SAC東京6期コースⅡ第3回月例会 事務局レポート

人間の心と行動の不思議:その裏側を脳機能イメージングでひも解く

コースⅡ第3回月例会は加齢医学研究所 人間脳科学研究分野、災害科学国際研究所 災害情報認知研究分野、スマート・エイジング学際重点研究センター 認知脳機能研究部門長の杉浦元亮教授による「人間の心と行動の不思議 その裏側を脳機能イメージングでひも解く」が講義テーマです。

脳の働きから人間を理解したい。人間脳科学を研究することによって高齢化社会や災害などの様々なビジネスにも還元できる。杉浦教授が人間脳科学を研究する目的の話から熱のこもった講義が始まりました。

認知プロセスで考える

挨拶といった単純な行為においても、脳の中では複数のプロセスが瞬時に実行されています。その一連の処理を構成する様々なプロセスを認知プロセスと言います。杉浦教授は、認知プロセスの情報処理単位が脳のどこにあるのかを機能的MRI装置で脳活動計測(脳機能イメージング)することで、脳の活動を可視化して人間を理解する研究を行っています。

脳機能イメージング

脳機能イメージングには大きく二つに分けられます。

  1. 神経細胞群の電気活動(EEG『脳波計』:脳波の計測など)
  2. 神経細胞群のエネルギー需要(fMRI『機能的磁気共鳴画像法』:脳血流量の計測など)

脳内の神経活動に必要なエネルギーは、酸素化ヘモグロビンと一緒に血液が運びます。その血流量の変化が脳のどこで起きているのか、fMRIによって画像で表すことが可能となります。

実験デザインと脳活動推定

脳活動を画像化しただけでは、認知プロセスが脳のどこにあるかわかりません。そこでその推定を行う為の二つの手法が説明されました。

  1. 差分解析(Aである条件-Aでない条件、対象条件との差で表す)
  2. パラメトリック解析(指標Aとの相関、反応性を比較する)

自己特異的脳反応

鏡を見て自己認知できる動物は人間とチンパンジー、オランウータンぐらいとされていることから、自己認知は脳の進化の過程で出現した特殊な能力と考えられます。杉浦教授は、自己認知に着目し、身体的自己対人関係的自己社会的自己を認識する際の特異的反応が3つの脳領域に分類されることを明らかにしました。

脳内スキーマ

体を動かすことと、それに対して期待通りに動かせることが予想できるように、人間の心や体が活動する際に連動して働く脳領域があり、これを脳内スキーマと呼んでいます。人間の心と行動の不思議を解く鍵は脳内スキーマにあり、杉浦教授は身体運動対人行動社会的意思決定の3つの脳内スキーマを図示化して説明されました。

対人行動の不思議の裏をひも解く

「英語のテストに面接は必要か?」といった命題は、脳科学的にどう解釈することができるのか、認知プロセスを可視化する実験の仕組みから説明がありました。脳の特定箇所の反応から「英語の面接テストには意味がある」との結論が導き出されました。

社会的意思決定の不思議の裏をひも解く

「人は何を考えて職業を選ぶのか?」の命題では、「面白さ」と「収入」の価値判断、あるいはライバルがいる場合といない場合での状況判断についての実験結果をもとに、社会的価値に関する脳内スキーマについて説明がありました。

身体運動の不思議の裏をひも解く

「どうして勉強しても英語が使えないのだろう?」という自分が体験している命題と「死の恐怖」という未体験の命題を例に、運動-知覚の脳内スキーマについて説明がありました。命題設定自体が大変興味深く、人間の心と行動の不思議な相関関係が見えてきました。

産学連携共同研究の可能性

新しい製品・サービス・開発のコンセプト段階において、脳機能イメージングが産学連携に活かせる説明がありました。ユーザーの不満は何か、どこに価値を見出してくれるか、といった認知プロセスの仮説を視覚化することで、新しいビジネスに活用できそうです。

(以上で講義終了)

グループトークによる質疑(質疑のみ記載)

Q1.脳科学のアプローチから「わがこと」として捉えさせることは可能か?
Q2.脳内スキーマは先天的、後天的のどちらであるか?
Q3.採用面談をオンラインで行う際、脳科学的なアドバイスをいただけないか?
Q4.自分の「市場価値」を処理する活動領域の近さによる関係性はあるか?
Q5.コロナによる在宅者のモチベーションを高める脳科学的なアプローチはないか?
Q6.死に対する恐怖の感じ方は、年齢層や職種によって大きな違いがあるか?
Q7.脳内スキーマの自己の概念は、国や年齢や宗教によって違いが出るのか?
Q8.社会的価値の脳内スキーマと他社の反応の脳内スキーマの違いは何か?
Q9.人間の脳内スキーマの反応活動部位は、チンパンジーやゴリラと一緒か?

総括

村田特任教授よりポイント3点が示されました。

    1. 杉浦教授より認知プロセスの可視化の手法から、人間行動の解析の説明がありました。脳内スキーマの分析は対人行動の分析でもあり、今後、ウィズコロナ時代のコミュニケーションのあり方のヒントになりうるでしょう。
    2. 脳内スキーマの社会的意思決定に関して、職業選択の意思決定の重要な参考情報が機能的MRI装置で測られる時代が来るかもしれません。
    3. 身体運動のプロセスの話から、死の恐怖のリアリティが受け入れられるような考え方が脳科学的で証明されるかもしれません。

以上

 

 

 

(文責:SAC東京事務局)

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