SAC東京5期コースⅡ第8回月例会 事務局レポート

人間の心と行動の不思議 —その裏側を脳機能イメージングでひも解く—

「人間の心と行動の不思議 —その裏側を脳機能イメージングでひも解く—」をテーマに加齢医学研究所 杉浦元亮教授のご登壇です。

脳の働きから人間を理解したい。人間を理解することが、加齢医学や災害に関する研究にも、ひいては社会生活やビジネスにも役立つ。杉浦教授が人間脳科学を研究する目的のお話から熱のこもった講義が始まりました。

認知プロセスを解明する

挨拶をするという単純な行為においても、脳の中では複数のプロセスが瞬時に実行されています。その一連の処理を構成するひとつひとつのプロセスを認知プロセスといい、それを解明することが人間を理解することの出発点。このパズルを解くような地道な研究の積み重ねによって脳の働きが解明されていくわけです。

自己認知

自己認知できる動物は人間とチンパンジーぐらいとされていることから、自己認知は脳の進化の過程で出現した特殊な能力と考えられます。杉浦教授は、自己認知に着目し、身体的自己、対人関係的自己、社会的自己を認識する際の特異的反応が3つの脳領域に分類されることを明らかにしました。

脳内スキーマとは

私たちが本やテレビで見聞きする「記憶といえば海馬」といった脳の機能と部位の関係とは別に、人間の心や体が活動する際に連動して働く脳領域があり、これを脳内スキーマと呼んでいます。人間の心と行動の不思議を解く鍵は、この脳内スキーマにあるとのことで、ここから人間の心と行動の裏をひも解く深い話に突入しました。

対人関係の不思議の裏をひも解く

「どうして話しかけるのは難しいのだろう?」「英語のテストに面接は必要か?」といった命題は、脳科学的にどう解釈することができるのか、認知プロセスを可視化する実験の仕組みから解説していただきました。

この実験によって、「英語の面接テストには意味がある」との結論が導かれるのですから、脳科学の世界って面白いですね。

社会的意思決定の不思議の裏をひも解く

「人は何を考えて職業を選ぶのか?」の命題では、「面白さ」と「収入」の価値判断、あるいはライバルがいる場合といない場合での状況判断についての実験結果をもとに、社会的価値に関する脳内スキーマについて解説していただきました。

身体活動の不思議の裏をひも解く

「どうして勉強しても英語が使えないのだろう?」という自分が体験している命題と「死の恐怖」という未体験の命題を例に、運動-知覚の脳内スキーマについて解説していただきました。命題設定自体が大変興味深く、人間の心と行動の不思議の裏をもっと知りたくなりました。

今後の研究構想と産学連携

人間脳科学の分野では、引き続き「人間の心と行動の不思議」の解明に取り組みつつ、加齢人間脳科学の分野では「これからの高齢者のあるべきメンタリティーとは?」を科学し、それをどうサポートすべきかを明らかにすることに取り組み、災害人間脳科学の分野では、「災害を生き延びる8つの力」「わがこととして考えるということ」をテーマに研究を推進されるとのことです。

脳科学は、どこから取り組んだらいいかわからない問題について有効なアプローチであり、杉浦教授の最も関心のある専門領域ということですので、各企業における新製品・新サービスの開発に際しては、混とんとしたコンセプト段階から相談に乗ってもらうのが良さそうです。

グループトーク・講師への質問(一部を抜粋)

Q1.中くらいの死の恐怖とは具体的には何を指すのか?
Q2.アンケートなどの質問へ回答する際の脳機能イメージングによって、お客様が感じている商品の価値を測定することは可能か?
Q3.幸福感やストレスをfMRIで測定することは可能か?
Q4.災害を生きる8つの力はどのように決まったのか?
Q5.倫理観のゆるい国でもっと過激な手法で実験している事例はないのか?
Q6.地域や人種によって脳機能イメージングの結果に違いが表れるのか?

研究で得られたデータを実社会に役立てたいという杉浦先生は、楽しそうにコメントしてくれました。

以上

(文責:SAC東京事務局)

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