SAC東京5期コースⅠ第7回月例会 事務局レポート

免疫機能を活用して健康支援産業を創出する

コースⅠ第7回月例会は加齢医学研究所生体防御学分野、スマート・エイジング学際重点研究センター生体防御システム研究部門長の小笠原康悦教授による「免疫機能を活用して健康支援産業を創出する」が講義テーマです。

小笠原教授は自らの研究の紹介から入りました。

ドレス細胞の発見、がんを攻撃したNK細胞が細胞死に向かう仕組みに発見、金属アレルギーの原因を解明し、病原性T細胞の発見からナチュラルキラー(NK)細胞の研究を長年やってきましたが、その研究成果の一部を事業化に活用できる段階となり、講義で説明されました。
本日の講義は健康を測る、健康モニタリング事業構想を中心に以下の項目となっています。

    1. 疾病とは
    2. ゲノムと免疫受容体
    3. 免疫受容体解析
    4. 免疫受容体解析の事業化
    5. 事業化への戦略と課題

1.疾病とは

(遺伝+環境)×時間→疾病という方程式を紐解いていきます。遺伝はゲノム(DNA解析)ですが、環境と時間は何を解析すれば良いのか?身体の動的状況から解析しようとしているのが小笠原教授の研究です。

2.ゲノムと免疫受容体

動的状況をとらえるには免疫受容体解析が有用です。免疫系が関連する疾患では、特定の疾患に対して、TCR(T細胞受容体)/BCR(B細胞受容体)が様々なバリエーションを作り、体内に記憶されます。このバリエーションを分析することで、私たちの体がどの疾患になりやすいかを動的に評価できます。

3. 免疫受容体解析

今までにない免疫受容体で健康を定量・評価できるモニタリング法です。ビッグデータ化することで寿命評価にも活用でき、問診がなくても病歴が把握できるようになります。
まずは免疫機能・細胞の特徴を知る必要があります。
体内に抗原が侵入すると、まずマクロファージが偵察隊として反応します。次にNK細胞が護衛隊として抗原に働きかけます。その後、T細胞は免疫反応の司令塔として働くとともに抗原に対して抗体となり作用します。B細胞は鉄砲隊として鉄砲の弾となる抗体を産生させます。

「多様性」、「特異性」、「記憶性」

免疫システムは「多様性」、「特異性」、「記憶性」の3つの特殊性があります。
「多様性」はレパートリー、すなわち抗原に対し作られうるバリエーションであり、どんな異物にも対応できます。T細胞受容体は1×1018もの多様性を持っています。偏りなく高精度で高速に計測する方法が不可欠です。
「特異性」は「カギとカギ穴」に例えられ、選択され一つの受容体(抗体)は一つの抗原に対応します。
「記憶性」は次に備えること、予防接種などに応用されています。

4.免疫受容体解析の事業化

治療は抗体医療、ワクチン、細胞療法となります。個別化がん治療への活用も行われています。

小笠原教授が提案したいのは健康維持を目的に健康食品、健康機器、保険領域における健康チェック・モニタリングです。

5.健康モニタリング事業

大学の基礎研究はまだここの段階です。今後、小笠原教授は商品化、事業化へと進めていこうとしています。しかし事業化には相当な時間がかかります。抗PD1抗体でも12年かかりました。

6.免疫受容体解析の将来

以下の2つのポイントがあります。
(1) ビッグデータ化
バイオインフォマティックス、健康管理の情報化
(2) 疾患に応じたTCR/BCRの特定
健康のマーカー、創薬のリード物質
創楽のみでも数兆円市場規模となります。

免疫受容体解析は事業化のシーズとなります。商品化に向けて莫大な資金と労力がかかるため各企業間競争ではなく協調関係を構築する必要があります。
マーカー実用性検証、その低コスト化、簡易化を実現しキットの商品化が目標です。

8.健康管理モニタリングの応用

TCRから健康状態、記憶を測ることができます。さらにはビッグデータ化で問診がなくても病歴が把握でき疾患リスクを評価できるようになります。

9.今後の予定

事業化に必要な研究開発、産学連携でビジネス化していかなければなりません。
「次世代シークエンス解析はもう失敗しない!」というコピーを訴求し、共同研究開発(アイデア)と資金調達(開発費)を連携させたいと参加企業へ協調、協働を訴え小笠原教授の講義は終了いたしました。

グループトーク後の質疑(質問のみを記載)

〔グループ質疑〕
Q1.免疫によって正確に寿命が分かるのか?
Q2.商品化の価格の原価と根拠
Q3.T細胞の活性化の要因は生活環境に複数あるのか
Q4.歯の数以外にどの歯が大切か?
Q5.健康マーカーはもともと体の中にあるものなのか?
Q6.競合するマーカーとの優位性は何か?
Q7.ビッグデータ化は、今はどこまであるのか?
Q8.解析した後のソリューションは何か?
Q9.T細胞解析でわかる病気と分からない病気はあるか、不妊治療に活用できるのか?
Q10.血液10cc抜くのは看護師など有資格者でなくてはならないのか?
Q11.寿命の評価、過去の健康状態から80歳になった時にかかる病気は分かるのか?
Q12.将来、マーカーの種類はどこまで増えるか?現在の企業の関わり状況は?
Q13.免疫では攻撃対応になっていないものを攻撃対象とすることは可能か?
Q14.病歴が分かるというが、どの時期まで分かるのか?
Q15.TCR解析の縦軸の頻度は?
Q16.TCR遺伝子一致率は正確性の違いなのか?
Q17.偏りなく、バイアスなく測定できるというが初めの段階が分からなくて測定ができるのか?

【総括】

身体がもともと持っているT細胞を活用し、免疫系の疾病リスクが分かることは死因原因の高順位であるがん、心疾患、肺炎へインパクトがある研究及びビジネステーマです。
課題はこれらが分かった後にどう対応できる社会にしていくのか、検診で実現ができるのか、その後医療関係者だけで対応可能なのか、早期発見ができれば打ち手も早くできるようになります。

実現化に向けて産学連携は不可欠であり、さらに国も巻き込んだ活動へ変えていくこと必要です。

(文責:SAC東京事務局)

以上

(文責:SAC東京事務局)

——————-

あわせて読みたい関連記事

サブコンテンツ

このページの先頭へ