SAC東京6期コースⅢ第5回月例会 事務局レポート
無限大の価値を創造する~未利用資源の完全利用・高付加価値化技術~
コースⅢ第6回月例会は大学院工学研究科化学工学専攻 北川尚美 教授による「無限大の価値を創造する~未利用資源の完全利用・高付加価値化技術~」が講義テーマでした。
(ダミー)室山先生は、基本的には組み込みシステムをターゲットにハードウェアからソフトウェアまでの研究開発を行ってきました。東北大学ではMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小な電気機械システム)とLSI(Large Scale Integration、大規模集積回路)による半導体の技術を応用して、次世代ロボット用触覚センサネットワークシステムの研究を行っています。
自治体や国の機関、多くの企業と対外活動や共同研究を行いながら、2020年1月に株式会社レイセンスを設立し、社会実装に向けた活動も行っています。
触覚センサによる“ふれる”のデジタル化
初めに、ロボットハンドが掴んだおにぎりを落としてしまう動画から講義が始まりました。食品や果物のように不定形のものを適度な力で掴むには、視覚だけではなく触覚が必要になります。
感覚センサとしての進化の歴史
感覚センサとしての進化の歴史が紹介されました。
- 第1の革命:視覚→カメラ
- 第2の革命:聴覚→マイク
- 第3の革命:触覚→触覚センサ
触覚センサで充実するあなたの生活
室山先生が開発した触覚センサチップは、もともとロボットによる介護支援やコミュニケーションなどの生活支援に活用されました。そこからリハビリ支援(見える化、ゲーミング)、美容(スキンケア、化粧)、遠隔作業・動作(手術、診断、旅行)などに応用されています。
進めているプロダクト:ハードウェア編
室山先生は、触覚センサとしてのデバイスとシステムの提供のみならず、触覚センサ付きロボットハンドやロボットアームまで提供しています。
進めているプロダクト:サービス編
触覚センサならびにセンサプラットフォーム技術を基にしたサービス提供例が紹介されました。触覚センサを活用して車のシートの触り心地を数値化したり、プロが握るゴルフクラブのグリップ感覚をデータ化したりして、データビジネスに応用する手法です。
AI時代のロボット・エッジ用センサ
現在のロボットAIの学習には、イメージセンサのみを利用しています。より高度な学習のためにより多くのセンサが必要となるため、センサが小さくないとたくさん密に付けられません。また、センサを多くするには高い処理能力が必要となります。
コア技術:MEMSとLSIの集積化触覚センサチップ
室山先生は2.7mm四方のチップの中に、センサ(3軸力と温度センシングなど)、信号処理、データ伝送機能の全てを埋め込むことで、配線を増やすことなく多くの人工感覚器を付けることを可能にしました。ここでは、東北大学の強みでもあるMEMSとLSIの技術が活かされています。
コア技術:センサ・プラットフォームLSI
加速度センサや近接センサなど多くの追加機能の依頼から、室山先生は、集積化触覚センサに利用したLSIをより洗練化、拡張化したセンサ・プラットフォームLSIを開発しました。これにより、下記の機能が提供可能となりました。
- 多種原理/マルチチャネルセンシングに対応
- 高効率の省配線・高速通信
- 集積化を考慮した仕組み
集積化チップのブロック図
チップには、MEMS容量型センサ、センサ信号読取り回路、信号処理回路、データ伝送回路が詰め込まれています。ここでは、室山先生の開発したLSIの顕微鏡写真から集積化チップの構造の概要が紹介されました。
競合比較
国内及び海外の大学が研究するセンサの競合比較が紹介されました。個別競合技術と詳細を比較しても室山先生の技術は同等以上であり、特に多点計測では明確に優位であることが分かりました。
コア技術:触覚センサシステムの開発
デバイスのみならず、現在開発されているハードウェア(セサノード)、ソフトウェア(API、制御プログラム、シミュレータ)の触覚センサシステムの紹介がありました。
触覚センサ多数個接続と標準モジュールシステム
集積化触覚センサ100個のシリアル接続や、好きなところに好きな個数だけ様々なセンサを組み合わせた接続例が紹介されました。
デモンストレーション(動画)
2019年国際ロボット展に出展した動画が紹介されました。集積化触覚センサを100個つなげ、リアルタイムに力をセンシングし、ロボットハンドに取り付けた集積化触覚センサからの出力値の変化を見ることで把持物の硬さ判別を行うものでした。
このロボットハンドは、紙コップと陶器のコップの硬さ判別が可能なため、紙コップを潰すことなく掴むことができます。
応用の広がり
ヒト、モノ、ロボット間の触感インターフェースによる新しい価値の紹介がありました。
介護やペットロボット、物流ピッキングのように既に活用されているものもあれば、職人芸の自動化(精密加工、手術)やスポーツ用品情報(ゴルフ、テニス)、触感エンターテイメント(VR/AR/ゲーム)、マッサージなどの応用にも期待が持てます。
サプライチェーン
株式会社レイセンスにおけるスタートアップ時のサプライチェーン相関図の説明がありました。エンドユーザは介護施設や旅行会社、エンタメ会社など多岐にわたります。
ビジネス展開
シード開発として行っている、技術開発(デモシステム開発、信頼性の確保)、PoC確立、サプライチェーン確立、特許戦略確立の説明がありました。室山先生は介護業界を将来的なターゲットと見据えつつ、ニーズが伺えているロボット市場や感覚・データ市場を2025年のターゲットとして導入を目指す説明がありました。
これからの世界
室山先生は、コロナ禍により生活様態が劇的に変化し、これからはロボットや非接触テクノロジーが台頭すると考えています。これからの世界は、人の代わりに働くロボットや、会わなくても自宅等で仮想空間を通じて臨場感あふれるコミュニケーションや、体験ができる技術が求められていると説明されました。
これからの世界を実現するための技術
心身共に健全であるための「密な時間と空間」を目指すために、人と同等レベル以上の作業をロボットに行わせ、直接やりとりしなくても十分な情報をやりとりできることが重要です。
室山先生は、様々な「エッジ」(工場、人、物流倉庫、建設現場、オフィスなど)において、人が介在せずに高度な情報のやりとりを行うことがポイントであると説明されました。
どのような世界になるのか?
質量ともに前人未踏の高度な情報を利用することで、幸福度が向上する社会が実現します。そのために、以下のサイクルの実現が理想であると説明されました。
-
- 人工皮膚感覚の実現:介護ロボット、手術ロボット、電動義肢/義足など
- 触覚提示の実現:超没入型のVR、AR、MR、遠隔動作(手術、スキンシップ)など
- 人の行動把握の実現:スポーツ育成、リハビリの数値化など
↓ - データベース化・オープン化の実現:参加者の拡大、市場や応用例の拡大
↓ - スパコンやAIとの連携の実現:情報の組合せによる新情報の創出
↓
1.2.3へ
エッジへの要求(エッジヘビーセンシング)
エッジ側の人不足による課題として、アパレル業界(薄いブラウスの裁縫全自動化)、食品や農業の応用(機械による肉のランク付け)、匠の技の見える化(左官の壁塗り)などを挙げ、本当の需要はエッジのリアルを知ることであると説明されました。
最後に、室山先生は下記4点を強調されて講義は終了しました。
- センサはキーアプリケーションを見つけるのが重要
- デファクトスタンダードを取る戦略の策定と実施
- 社会構造の劇的な変化がチャンスであり、エッジで密に情報を取ること
- データ→情報→知識→知恵へと昇華させることで高度ヘルスケア社会に利用されるようになる
(以上で講義終了)
グループトークによる質疑(質疑のみ記載)
Q1.触覚だけではなく視覚や聴覚を融合したロボットの事例はあるか?
Q2.アプリとキラーアプリケーションの違いは何か?
Q3.スポーツ選手へのマッサージの感覚を、ロボットで定量化することはできるか?
Q4.人間の脳で触覚センサを感じることはできるか?
Q5.展示品や試作品を遠隔の仮想空間で体感することは可能か?
Q6.先生の一番やりたいこととその理由は?
Q7.触覚センサを活用した遠隔医療で医師が間接的に診断することは可能か?
Q8.介護分野で触覚センサを活用するならどこから着手するか?
Q9.シンガポール国立大学の人工皮膚研究と先生のセンシングは同分類か?
Q10.データ販売ビジネスのオープン化はどのくらい先の構想か?
総括
村田特任教授よりポイント3点が示されました。
- 人の触覚をセンサ化するのが本日の内容でした。東北大学のお家芸である、MEMSとLSI を一体化させた触覚センサがそのアプローチです。大量の情報処理と伝達はクラウドでは無理がある為、現場に近いエッジで処理と伝達を行ったほうが効率が良いことが分かりました。
- 室山先生の触覚センサの優位点は、多点計測を高速、高精度、比較的低コストで活用できる点です。半導体技術の採用により、量産化できればコスト削減につながる可能性が高いということです。
- 今後の事業展開で重要なことは、100通りの応用事例よりも、たったひとつのキラーアプリがあるかどうかで、その絞り込みが必要と思われます。
以上
(文責:SAC東京事務局)
あわせて読みたい関連記事
- SAC東京6期コースⅢ第5回月例会 参加者の声
- SAC東京6期コースⅢ第11回月例会 事務局レポート
- SAC東京4期コースⅠ第5回月例会 参加者の声
- SAC東京6期 第1回産学共創フォーラム 事務局レポート
- SAカレッジ22年度 コースⅡ 第5回月例会質疑セッション 参加者の声