SAC東京3期コースⅡ第6回月例会 事務局レポート
9月21日開催 SAC東京コースⅡ 第6回月例会 事務局レポート
SAC東京初登壇の菊池雅彦教授は、東北大学病院総合歯科診療部で診療をしている歯医者さんです。「健やかな老後と口の健康」をテーマに、身近な歯のことからスマート・エイジングを学びます。
歯の喪失
脳の生理的老化と病的老化の臨床経過の比較から講義は始まりました。歯が抜けるのは病的な感染症由来であり、決して「老化」ではないのです。そして、一度失ってしまうと不可逆的であり、機能低下を伴って生体に有害となります。高齢だから歯が抜けるのは仕方ないのではなく、失わないようにすることが大切です。
歯の数の推移
平成元年からの8020運動では「80歳で20本の歯を持つように努力しましょう」を目標にしました。20本あれば咀嚼に問題なく食べていけるからです。その頃の対象者は数十パーセントでしたが、平成28年のデータでは、8020達成者は51.2%にも増加しています。
総歯数28本に親知らず(智歯)4本を加えてチンパンジーと同じ32本の歯を持つ人の話では「退化傾向である第3大臼歯のある人がチンパンジーに近いわけではありませんけれど」と参加者を笑わせる菊池先生でした。親知らずは親元を離れる頃(17~18歳位)に生えるためについた名前だそうです。
抜歯の主原因
2005年のデータによると、歯が抜ける原因は歯周病が41.8%です。う蝕(虫歯)の32.4%より歯周病の方が怖いことがわかりました。たくさんの事例を写真で紹介されますが、顔をしかめながら聞いている参加者もいます。多くの人に身に覚えがある歯の病気です。
口の機能
食べる、話す、呼吸、表情、感覚など、歯がなくなることでいろいろな機能に障害をきたします。入れ歯は食べるためだけではないことを理解しました。入れ歯があることで機能が回復した事例も紹介されました。
咀嚼能力の低下による影響
自分の歯は土台にしっかりついていますが、入れ歯は粘膜の上にのせている状態です。見た目は同じでも噛む力は全く異なります。「入れ歯にすれば良い」わけではありません。歯を失うことで噛める食品の幅が狭まり、栄養が摂りにくくなります。
寝たきり予防健診 “鶴ケ谷プロジェクト”
医学部との共同研究で歯の保有状況との関連性を検討しました。原因と結果の関係は不明ながらも、歯が少ない人は運動機能が低下して転倒や骨折をし易いことがわかりました。また、認知機能が低下して認知症になる人が多く、閉じこもりがちでうつ傾向である等の関連性もわかりました。これが寝たきりになる原因になっているようです。
動物実験で見た認知機能
空間認知機能実験では、若いマウスは歯の有無に関わらず学習しました。老化のマウスは歯のない方が学習できません。視力は歯の有無は関係なく、歯の修復をしたら学習能力が回復することが動物実験でわかったのです。
【アイスブレイク1】
Q1.歯の数が増えている理由は8020運動の効果だったのか?
Q2.失った歯の数で噛める食品の幅が狭くなる。何本あればよいのか?
Q3.歯がなくなることと認知機能が低下するメカニズムは?
村田特任教授が前半の講義を振り返って3点の質問をしました。確認することで「ナルホド」と理解が深まりました。
歯周病菌と脳梗塞
歯周病菌が血管内に入り、アテローム性動脈硬化を増長させて脳梗塞を発症させるという関連結果が示されました。歯肉溝が深くなると歯周ポケットとなります。40歳代の5割が歯周病であり、出血し易い人は8割にも高まるそうです。
歯周病の発症原因
外部環境や遺伝もありますが、生活習慣が大きな要因です。飲酒は酒が悪いのではなく、飲んだ後に歯磨きをしないことが悪いのです。喫煙は重要なリスクファクターであり、菊池先生も35歳でタバコを止めてから調子が良いそうです。
ケアグッズ活用の勧め
30~40歳を過ぎたら、生理的老化によって歯肉が下がり隙間ができます。これによってできた歯間の汚れを見落としがちなことが問題となります。「痛くない程度のサイズを選択した歯間ブラシやデンタルフロスを加えて歯磨きを完成して欲しい」と歯ブラシだけでは不足であることが強調されました。
義歯(入れ歯)
ほとんど歯がなくても義歯を使用すれば、自歯が20本以上ある人と認知症の発症率はほとんど変わらない調査結果も紹介されました。ホスピス入所者の事例では、「最期にきれいな顔で見送りたい」から入れ歯を作る方など、食べるためだけでない入れ歯の効果に参加者たちもうなずいています。
高齢者の口腔ケアに簡易なチェック用品が手軽に手に入ると、カンジタ菌の状態がわかるなど予防に効果的です。口腔ケアがやりやすい商品が、体温計レベルで持てるようになると良いことが商品紹介とともに提案されました。
まとめ
・老化現象で歯が抜けるのではない
・入れ歯は天然歯より機能的に劣る
・歯の欠損や歯周病は全身に影響する
・むし歯や歯周病は全身に影響する
・健やかな老後は口の健康から
【アイスブレイク2】
Q4.義歯使用の効果は?
Q5.カンジダ菌と歩行とは?
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後半を終えての2回目の深掘りです。村田特任教授の質問に菊池先生は「歩行できる人は歯も磨け、健康管理ができる」と答えます。すべてがつながっていることを納得して講義が終わりました。
【パネルトーク】(会場からの質問も含む)
3名のパネリストの自己紹介と質問から始まりました。菊池先生は丁寧に回答や考え方を説明してくださり、講義内容が深まっていきます。
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Q1.口をケアして良い効果は?
Q2.自己修復力のない歯を補う商品は?
Q3.歯周病は改善するのか?
ファシリテータの小川事務局長からも用語の確認です。
・大学病院の歯科に受診する人は重症者?
・在宅歯科とは訪問診療のこと?
Q4. 改善した事例の方のはじめの変化はどんなこと?
Q5. 予防として子供時代に摂取しておくと良い食品は?
Q6. 完璧な歯磨きとは歯医者に行って清掃した方がいいのか?
Q7. ケミカルな清掃は?
Q8. 歯周病菌を殺せばいいのでは?
Q9. 高齢者が増え、歯が残る人も増えていますが施設ケアの展望は?
Q10.フッ素の使用はどこまで許されているの?
Q11.歯科医は介護に興味を持っているのか?
Q12.東北大学は町の歯医者への指導は進んでいるのか?
Q13.糖尿病と歯周病において、歯科医側から内科医へのアプローチは?
Q14.朝食前の歯磨きの方が良いの?
・リトマス紙のように目で見てわかるモノがあるといいね。
・ビジネスに関連づけるためにはどう絞るかが大切。
・美味しさに加えて咀嚼も大切。
・商品開発では、何が困って、何が欲しいかを可視化したい。
・少し根拠がわかった。
等のパネリストの意見に、今後の展開を期待します。
【総括コメント】
村田特任教授の3つのポイントで月例会は終了しました。
(1)口の健康は口の健康に留まらない。
(2)誰でも簡単にできる口腔ケアがビジネスになりそう。
(3)ビジネスにつなげるには啓蒙が必要。
歯磨きは当たり前の生活行動ですが、ビジネスへのヒントになることも多かったようです。
(文責)SAC東京事務局
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