SAC東京5期コースⅡ第11回月例会 事務局レポート

なぜ、今「看取り介護」なのか? —人が「生ききる」を支えると見えてくるもの —

SAC東京事務局小林悦子ファシリテーターが講師を務めたコースⅡ第11回月例会。テーマは、「なぜ、今「看取り介護」なのか?— 人が「生ききる」を支えると見えてくるもの — 」です。

一般社団法人生活を支える看護師の会 会長でもある小林講師から特別養護老人ホーム(以下、特養)の事例を中心に「看取り介護の実際とその取り組みで得られるもの」をお話頂きました。SAC東京初登壇なので、今回は長めのレポートです。

「生ききる」とは

死を見据えて望みを叶えるように生を貫徹すること。講義はこの言葉の共通理解から始まりました。

「いのち、生ききる」(共著:日野原重明、瀬戸内寂聴)、「この世を生き切る醍醐味」(著:樹木希林)」などの本のタイトルにも現れているように、介護の現場では「生ききる」ことの大切さが語られています。看取り介護は、死の援助ではなく「生ききる」ことを援助する介護サービスなのです。

看取り介護の対象者が望むこと

医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断された人たちの多くが、病院で死ぬことを望んでいないことを理解しました。社会情勢の変化から医療費削減策として始まった「看取り介護政策」ですが、実は、生活の場である自宅や介護施設で最期を迎えたいと希望している国民が大勢います。介護事業者は、この人たちが生ききることを支える力を身につけなければなりません。以降、「看取り援助」という言葉が登場しますが、制度でいう看取り介護の「支える側の役割」を強調した言葉です。

看取り援助における3つのポイント:特養における事例より

  1. 人生の深掘り

看取り援助を有意義に行うには、入居者が入居する前の人生を知ることが大切です。どんな人生をどんな想いで生きてきたのかを知らないままでは、その人が生ききることを支えられません。その上で、本人を支えてきた家族の想いや葛藤も聞き出しながら、死を見据えた個別ケアプランを立てていくのです。

  1. 望みを叶える

人生の最終章を支える看取り援助においては、やり残したことは?食べ残したものは?に始まり、この先の人生をどのように生ききりたいかを本人、家族、施設職員で考えます。本人から聞き出せないことは家族と相談しながら見つけ出し、望みが叶うように支えます。

  1. 家族と一緒に

介護保険制度は、家族が後悔しない看取り介護を求めています。本人の望みを叶えるためには、家族の望みを叶える必要があるのです。なぜなら、意思決定や契約に同意するのはほとんどが家族だからです。しかし、多くの家族が特養における介護サービスを正しく理解できていませんでした。

看取り介護家族勉強会で情報提供

    1. 制度(介護保険と医療保険)の理解
    2. 医療の限界の理解
    3. 老いるということの理解
    4. 特養にできることできないことの理解

これらを家族に知ってもらうことでポジティブなケアプランができるようになっていったのです。家族がもつ情報量の違いに合わせることも個別ケアだという小林講師です。

死を迎えた時

看取り介護の同意が整っていれば、施設内で配置医師が死亡診断をします。しかし、看取り介護の同意がないケアプランでは施設内の死亡は認められません。救急搬送を依頼し、警察も介入します。制度を理解しないまま警察介入となることは、本人、家族、職員の誰にとっても幸せではありません。職員が辞める理由にもなっています。

施設入居をネガティブに捉えている家族の偏見を取り除く

自宅から介護施設への入居を「離れに住み替えしたと考えましょう」と笑顔で提案する小林講師でした。看取り=死んだ時の対応と思っている人が多いようですが、「生ききる」ための覚悟や準備と考えると気持ちが軽くなります。家族勉強会ではこのように看取りに対する偏見を取り除き、家族が気持ちよく受け入れるように導びくのです。

最期までその人らしく生きる権利

看取り介護加算算定要件で管理されている看取り介護は、決して見殺しではないことが分かりました。近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援するという考え方が参加者の腑に落ちたようでした。

看取り介護で施設は成長する

    1. 家族と職員との関係性の変化
    2. 達成感の獲得
    3. 介護職員の仕事に対する価値が変わる
    4. 組織マネジメントが変わる

小林講師は看取り介護が施設の安定した経営のためにも大切であることを強調します。介護施設の人員不足は、多くの場合、その仕事に魅力がないからです。そこで介護職員が仕事を楽しめる仕組みを整えてきました。家族や職場仲間と看取り援助の達成感を認め合い、担当職員の苦労をねぎらう機会としてのお別れ会は参加者にも好評でした。

看取り援助からの学びで人材は育ち、人も集まって来るといいます。一方で全ての特養がこのような水準で活動をしている訳ではないともいいます。

「生ききる」を支えることによる可能性

介護施設においても、生ききることを求める人が増えていることが分かりました。しかし、介護量が増える中、職員は施設内の生活を支えるだけで精一杯です。生ききるためのアクティビティを職員だけでは支えきれません

看取り援助の対象者は介護量の多い方たちです。家族だけでは外出や食事会なども実行できません。映画を観にいくことも、ドライブさえも自信がないのです。事例の青山さんのように人生の最期にビールで乾杯するためには、介護事業者以外の異業種による「生ききる力を支えるサービス」が必要な時代なのです。

「終わりよければすべてよし」

このように「生ききる力を支えるサービス」の潜在市場は大きいです。異業種企業の多くの参入で看取り介護をさらに質の高いもの変えて欲しいという願いで講義は終わりました。

アイスブレイク

以下のポイントで村田特任教授が用語の整理や深掘りをし、グループトークにつなげました。深掘りポイントのみ記載)

    1. 看取り介護加算は特養だけなのか
    2. 施設で最期を迎えられないのは施設側の理由か
    3. 看取り介護に家族の理解が重要な意味は
    4. 警察介入を職員はどう考えるか
    5. 警察沙汰を避けるために病院へ送ることはあるのか
    6. 事例の青山家が看取り介護を受け入れるよう気持ちが変わった理由は
    7. 看取り介護で家族と職員の関係はどうなったか
    8. 異業種企業参入のニーズはどの程度あるのか

グループトーク

社内では聴くことのできない異業種の考え方や情報を得ることができることが人気のグループトークです。

事例(青山さんの人生)で紹介されたことで「自分だったら?」と受け止めた方が多かったようです。親のこと、自分のこと、準備がないまま介護が必要になってしまった仲間のことなどが話される中、施設に入ることのハードルが下がったという意見も出ていました。

直接ビジネスにつながらなくても介護離職の課題のヒントになったという人事担当者もいます。介護業界からの参加者も多く、「お世話」だけでは満足しない利用者が増えてきたとマネジメントの難しさを訴えていました。「いかに満足してもらえるか」という共通点にたどり着いたグループもありました。

グループトークから講師への質問(一部を抜粋)

Q1.良い看取りができている施設の探し方は?
Q2.お薬管理で、利用者の薬ポケットに入れるサービス提案はどうですか
Q3.遠距離家族との看取り介護加算要件の満たし方は?
Q4.飲み込み評価の治療装置使用例や民間参入事例を教えて
Q5.単身高齢者を看取る場合は?
Q6.施設より自宅で看取る方が良いのでは?

介護との関わりが薄い方には理解できないことがたくさんあるようでしたが、奇跡のようなことがたくさん起きるのが介護現場です。しかし、公的介護保険だけでは小さな幸せしかつくれません。介護事業者以外の異業種企業への期待が溢れる小林講師のコメントでした。

参加者から、この看取り介護を広めるために「家族勉強会について」の本を作ることを提案された小林講師は本気で考え始めました。SAC東京に集った皆さんは、社会をよりよくするための素敵な仲間です。

総括

村田特任教授によりポイント3点が示されました。

  1. 看取り介護は供給側である国の政策誘導として始まった。しかし、需要側のニーズとしても生活の場での最期を希望する人が増加している。
  2. 看取り介護の実行は容易ではないが、家族と職員の関係性・信頼感も深まり、施設にとっての利益も多い。
  3. 介護業界だけでなく、異業種の知恵を入れることで、より良い看取り介護ができる。

「そんな始まりにしてください」と、月例会をまとめました。

以上

(文責:SAC東京事務局)

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