SAC東京4期コースⅡ第9回月例会 事務局レポート
認知症克服のための脳科学研究
テーマは「認知症克服のための脳科学研究、アルツハイマー病克服へのchallenge」です。荒井啓行教授が会長を務める第61回日本老年医学会の紹介から講義は始まりました。これから何が必要か?の問いかけに自分たちの役割を考える参加者たちです。
500万人の認知症患者の中で最も多いのがアルツハイマー病です。60歳までは0%、80歳になると80%になるといいます。知っているようで知らない認知症の実態です。
認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト(2008年)
厚生労働省発表のプロジェクトでは、早期の確定診断を出発点とした適切な対応の促進を目標にしました。しかし、大腸癌の確定診断が内視鏡、生検で行われるように、確定診断には脳を見て診断することが必要なのです。
研究・開発の促進として、2013年までにアルツハイマー病の促進因子・予防因子を解明し、有効な予防法を見出すことを目標にしました。
予防には、採血や採尿レベルのバイオマーカーや、MRIなどの画像診断等の非侵襲性の検査で早期に、確実に、身体に負担をかけない診断が必要となります。
G8認知症サミット(2013年)
2025年までに根本治療医薬を市場化することも決めました。その役目を受けて、日本は認知症政策を強力に推進することを宣言しました。認知症施策推進総合戦略、新オレンジプランです。
新オレンジプランの基本的考え方
認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す。
「良いことは書かれていますが、実行は大変ですね」と現実を振り返る教授です。加齢・老年病科の荒井教授は、認知症の患者さんに対して、自動車運転が難しいという書類記載を求められることがあるそうです。
社会でのリスクは問題ですが、「拷問みたいです・・・」と語る教授です。その言葉には、認知症になってしまった人から運転まで奪い取る辛さが見えました。
認知症の予防と認知症との共生(2018年)
画期的な治療法が出てこない中、「共生」が掲げられました。寿命が延びると共に認知症患者は増加し、その中でもアルツハイマー病が増えています。予防としてできることは危険因子を除くべきであることは分かります。
専門職の育成
認知症専門医はもちろん、学会認定資格を設けてサポートできる医師・専門士を育成しています。行政施策としても認知症サポート養成や、地域包括支援センターを設置しての相談体制も整えています。
しかし、認知症に関しての診断を嫌がる本人です。相談に来てくれません。出向いていくチームやどんな相談がどこでできるのかを分かり易くしていかなければ診断・相談に進みません。
MCIを診断できても何もできないという現実もあります。「MCIを進行させない薬が欲しい」と切実に訴える教授でした。
正常脳とアルツハイマー病脳
図を見ると明確でした。アミロイドβ蛋白やタウ蛋白、神経原線維の変化、老人斑の進行など、説明はよく分かります。しかし、生きているときに頭を開いて調べることはできません。ため息と共に頷く参加者たちでした。
薬の開発、投入のポイント、どういう人に届ければ良いのかを考えていきます。大脳皮質アミロイドβタンパクの蓄積は症状出現の20年前と考えられます。さらに、10〜15年後から皮質タウ病変が加わり、神経細胞死が始まることも分かってきました。
アルツハイマー治療薬開発の予測
図を示した解説では、見事にアミロイド病変を可視化するアミロイドトレーサーが分かります。タウ病変を可視化トレーサーの開発競争も真っ只中だそうです。
2018年、アルツハイマー病の新規治療薬の創出が採択されたそうです。脳血液関門の等価性を問わない新規の抗アミロイド治療も、動物実験は進んでいます。
今後に向けてのチャレンジ
- アルツハイマー病(AD)の疾患修飾薬は、世界的に最も重要かつ切望されている薬剤であり、一刻も早く優れた治療薬が実用化されることが望まれている。2015年までに疾患修飾薬を市場化する目的に向けて、アミロイド抗体薬やBACE-1阻害薬などの治験が進行中であるが、時間的な余裕はあまりない。
- 発症前AD、前駆期AD、早期AD、(前駆期+軽度AD)などの早期診断に基づく疾患修飾薬治験が主流となりつつあるが、治験が長期に及ぶことや有効性評価基準の設定が課題。AD予防という視点も重要である。
- 治験を支援するツールとしてバイオマーカーが重要である。MRI、アミロイドPET・タウPETなどを用いてATN(アミロイド/タウ/神経変性)分類で被験者の絞り込みを図る必要がある。簡便な血液バイオマーカーの開発も強く求められている。
アイスブレイク
参加者の理解を深めるために、講義のポイントを再確認しました。
【パネルトーク】
各グループから出た質疑は以下の通り(質疑のみ記載)
Q1.医療面の今後の展望は?
Q2.アルツハイマー病の治療薬ができた場合、金額への危惧は?
Q3.予防での介入治療は保険適応?
Q4.アルツハイマー病の男女差は?
Q5.講義資料データにおいて、増加した理由は?
Q6.アルツハイマー病になっても使い続けられる血圧計のヒントをください
Q7.根本的治療を目指しているのか?
Q8.アミロイドβ治療はうまくいっていないのでは?
総括
今日の話を知っている人は少ないです。認知症ケアを行なっている介護現場の人も知らないでしょう。と、正しいことを知ることの重要性を振り返りました。今日の講義を活かしてもらうことを期待して荒井教授を招いての月例会は終了しました。
以上
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(文責:SAC東京事務局)
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