SAC東京6期コースⅢ第4回月例会 事務局レポート

微量栄養素による健康寿命の延伸

コースⅢ第4回月例会は、大学院農学研究科、食品機能健康科学講座・栄養学分野の白川仁教授による「微量栄養素による健康寿命の延伸」が講義テーマです。

白川教授の専門は栄養化学、分子栄養学です。13種類あるビタミンの中でも特にビタミンKとビオチンの新しい機能を探求し、年々平均寿命が伸びていくなか、微量栄養素が健康寿命の延伸にもたらす可能性を研究されています。

本日の講義は以下の4つの項目となっています。

    1. 健康寿命
    2. ビタミンとは
    3. ビオチンによる生活習慣病改善
    4. ビタミンKによる生活習慣病改善

健康寿命

健康寿命とは健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を指します。2000年以降、平均寿命の延びとともに健康寿命も延びていますが、その差は平均で女性が12年以上、男性が8年以上で推移しています。白川先生は、食品の力によってこの差を縮め不自由な期間を短くする研究を行っています。

健康寿命を延ばす大きな要因として、年々患者数が増加の一途をたどる糖尿病や認知症などの生活習慣病の予防があげられました。特に認知症患者の推定数は、現在65歳以上の高齢者人口約3,400万人に対し推定600万人と、およそ6人に1人は認知症の恐れがあることを強調されました。

これに比例して、年々増加傾向である国民医療費は2017年度で43.1兆円に上り、1974年と比較すると約6.63倍も増加しています。健康寿命を1年延ばすことで年間約3,000億円の医療費削減につながることを示唆しました。

健康寿命を延ばし医療費削減につなげるために、国は2015年4月に改訂版保険機能食品制度を定め、機能性が表示できる保健機能食品の登録数を増やしています。

ビタミンとは

ビタミンとは必須の微量栄養素であり、炭水化物やタンパク質、脂肪、ミネラル、ビタミンの5大栄養素に含まれます。ビタミンは骨、筋肉、脂肪組織などのからだを作ることと、エネルギーやホルモンを作りからだの機能を調節する役割があります。また、その他のタンパク質の機能を活性化させる因子でもあります。

最初に発見されたビタミンはビタミンB1であり、日本人の鈴木梅太郎氏によって今から110年前に米糠の中から発見されました。現在全部で13種類あり、ここではそれぞれの特徴と日本人の食事摂取基準が丁寧に説明されました。

ビオチンによる生活習慣病改善

ビオチンは、酵母の成長因子、根粒菌の成長と呼吸促進因子、ラットの卵白障害の予防因子の3つの独立した実験から発見されたビタミンの一種です。欠乏症になると皮膚炎、脱毛、胎児の奇形、一部のアトピー性皮膚炎の症状がみられます。

生理作用としては、哺乳動物において4種のカルボキシラーゼの補酵素として機能し、重炭酸塩をカルボキシル基として基質に転移させる反応を行います。

ビオチンの目安となる食事摂取基準量は成人男女ともに50㎍/日です。食品100gあたりのビオチン含有量でみると、牛レバーで約75㎍、乾燥大豆で約60㎍、卵で25㎍が含まれます。

最近注目されているビオチンの新しい作用が2つ紹介されました。ひとつは、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化を介して、アシアロ糖タンパク質受容体、インスリン受容体のタンパク質量を増加させ、血糖値を低下させることで糖尿病に効果があることです。

もうひとつは、可溶性グアニル酸シクラーゼが活性化するとcGMPが増加することにより、血管平滑筋細胞において血管の弛緩を誘発し血圧増加が抑制されるということです。この血圧上昇抑制は、グアニル酸シクラーゼの阻害剤で消失することから、ビオチンによるcGMP濃度の上昇によって血圧が低下すると考えられています。

ビタミンKによる生活習慣病改善

ビタミンKには植物由来のビタミンK1(フェロキノン)と、主に微生物由来のビタミンK2(メナキノン‐n)があり、グルタミン酸が活性する際にはたらきかけて血液凝固や骨の形成、細胞増殖に作用します。

ビタミンK1は抽出される前の緑茶や海藻に多く含まれ、ビタミンK2は糸引き納豆に圧倒的に多く13,000ng/g含まれます。

白川教授がラットにおけるビタミンKの組織分布を研究した結果、植物由来のビタミンK1は体内でビタミンK2である微生物由来のメナキノン-4に変換され、主に膵臓に蓄積されることが分かりました。そのメナキノン-4特有の作用は、破骨細胞の分化抑制やアポトーシス誘導等による骨形成の促進であることも分かりました。

ビタミンKが精巣の中に多いことに着目し、ラットにビタミンKを100倍過剰投与したところ、血中と精巣中のテストステロンが急激に上昇しました。

高齢化社会やストレス社会による男性の加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)によりテストステロンの産生が低下し、筋力低下や性機能の低下、鬱などの症状を引き起こします。現在、薬品以外のサプリメントでテストステロンの低下を抑えられるものが無いため、今後の商品開発にビジネスチャンスがあるという話で講義が終了しました。

(以上で講義終了)

グループトークによる質疑(質疑のみ記載)

Q1.ビタミンの過剰摂取によって健康障害が生じるリスクの代表例は何か?
Q2.ビタミンK、ビオチンの研究がブルーオーシャンと呼ばれる理由や背景は何か?
Q3.バランス良く効率的なビタミンの摂取方法はあるか?
Q4.ビタミン摂取の一日当たりの上限量はどのくらいか?
Q5.ビタミンを摂取するうえで食べ合わせによって阻害してしまう代表例はあるか?
Q6.介護報酬改定で追加された栄養改善の項目について各ビタミンの摂取基準が定められ
ることはあるか?
Q7.認知症ロコモの検証計画を具体的に教えていただけないか?
Q8. 食習慣の中でどこまで厳密にビタミンを摂取しなくてはいけないか?
Q9. バランスよくビタミンが摂取できていることを手軽に確認する方法はあるか?
Q10.一次予防の観点で健康なシニアが摂取すべき栄養素はあるか?
Q11.納豆のビタミンK2を摂取するうえで、加熱以外で気を付けるべきことはあるか?
Q12.特定栄養素の制限とビオチンなどの特定栄養素の摂取ではどちらが高血圧と糖尿病に
改善効果があるか?

総括

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

    1. 講義を通してビタミンの摂取基準が明確になりました。5年ごとに摂取基準が変わるため、数十年後には摂取量のバランスが大きく変わるかもしれません。そのため、ビオチンのような馴染みのない栄養素はブルーオーシャンであると考えられます。
    2. ビオチンが結合すると皮膚炎や脱毛に関係するとされていましたが、最近の研究において高血圧や糖尿病の改善にもつながるという結果が分かりました。
    3. ビタミンKは骨粗鬆症や動脈硬化の予防につながるだけではなく、男性ホルモンであるテストステロンに大きく関与するということが分かりました。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

 

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