SAC東京4期コースⅡ第8回月例会 事務局レポート

東北メディカル・メガバンク計画とゲノム医療

『東北メディカル・メガバンク計画とゲノム医療』をテーマに、東北メディカル・メガバンク機構長である山本雅之教授の登壇です。

「やわらかく進めさせて下さいね」と上着を脱いで講義を開始した山本教授の笑顔に、参加者たちの緊張は一気にほぐれました。

東日本大震災の創造的復興のために、最先端の未来型医療を届けたいと考えてココに到着したと語る教授です。東京に暮らす私たちの想像を大きく超えた震災被害の理解から、本日のキーワードである個別化医療(予防)の講義へと入っていきました。

未来型医療としての個別化医療・個別化予防

病気にならないように個別化予防をし、病気になったら個別化医療をするのは当たり前のようで難しいものです。全ての人に平等に効く医療はありません。一人ひとりに適した医療には、その人の遺伝子の理解が必要なことがわかります。

創薬や医療情報産業の拠点形成による東北地方の再生・復興が願いであると教授は力強く語ります。3.11の大震災は厳しく辛い出来事でしたが、より健康で豊かな生活を実現し「健康長寿の国」を作ることに大きな貢献をもたらしつつあります。

Polygenic risk score(PRS;多遺伝子リスクスコア)

  • 遺伝子バリアントを使って個人が複雑な遺伝子疾患を発症する確率を計算する多遺伝子リスクスコア(PRS)の研究は大きく進展し、現在では多因子疾患について発症リスクを予測できる信頼性の高いスコアが比較的容易に得られるようになりつつある
  • 一般的な集団よりも心血管疾患を発症する可能性が高いことを示す多遺伝子リスクスコア(PRS)が示されたら、それは医者の指導に従って生活スタイルを変えたり、コレステロールを下げる薬を処方してもらったりする動機になるだろう
  • 全ゲノム塩基配列解読はやはりコストが高いが、それに比べてPRS算出に使われるアレイチップは一般に100ドル以下であり使いやすい
  • 克服する課題はまだまだ多くあるが、ゲノム情報を基盤として健康状態を理解する方策は、全ての人が使えるようにするべきであり、そのための検査を臨床現場に導入する最良の方法を考えなければならない時期が来ているのである

NATURE MEDICINE情報とともに、現在の医療現場の力に遺伝子情報を加えると効果的であることが示されました。中でも、PRS算出に使われるアレイチップなら「10,000円ぐらいでできる」と知ったことで、グッと近づいた感覚を持った参加者たちのようです。

バイオバンク構築とゲノム・オミックス解析

データをすぐに使うためには統合データベースが必要です。個別化医療の前に、層別化医療が必要であり、東北メディカル・メガバンクの統合データベースabTMMの開発へと講義は進んでいきました。

理系の話を難しく感じる人たちも、「5年前にはメチャバンクと呼ばれた」ことが、「最近では嘘のように褒められる」という山本教授の研究の大きさは理解できます。これをいかに役立てていくのか?というミッションを受け止めた参加者たちでした。

「新しい事業には、新しい人材が必要」と語る山本教授に勇気付けられて60分の講義は終了しました。

アイスブレイク

村田特任教授が参加者の理解を深めるために講義のポイントを確認していきます。

  • ゲノムコホートとして何人いればよいのか? 15 万人は十分な数なのか?
  • その追跡調査はどのように行うのか?
  • 東北MM事業の他者に対する強みは何か? その強みを持つことができた理由は?など

たくさんの質問に山本教授は丁寧に答えます。そして最後に、国民は単純に給付水準を下げることには納得しない。ゲノム情報を医療のデータとつなげて、個別化医療・個別化予防の実現で健康になるしかないことをあらためて示しました。

グループトーク

講義内容を仲間と共有し、講師に質問する内容に集約します。20分の短い時間ですが、異業種の考え方や視点の違いがわかり、有意義な時間となっています。つながった企業同士で月例会後の活動も展開されているようです。

グループ別発表と講師によるコメント

質問を30秒にまとめ、各グループリーダーがテンポ良く質問をしていきます。講師である教授も60秒でコメントをします。

伝えたいことが止まらない山本教授です。質問に対してたくさんの情報とヒントをくれました。

〈主な質問〉

Q1.統合データベースを具体的にどう使っているの?
Q2.人材確保、人材育成について教えて
Q3.3.11震災後の事業だが、精神面での病気への影響は?
Q4.遺伝要因、生活要因の情報がわかった後はどうするの?
Q5.遺伝レベルでわかった時の対策を教えて
Q6.東北のコホート調査を他の地域でやったらどうか?
Q7.事業の継続性として、何処、何に期待しますか?
Q8.今後の企業との連携は?

総括

個別化医療、個別化予防。ゲノムコホートはエスニック単位でないといけないことなどもわかってきました。

震災後、未来に向けて何かやろうとした山本教授たちと地域との信頼関係が成功につながりました。

ゲノム医療は先の話ではなく、近い将来健診センターでできる時代が来るでしょう。

産業界との連携としては、医療と関係ない企業がメガバンク情報を活用しています。

大学の役割と企業の役割をあらためて感じた月例会となりました。第5期への期待を膨らませ、終了後の講師との名刺交換も賑やかでした。

以上

(文責:SAC東京事務局)

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