SAC東京4期コースⅠ第10回月例会 事務局レポート

美しさと加齢

第4期コースⅠ第10回月例会は講師・大学院文学研究科の阿部恒之教授による「美しさと加齢」が講義テーマです。
講義は以下の3つのポイントで進められました。どれをとっても老化のマイナスイメージを払拭するものばかりです。

  1. 加齢に対する2つのイメージ:「老醜」と「老賢人」
  2. 加齢の実態:加齢と劣化は異なる
  3. 減点法の美意識と加点法の美意識

加齢に対する二つのイメージ

「加齢」とは「老賢人」=経験・知恵の蓄積と、「老醜」=心身機能の衰退という二つのイメージがあります。
老人、老醜の絵画としてゴヤ「スープを飲む二人の老人」(Pardo, Madrid作)が示されました。さらに「ハリーポッターと賢者の石」のアルバス・ダンブルドアやレオナルド・ダビンチの「自画像」は「老賢人」のイメージとして紹介されました。水戸のご老公のように「隠居」とは公務の免除を意味しています。

阿部教授は加齢の実態を「老いの泉」(ベティ・フリーダン)を引用して説明を展開していきました。人は加齢と共に自分にとっての意味を求めていく傾向があります。流動性知能は衰退し、結晶性知能は成長を続けていきます。

  • 「流動性知能」抽象的問題解決能力・記憶力、20歳代を過ぎると衰退
  • 「結晶星知能」経験・知識・専門性・知恵、生涯成長

アフォーダンス(affordance)

人は「自分」にとっての意味や価値をものさしに環境をはかっています。これは生態学的測定、生態学的値です。阿部教授が使った「アフォーダンス(affordance)」という言葉は「アフォード:〜することを可能にする、〜せしむる」からきた造語です。

痛みの表現実験

年齢によって痛みの表現が変わってきます。語彙と感覚の関係のグラフを示しながら、高齢者は「ズキンズキンと痛い」という擬音語による表現が苦手になり、「やりで突き通すような痛み」という直接比喩へ変わっていきます。

高齢者の笑い

高齢期には表情筋が動きにくく、他者には高齢者の顔が笑っているように見えない、楽しんでいるように見えなくなります。お互いに無愛想だと思い、感情を疎通し合うことが難しくなります。しかし、表情に示すことができにくくなりますが無意識に体動に表れます。本人には豊かな感情の自覚があるのに他人には感情が伝わらない、これがコミュニケーションギャップとなり孤独感へつながってしまいます。

赤ちゃん言葉

健康な高齢者は赤ちゃん言葉(育児語)で話されると不愉快になります。他人はより良いコミュニケーションのために良かれと思ってしまいますが、ここにも根深いコミュニケーションギャップ(思いのすれ違い)があります。

高齢者専用病院の入院患者における不快の数値が健康な高齢者より低い理由は、高齢者がもう諦めてしまっているのではないか、育児語への不快は老いの自覚であり、諦めはすなわち「年寄り扱いの容認」で消えていくのではないかと阿部教授は推察しています。

一般に加齢により次第に筋力は衰えます。一方、統計を見ると年々高齢者の平均的な筋力は増大しています。持久力、平衡感覚も同様です。長座体前屈にみる柔軟性は横ばいですが、70歳代女性は年々柔軟性も高まってきています。高齢者の身体機能もトレーニング次第で向上すると、データと共にご自身の実践も加えた説明には説得力がありました。

加齢に対する誤解

加齢によって心身全ての機能が衰退、喪失するわけではありません。加齢による身体の衰えが、精神機能も衰退したと誤解を招きがちですが、「経験知」ともいうべき異なる知恵が堆積していく部分があります。

また加齢による心身機能の低下や老いの自覚は個人差が大きく、高齢者自身も若い周囲も加齢に対する認識を間違えてしまい、自己認識、現実、他者認識におけるコミュニケーションギャップが課題となっていきます。

減点法の美意識と加点法の美意識

「あなたはおいくつですか?」という問いに対して、何と60%の人が少なくサバを読んで答えています。ここからも「若いことは美しいことである」という「若さ信仰」が根付いていることが分かります。

しかし、「美の規範」は加齢に伴って変化します。一番嫌われているのが「シミ」であり、肌の加齢変化に対する美しさと健康評価には密接な関係があります。

加齢によって起きる肌への刻印による「減点法の美意識」だけではなく、加齢とともに蓄積される何かの要素があります。若さを無理に求めない年齢なりの美と健康を良しとする「加点法の美意識」が重要だと強く訴える阿部教授です。

美はそれぞれの年齢にあります。
世阿弥「風姿花伝」が示す若さゆえの美「時分の花」から、修練で備わった「まことの花」への転換が超高齢社会に対するパラダイムシフトです。

【グループ質疑】

各グループから出た質疑は以下の通り(質疑のみ記載)

Q1.商品開発事例はあるか?
Q2.判断の変化、体も判断も変化しない、体の衰えに判断が追いつかない、この三つに分かれる要因は何か?
Q3. コミュニケーションギャップが生まれないようにする対策はあるか?
Q4.育児語を変えて欲しいというニーズがあるのに変わらない背景は?
Q5.アンチエイジングからスマートエイジングへのアプローチの仕方は?
Q6.笑顔を引き出すトレーニングは?
Q7.美に対する意識はダブルスタンダードで考えた方が良いか?
Q8.認知症の方の化粧に対する美の意識は?
Q9.綺麗なモデルなどに頼らない美しさへアプローチする告知方法は?
Q10.男性は女性のコメント、女性は女性のコメントを気にする。製品の開発のポイントは?
Q11.認知症になっても美しさを保ちたい、そんな実例はあるか?
Q12.しなやかに、自分で加齢に向き合っていくために必要なポイントは何か?
Q13.教授にとってエイジングのモデルは誰か?

総括

コミュニケーションギャップを解消するビジネスを考えることがポイントです。

ギャップは脳機能の低下が原因となっていることも多く、脳トレ、学習療法などの認知機能向上へのチャレンジが有効となります。

「美の規範」は年齢によって異なります。製品・サービスにおける美のスタンダードをもち、美しさと健康の密接な関係を紐解くことがビジネスのポイントです。

以上

 

(文責:SAC東京事務局)

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