SAC東京コースⅡ第4回月例会 事務局レポート

7月28日開催 SAC東京コースⅡ第4回月例会 事務局レポート


blog160728sac2-4-1「カメラによる健康センシング~身体映像から生体情報抽出~」
をテーマに東北大学サイバーサイエンスセンター先端情報技術研究の吉澤誠教授の登壇です。講師紹介を受けて、講義は在宅医療用心電図伝送・監視システム「Duranta」の説明から入りました。

あなたを見守る

遠隔医療に用いられる心電図「Duranta」は花の名前。その花ことばは「あなたを見守る」という意味です。吉澤教授は、サイバー医療で健康社会を作るために、制御・情報・通信技術を駆使した先端的医療システムを開発してきました。それが東日本大震災の被災地医療IT化に大きく寄与したのです。

少子高齢化と医療問題

子供は減り、高齢者は増え、生涯独身者を含めて血縁の家族だけでは支えられない時代です。医師も偏在して地域医療は崩壊するのではないかと危惧されています。「地域医療がなくなっちゃうの?!」を解決する手段の一つとしてICT(情報通信技術)の活用に期待が寄せられています。

blog160728sac2-4-2技術をどのように活用するのかが課題

たくさんの健康支援機器が開発される中、震災の場でもモバイルを活用して検証を進めてきました。診療所の医師に、在宅を訪問している看護師から患者さんのデータが送られます。医師は離れた診療所で診断をすることができるのです。大切な診断です。画像情報は鮮明でなくてはなりません。超音波診断情報はスカイプでは送れないそうです。

知的クラスター創成事業

2008年、日立製作所との共同研究にて、無線通信技術を利用した脈波モニタリング装置を開発しました。「考えることは同じだけれど、実際に継続するのが大変」と、新しい取り組みの大変さを語る先生の言葉に大きく頷いている受講生の皆さんです。

見守り用小型無線式心電計

電極が2つの心電計は、心疾患診断とは異なり「目安」として使用します。見守り用として開発しましたが、在宅では「あと何時間後に亡くなりそうである」といった看取りの目安としても活躍したそうです。独居の看取り時などには確かに役に立ちそうです。

電池交換

在宅への訪問診療を週に一回としている場合、その間に電池の切れない開発が必要でした。バージョンアップして実用化へと進め、2年で市場へ出すことができました。情報はスマートフォンからサーバーへ送信して、主治医でなくても閲覧できます。地域医療だからこそ必要なことでした。

リハビリテーションの指標

心筋梗塞を発症して入院加療した方など、退院後、自宅でのリハビリ効果を測る事ができると、意欲の向上、内容の調整に役立ちます。現在、血管の硬さを測定することは可能ですが、「循環器の機能」を測定することは難しいそうです。

循環系の2変数の相関解析

自律神経機能をモニタリングするための方法の一つとして、同じ状況下での「連続血圧」の測定が在宅では困難なため、循環系の2変数の相関解析へと研究は進みました。安静にしている時と、驚いて心拍数が上がった時などの変化を見ることで自律神経の状態を評価するのです。

血圧と心拍

安静時は心拍数によって血圧をコントロールしています。よって、心拍数が変わると血圧も変わります。血管が硬い人は心臓から血液が流れるのに抵抗がかかるため、血圧は高い状態となります。また、映像刺激などに対する恐怖の反応にも個人差があります。たくさんのデータと分析のもと連続血圧の代わりに血圧情報を反映する脈波伝播時間の利用へと研究は進みました。

連続血圧計測装置は病院にしかありません。ましてや一度に一人しか実験できません。安価で小型の心電計が役に立ったのです。在宅で使用するために、脈波と心電図の両方を無線通信方式にした計測装置が開発されました。

心電図を使わず、脈波だけ計測したい

元来、心電図は医療機器です。脈波計であれば医療機器としてではなく、安価に普及させることができそうです。そんな思いと共に、光電容積脈波(光の吸収を利用して血液量変化を計測)で、動脈の血液量を反映させて自律神経機能を評価できる可能性が見えてきました。

指先に装着して血中酸素飽和度を測定する機器(パルスオキシメーター)は、バイタルサイン(生体情報)の観察において血圧や体温とともに必ず測定されるようになっています。指先に装着するセンサーは受講生の皆さんにも馴染みの機器でした。脈波振幅値は若年者が複雑波形で、高齢者は単純波形という違いがあります。「若くてイキの良いほうが複雑です」という教授の説明に会場に笑いが広がります。

非接触に脈波を計測したい

センサーは常に接触しているために不自由であり、時に痛みもあります。センサーを使わずに脈波を計測する場合はカメラが良いのです。電波は一次元的情報ですが、カメラなら二次元的情報が得られます。レーザースペックル法で顔表面の血流測定もできますが、自然ではありません。ビデオカメラは自然に使えるではありませんか。

心拍数ではなく、なんとか血圧を測定したい

「キレイな看護師さんの前では血圧は上がります」と笑いを取りながら講義は進みます。入浴時の気温差(温度差)を理由とした血圧変動事故死は交通事故死者数の3倍です。寒さから身を守るために血管が収縮して血圧が上がる人。熱いお湯によって血管が拡張して血圧が下がる人。冬季の高齢者の入浴事故は身近な問題です。血圧変動推定を身体映像から行う研究は、運動時、ストレス負荷時の調整のためにも役立てられそうな気がしてきました。

COI STREAMプロジェクト

さりげないセンシングと「日常人間ドック」で実現する理想自己と家族の絆が導くモチベーション向上社会創生拠点のCOI STREAM東北拠点の話に触れながら、その日常人間ドックが「穴に手を突っ込んで計測するなどはエレガントではないから嫌ですよね」とスマートにさりげなく計測することの大切さを語ります。自己管理が苦手な高齢者などには、遠隔からの健康管理アドバイスは役立ちます。そのためにもスマホなどを使って「身構えず」に計測できることは大切なのです。

脈波伝搬時間差の2つの計算方法

近位部と、遠位部の映像脈波から脈波伝搬時間差が計算されます。呼吸を止めることで血圧を変化させる実験により、血圧変動と正の相関(相関係数0.6程度)をしたという実験結果は特許出願済みだそうです。

オリンピック選手のへたばり具合

これらの研究によって映像から脈波や血圧の情報が得られ、オリンピック選手の疲労度もわかるようになるかもしれません。顔面の測定だけでなく、足のムクミ具合も計測できるようになり、オンラインで「働き過ぎです」などと遠隔での労務管理さえできるようになるという身近な話題は、会場の反応も良くなりました。これらを健康に結びつけないと飽きてしまうので「どのように活用するのかが問題です」と受講生に投げかける形で講義は終了しました。

【アイスブレイクタイムと質疑応答】

blog160728sac2-4-3村田特任教授によるアイスブレイクです。会場からの質問も含めて講義の理解を深めていきました。

広く色々な形で用いられるビデオカメラで「接触しないで情報が取れる」時代です。ビデオカメラで脈波を撮り、入浴前後や飲酒前後などの血圧の変動がわかることは、健康な人の情報としても面白いです。

これらの計測を記憶する場合、点の情報ではなく面での情報がわかります。唇は血流がないため変動せず計測できないこと。頬は末梢血管の支配が多いため感情の分析もできること。自覚のない肩こりもカメラで映すことで根拠を持って凝り具合が証明できること。組み合わせ方は工夫次第であるとの実例の説明に、参加者の多くが頷いていました。

ただし、計測は簡単ですが120フレーム以上が必要であり、オンラインの質の確保は現状では困難のようです。

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見守り用小型無線式心電計は、在宅での管理の一つとしては有効です。心臓発作直後の不安が大きい方などは、「見守られている」ことで安心して在宅で生活できるからです。しかし、老人ホームの看取りで活躍したという話は・・・「発見した後どうするの?」と、使い方次第であることを考えさせられました。

血圧計が手元にあり、自分で測定管理できる人には必要のないシステムですが、測るのではなく、自動的に、自然に、さり気なく「測られる」ことに意味があります。身構えず、さり気なくコントロールするべき人に役立つ点は大きく納得しました。

blog160728sac2-4-6これまで医療機器の活用は病院がメインでした。最近では在宅医療にもローコストで提供できる様になり在宅利用が有効です。医療機器の会社はコストがかかっても「ニーズがあれば作るものです」との教授の言葉に期待が膨らみます。家庭では精度はソコソコでも安易・安価にしないと普及しません。

遠隔より適切なアドバイスを受けられると、マーケットの拡大が期待できます。そのためにはたくさんのデータと分析で精度を上げることが必要です。「エビデンスのないものは役に立ちません」と言い切る教授に、研究者としての強さを感じたのは私だけではなかったでしょう。

【パネルトークタイムと会場からの質疑応答】

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参加者代表の3名と教授によるパネルトークです。自己紹介、企業紹介の後、教授への質問と回答が繰り広げられました。質問の一部を紹介します。

パネリストからの質疑

blog160728sac2-4-10Q.自律神経の状態がわかると何がわかるのか?
Q.具体的に内臓機能が悪いことがわかるのか?
Q.ストレスがわかるのか?
Q.どんな分野に使うのか?
Q.看取りの人はニーズがないの?家族が求めないの?
Q.ネット情報にある他の開発との違いは?
Q.サウナでも計測できる?

会場からの質疑

Q.自律神経年齢は?
Q.自律神経バランスによる不調を改善した場合もわかるの?

1989年頃の遠隔医療は電話でのコマ送り状態でした。この先、医療費の削減、地域での健康管理、健康延伸ビジネスに期待が持てるパネルトークでしたとの小川事務局長のまとめで終了しました。

(文責)SAC東京事務局

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