SAC東京5期コースⅡ第9回月例会 事務局レポート
認知症克服に向けた治療薬開発の動向—現在と今後—
「認知症克服に向けた治療薬開発の動向—現在と今後—」をテーマに加齢医学研究所 老年医学分野 荒井啓行教授が笑顔でご登壇です。
アルツハイマー病の治療における新薬の開発についての最新情報から講義が開始されました。1週間前にアメリカのFDAへの申請に進んだという最新報告です。「昨年までは言い切れなかった」と嬉しそうに話してくださる姿に、参加者たちの期待は大きく膨らみました。
認知症患者の現状
グラフで示しながら「早いうちからの予防を考えている」と話す荒井教授です。東北大学病院 もの忘れ外来の病型内訳データからも、認知症対策はアルツハイマー病対策が重要であることが分かります。
生化学や免疫組織科学から見えるもの
アミロイドβ蛋白とタウ蛋白は顕微鏡で見えますが、「始まり」が明確には分からず、その解明に世界中が取り組んできました。死後の解剖でアミロイドβが先に沈着していることが分かりました。アミロイドβが司令塔でタウが実行犯と考える教授の分かり易い説明でした。
ポジトロン断層装置(PET)による脳蓄積物質の非侵襲的画像化
製薬企業の人もチームメンバーとなり着手したそうです。アミロイドPETの画像では正常な脳とアルツハイマー病の脳の違いは明らかです。しかし予防としては、アルツハイマー病と診断されてからやMCIの状態になってからでは遅いのです。症状的には正常でも脳にアミロイドβが溜まっている状態から薬を使えたら発症しないことが分かります。
タウ病変を可視化するPETトレーサーの開発競争も真っ只中だそうです。
初のアルツハイマー病根本治療薬
エーザイ・バイオジェン社のアミロイド抗体薬「アデュカヌマブ」臨床第Ⅲ相試験で得られた大規模データの新たな解析結果に基づいて、アルツハイマー病治療薬として新薬承認申請を米国FDAに行うことが決まりました(2020年1月)。承認されれば早期アルツハイマー病の臨床症状悪化を抑制する世界初の治療薬となるのです。
今までなかったデータが出ていることが画像等で示されます。アミロイドβが「減少」し、それによりタウまで「減少」することが分かりました。アミロイドβとタウは連動しているのです。悪化を抑えた結果が出た上での申請です。参加者の「なるほど」の頷きが増えていきました。
アルツハイマー病の克服に向けて
- 根本から治療し、病勢を停止させる疾患修飾薬は、最も重要かつ切望されている薬剤。その実用化、市場化が必要。アミロイド抗体薬など112種類の新薬治験が進行中。
- (超)早期段階対応と確かなグローバル治験の成功体験を世界で共有すること。
- 高精度バイオマーカーの開発と病態プロセスの理解。脳病理情報を有する簡便な血液バイオマーカーの開発が必要。
早期に、簡便に「採血でわかるようにしたいのです」と、今後の研究に意欲を示した荒井教授でした。
グループトーク後の質疑(一部を抜粋)
〔グループ質疑〕
Q1.アリセプト不評論がありましたが、新薬の副作用などはいかがですか?
Q2.超音波治療の方が現実的ではありませんか?
Q3.治療の意義をもう一度教えて
Q4.新薬のポジティブデータの理由を教えて
Q5.アミロイドβの蓄積は50歳よりもっと早くないですか?
参加者の質問にコメントする荒井教授の力強さに、「この2年間で大きく進歩した」ということが表れていました。アルツハイマー病予防に光が差していることを感じたのは、私だけではなかったことでしょう。
認知症予防をあきらめている人が多いようです。治療薬の開発が日々進歩していることを知り、人生100年時代が明るく感じる月例会になりました。
以上
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(文責:SAC東京事務局)
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