計と同等の脈拍を瞬時に計測することが可能となり、鏡の前に立つだけで健康状態やストレスチェックに関わる測定が可能なところまで来ています。
心拍数ではなく血圧を測定したい!
次に、鏡を見ているリラックスした状態で血圧の絶対値が推定できるかなどの新手法について、脈波を使った実験結果の説明がありました。心臓から近い頬から心臓から遠い手のひらの映像脈派と、同様に額から手のひらの映像脈派の時間差(脈波伝播時間差:PTTP)が、実際に計測した被験者の血圧と同じ波形を表す相関性が紹介されました。被験者の正常な血圧を登録しておくことで、日々の血圧の変化が非接触かつ容易に行える事例が紹介されました。
クラウド版 魔法の鏡
PCのカメラで撮った自分の映像をクラウドサーバーにアップすることで、自分の映像脈波の解析結果が返ってくるクラウド版「魔法の鏡」の紹介がありました。平均心拍数、血行の良さ、血圧相関値、自律神経年齢などの項目が瞬時にダイヤグラム化され、体調の変化による比較グラフとして表されます。
今後は疾患の管理や乳幼児、運転者などの体調推定を完全非接触かつ遠隔から確認できるサービスの実用化に向けて、更なる研究が行われています。
(以上で講義終了)
グループトークによる質疑(質疑のみ記載)
Q1.遠隔で計測できる聴診音の開発目途はあるか?
Q2.遠隔医療に関し家畜動物への適用事例はあるか?
Q3.心拍数、血圧以外のバイタルデータで測定可能なものはあるか?
Q4.脈波を皮膚で計測する際、光の強さや計測場所に規制はあるのか?
Q5.非接触でうつ状態や孤独状態などのメンタル情報を計測することは可能か?
Q6.非接触で行う理想的な計測時間はどのくらいか?
Q7.NTTグローバルイノベーションで賞を取ったイスラエルの会社との違いは何か?
Q8.「魔法の鏡」の具体的な運用状況や企業詳細を教えてもらえないか?
Q9.被験者の血管の硬さによって脈波の計測に影響はあるのか?
Q10.脈波で脳の一定の機能を計測することは可能か?
Q11.年齢と心拍データの相関の位置から自律神経失調症などがわかるか?
総括
村田特任教授よりポイント3点が示されました。
- 吉澤教授は、遠隔医療の促進や医師不足の解消から心電図を脈波に置き換えて計測しそれが非接触でも計測可能となり、最終的には脈波で血圧も計測できつつあります。これにより遠隔医療、非接触で行うバイタルデータを把握することも可能となりました。
- 今後の課題は「魔法の鏡」のアウトプットで出力されたダイヤグラムの項目を、一般ユーザーが使いやすいような判断基準に掘り下げて解りやすくすることです。
- コロナ禍による影響はしばらく続くため、病院や介護施設、高齢者住宅及び在宅においても非接触での利用価値はますます上がります。
以上
(文責:SAC東京事務局)
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