SAC東京コースⅠ第11回月例会 事務局レポート

2月23日開催 SAC東京コースⅠ第11回月例会 事務局レポート

第11回月例会は教育情報学研究部の北村勝朗教授によるテーマ「どうすれば超高齢社会でシニア人材が活躍できるか?〜コーチングの視点から〜」の講義です。本テーマはSAC東京参加者同士で運営されている「テーマ別分科会」でも取り上げられているほど、参加企業にとって関心の高い課題です。

北村教授は見た目と同様に礼儀正しく、丁寧なご挨拶から入りながら「才能の開花には良い指導者がいる」と口火を切りました。それは「自分でやってみなさい」というコーチング型の指導者の姿で、いくつか企業内で実践されているスタンスだそうです。 本講義は教授が介入研究している前川製作所の事例をベースに組み立てられています。

定年後に働き続ける条件

教授は参加者に質問を投げかけました。 「従業員が定年後に今の会社で働き続けることができる条件は何か」 それは次の3つです。

1. やりたいことが明確であること
2. 周りがその人を認めていること
3. 心身ともに健康であること

しかし、高齢白書によると、今の会社で働き続けたい人は65%以上存在しますが、実際には部下が上司になり、給料が下がり、ロボット導入による自動化で役割がなくなる、など職場環境は難しくなっています。それではどんな人だったら定年後も働き続けられるのでしょうか。

シニア人材の凄さ

大リーガー・イチローのバットを作っているバット職人の事例です。イチローのバット10本は常に同じものでなくてはなりません。どこの環境に育った木なのか、年輪など素材選択には総合的な判断能力が必要となります。同じように人にも定年を迎えた時には才能だけではなく、どう育ってきたかが重要だと北村教授は説いていきました。

例えばシニア層にも指導者には向いていない人がいます。それは指導者として育ってきていないからです。心身ともに健康である条件設定には、そのサポートシステムが必要となります。シニア人材活用を目標に掲げるのであればシニア人材の育て方と、育ったその後のフォローが必要となります。

コア人材、育成人材、支援人材

北村教授はマーケティング業界のある企業の意識状態比較事例を示しながら、シニア人材を以下の3つに区分しました。

「コア人材」:成長の実感をしているが会社の帰属意識が低い人
「育成人材」:少し停滞しているが伸び代がある人、満足感が高く、成長を実感している人
「支援人材」:疲弊して渇望している人、とにかく会社にしがみついていたい人
それぞれの満足感と渇望感が異なるという分析を示しました。

シニア層に対する「どのようなシニアであるべきか」というインタビューでは、定年後に「在りたい自分」、「何ができるか」、「どう頑張れるか」という声が上がってきました。

勉強と学びの違い

そこで、北村教授は次の問答をしていきます。
「仕事で成長していない人は向き、不向きが原因でしょうか」
いいえ、それは質の高い学びができていないことが原因です。
「長年仕事を続けていれば自然に上達するものでしょうか」
いいえ、むしろ停滞し、少し低下します。
「努力すれば上達するのでしょうか」
いいえ、正しい方法で学ばないと上達しません。

次に、北村教授は人材活用のために必要な3つのヒントを示しました。
「場所がある」−良い学びの場、居場所
「関係がある」−人のつながりが後押しする
「変化がある」−シニア人材のコーチング

人を育てる時には、教えるだけではうまくいきません。「勉強」と「学び」の違いがあるからです。「学び」とは「自分はこう在りたい」という目標設定が必要です。教えるだけだと「何を?」「なぜ?」を問わなくなります。全部教えられた人の翌日にはエラーが増え、教えられたことはできるが応用が利かなくなります。自分で工夫しようという情報処理活用が抑制され、「学び」が減退してしまうのです。

熟達とは?

熟達は「わかる」から「できる」を経て「見通せる」という状態へ到達することです。まずはできないことができるようになることです。そして「できる」とは適切な方法を選び、知識(わかる)を実践できることです。

「見通せる」とは、全体のイメージを持ち、自分のエラーや状況を把握(モニタリング)し、異常等に気づき修正する(実践的省察)ことです。すなわち熟達者とは目の前のことだけを考える(反応型リーダーシップ)のではなく、状況を客観的に俯瞰的に考え、行動すること(内省型リーダーシップ)ができる人となります。

「自分には何ができるか」と考えざるを得ない場の設定も必要となります。
また、同じことをやっていると停滞していきます。新しいコトにチャレンジする「改善力」も重要です。

どんな「学び」をすると良いのでしょうか。
失敗について怒られることはない、そこから何を学ぶことができるかが重要だと言います。しかし、そこには企業文化が影響すると北村教授は参加者に投げかけました。さて、SAC東京参加の皆さんが所属する組織、会社はどうでしょうか。

熟達のフロー

「熟達」を「導入期」、「専門期」、「発展期」の3期のフローに分けてみると理解がしやすくなりました。「導入期」はまさしく若い時期で欲求が生ずる段階です。「発展期」は50歳代くらいとなり、他者に知恵を与え、俯瞰する立場となります。「専門期」はその「導入期」から「発展期」への移行期となり、自分らしさを作り上げることに夢中になる期間となります。

関係性の中で生まれる熟達

メッキ職人のインタビュー例が紹介されました。仕事をマニュアル化しようとしてもなかなか考えがまとまらず作業が進みません。しかし、誰かが質問してくると答えることができるということがあります。これは私も大いに実感できることです。このように熟達には他者とどう関わるかということも重要となります。

「学び合う場」には「言える」、「聞ける」、「見える」という「学び合う状態」の区分があります。「言うべきことは言う」も社風によります。

探究的な初心者

「聞く組織文化」というのもあります。会社に長く働き続けることによって自分の部下が上司になることが起きます。そんな状態でも聞いていく、分からなければ一緒に考え行動することが必要となります。もちろん部下にも聞いていく、失敗から学ぶ、60歳になってからも学び合える、経験や知識と現場感のギャップからも学ぶ、この状態が定年後にも働きやすい環境となります。成長し続けるためには「探究的な初心者になる」ことだと北村教授は言います。

機械的な熟達と適応的な熟達

「機械的な熟達」とは同じことを何度も繰り返すことにより、その技能が速く正確にできることです。一方、「適応的な熟達」とは状況の変化に応じて適切な解決方法を見つけることができることです。

記憶の中に知識がどのように蓄積されているかがポイントであり、利用可能な条件が結びついた活性化された知識によって多様な状況の中で俯瞰的にモノを見て、一緒に物事をとらえ、考えることにつなげていかなければなりません。

熟達に導くコーチング

「コーチング」とは「相手の自律的な行動を誘い出す」ことであり、「後押ししながら一緒に行く」ことです。ちなみに「ヘルプ」とは「連れて行ってあげる」こととなります。

優れた指導者は自分自身に問いかけて状況を客観的にみるという「内省型リーダーシップ」のスタンスで、「振り返って考える」、「周囲を見る」、「前後を見る」、「先の見通しを持つ」という手法を駆使しています。

さらにコーチングは以下のような関係性を作り上げています。

「できる化」
お互いに自由にモノが言えて、相手の言葉に耳を傾け、状況・情報・思考が共有できる関係を作ること。
「わかる化」
自ら考え、振り返り、気づき、行動していく姿勢を促すこと。
「しかけ化」
各人の目指す課題に自分で挑戦し、成功・失敗体験を積み重ねること。
重要なことは、「考えることを見守る」ことです。

さらに北村教授はシニア人材のコーチングを以下の3つにまとめてくれました。
カーナビタイプではなく、「自分でナビタイプ」
スパルタタイプではなく、「自由に考えるタイプ」
失敗回避タイプではなく、「挑戦タイプ」

期待とプレッシャー

期待がプッレシャーになってしまうこともあるので注意が必要です。「プレッシャー」は、自分がこうなってほしいという願いを押し付けてしまうことで生じます。「期待」は相手がどう在りたいのかを尊重することです。すなわち努力の過程が評価されます。

褒め方

結果を褒めるのか、プロセスを褒めるのか、褒め方も重要です。実に興味深い事例が紹介されました。「頭が良いね」と結果を褒められると、次は失敗を回避するために70%の人が簡単な問題を選択し、点数が20%低下してしまいました。逆に「よく頑張ったね」と挑戦のプロセスを評価された90%の人は難しい問題を選択して、長くそれを楽しむようになったために点数が30%アップしたそうです。確かに私も「頭が良いね」という褒め方をされても褒められた気持ちにはなりません。

シニアはどういう人材であるべきか

シニア層は肩書きの意味を拡大せず、ポジションではなくアクションを重要視すること。 企業側には風通しが良い文化があり、シニア層が心身ともに健康であるサポート体制と環境があること。そうすれば人は60歳になっても変化し続けることができます。

ここが本講義テーマの「シニア人材活用のポイント」と締めくくって北村教授の講義は終了しました。

【アイスブレイク・タイム】

村田特任教授は、文系的な内容の方が実はアイスブレイクがやりにくいと苦笑いしながらアイスブレイクに入って行きました。

Q1.「シニアの定義」とは何か。
村田特任教授は「シニアビジネス」の観点からは60歳以上がシニアと定義付けをしています。その理由は、正味金融資産がそれ以下の年齢層に比べて大きいこと、60歳という年齢が様々な変化が起こりやすい節目の年齢でありことです。北村教授は一定の年齢ではないものの「定年を迎えた人」と位置付けをしています。

以下、村田特任教授から北村教授へ再確認された質疑項目のみを記載します。
Q2.事例に上がった前川製作所とはどんな会社か。
Q3.どこまで他の業界に活かせるか。
Q4.シニア人材が働き続けるための企業側の条件の再確認。
Q5.シニア人材に必要なポイントの再確認。

【グループトーク・タイム】

ここからは6グループに分かれてグループ内の質疑をまとめるためのディスカッション・タイムです。各グループリーダーにファシリティターを努めていただきました。

【グループ質疑】

各グループがまとめた質疑をグループリーダーが発表し、北村教授がそれに回答していきました。以下、グループ質疑順に項目のみを記載します。

<グループ1>
Q1.熟達したシニア人材の判別方法は?
Q2.熟達者はスマートエイジングしているのか?

<グループ3>
Q1.意識状態比較に示された図の中のあるべき姿はどうか?
Q2.前川製作所以外の企業調査はあるのか?調査介入する条件はどうか?

<グループ5>
Q1.シニアの熟達は特殊な事例なのではないか?熟達以外のポイントがあるのではないか?
Q2.肩書きではないやりがいが重要と言われたが、給与水準は肩書きによる。何かうまいやり方があるのか?

<グループ2>
Q1.モチベーションを保つ時期や方法は?
Q2.事務系社員は早い段階で知識を有することができると考えるが、シニアにおいて位置付けが変わってくるのか?

<グループ4>
Q1.年齢の差、年下の上司、年上の部下との関係性のポイントは?
Q2.シニアの延長で見た場合、外部から来た人が離職する事例?

<グループ6>
Q1.シニアの活用事例は一般にも活用できるのか?
Q2.良い事例が多いが、悪い事例は何か?

【統括コメント・タイム】

村田特任教授が再登場し、本講義を統括しました。 どの参加者にも重要なテーマであるため、以下の統括内容を一斉にメモを取り出しました。

(1)シニアの活用はすぐ答えが出るテーマではなく、継続的に議論していく必要があること。
(2)業務を通じて「経験したこと」を内省により「体験の知恵」に変える力量を身につけることはシニアになってからやり始めたのでは遅い。
(3)しかし、歳をとってからでも経験を体験知に変える内省は重要である。
(4)「学び続ける」ための職場環境が必要である。
(5)会社はルールではなく、社風で動く。学び続ける社風を築くことが重要。そのカギは経営者と現場のリーダーにある。
(6)「探究的な初心者」が定年後も活躍できるシニアのキーワード。
(7)シニアになる前に学び続けること。
(8)シニアになっても学び続けること。
(9)若い方にはキャリアのなるべく早い段階で仕事を通して「学ぶ楽しさ」知ってもらうこと。

以上を持って第11回月例会を終了いたしました。

世界に先駆けて日本が迎えた超高齢社会、誰もが初めて歩く道であり、先に見える風景には霞がかかっています。一つの条件が変わるとその風景も変わってしまいます。 「探究的な初心者」であるためには、好奇心をもって不安を楽しさに変えていく先駆者でなければなりません。 その人こそが私たちが目指すスマート・エイジング・モデルです。

以上

(文責)SAC東京事務局

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