SAC東京4期コースⅠ第8回月例会 事務局レポート

酸化ストレス防御と健康

コースⅠ第8回月例会は加齢医学研究所副所長・加齢制御研究部門遺伝子発現制御分野・スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長の本橋ほづみ教授による講義テーマ「酸化ストレス防御と健康」の講義です。

本橋教授は「野菜を食べると体に良い、それはどうしてか?」と参加者へ投げかけました。昔から言われてきたことですが、それを証明するために食品に含まれている成分が健康や疾患に良いという研究がたくさんあります。

酸素の発見

同じように「酸化ストレスとは?酸素とは?」とその基本問題をロンドンの美術館に飾れているというジョセフ・ライト作の「空気ポンプの実験」の絵を用いて解いていきます。

ガラスの器の中の空気がなくなっていくと、その中に入れられた鳥は元気がなくなっていきます。それで空気の中に生命を維持するために必要なものが入っていることが分かりました。それが酸素の発見です。

最初、地球に酸素はなく、植物プランクトンの光合成によって、陸上に上がった生物が酸素を利用するようになり、酸素に依存して生命を維持するようになりました。それが地球上の生物の進化と酸素の歴史です。

酸素の効用

酸素によって体の代謝が行われ、エネルギーを効率的に取得できます。この説明には化学式が多用されていきました。

しかし、鉄釘が酸化して錆びるように、人は歳を重ねると身体を構成している分子も酸素により損傷を受けます。空気中の酸素に加えて環境の中には「私たちの身体の酸化」の原因がたくさんあります。

それは心身に対するストレス、激しい運動、タバコ、食品添加物、環境汚染、紫外線などです。

環境応答

人間はお腹の中にいる時から様々な環境中の毒に暴露されています。しかし、人間の身体はそうした環境因子に対して応答し、適応する能力も持っています。環境中の毒に応答し、体内を解毒する仕組みは次の通りです。

第1相反応
酸化・水酸化などによる基質の活性化

第2相反応
親水性物質との抱合

第3相反応
薬剤トランスポーターにより細胞外の排出

水に溶けやすいということは身体の中の様々なものと反応してしまうということです。ベンツピレンの解毒の仕組みを例に反応性が高い中間体がDNAを損傷することが説明されました。

NRF2

第2相反応が解毒反応でありNRF2は酸化ストレスから体を守るタンパク質です。膵臓β細胞の保護による糖尿病の改善などに実用されています。またNRF2を活性化させると健康増進へつながります。

KEAP1

KEAP1はシスティンを多く含むアミノ酸です。NRF2は必要な時しか働きませんが、KEAP1はNRF2活性の制御機構となっています。

NRF2誘導剤の有効性が示唆されている疾患例は非常にたくさんあります。本講義では本橋教授が取り組んだ騒音性難聴に対して効果があるという実例も紹介されました。

遺伝子差によってNRF2をたくさん作ることができず酸化ストレスが内耳にたまりやすい人は難聴になりやすく、10%程度の割合で存在するのではないかという本橋教授です。この事例のように個別化医療への応用が大きく期待されます。

NRF2の抗炎症作用

NRF2を活性化すると自己免疫疾患が改善します。例えば、高齢期には腎炎発症が起こりやすくなりますが、NRF2はその炎症を抑える効果があります。

マウスの研究成果・・・寿命が伸びる

NRF2の活性化によって寿命も伸び、げっ歯類も平均寿命が伸びました。ただし、この結果が人間にも適用されるかはまだ検証されていません。

人への応用

早老症はNRF2の働きが抑制されているという発表があり、NRF2を増やす処置が試みられています。

NRF2を活性化させ酸化ストレスと慢性炎症を防ぐ方法

以下の食品が有効です。

  • ブロッコリースプラウト
  • わさび
  • ウコン
  • ローズマリー

しかし摂取量や摂取方法はまだまだ未知数であり、これからの研究やビジネス展開への応用が期待されます。

【グループ質疑】(質疑項目のみ記載)

Q1.NRF2活性化を測る方法?
Q2.食品以外に薬や運動の効果の事例と企業との連携例は?
Q3.食材の摂取方法と頻度は?
Q4.個別化医療における酸化ストレスが占めている割合は?
Q5.NRF2は食事摂取によって全身の細胞に届くか?血液脳関門を通過し脳へ影響を与えるか?
Q6.人参やポリノフェールによってNRF2は活性化するか。
Q7.抗酸化で発売されている食材のようなNRF2サプリはあるか?
Q8.美容の観点からシミやしわへの効果はどうか?
Q9.遺伝子型でNRF2が少ない人が努力する方法は?
Q10.未病の段階での動きはどうか?
Q11.難聴に関して、機能回復は期待できるか?加齢性難聴には対してはどうか?
Q12.経口摂取のタイムラグは?

総括

酸化ストレスは生活環境にあふれています。その対応方法をビジネスへどう生かすかはこれから開発の可能性が高まります。

例えば、食材へ活用とエビデンスの訴求方法、食べ方、レシピ開発、摂取方法などに民間企業の知恵を生かすこと、さらに、運動による酸化ストレス防御発現のメカニズムは、新たなビジネスチャンスの一つとなります。

遺伝子多型から個別化医療への応用、生活習慣、運動習慣を変えるために測定値の可視化なども重要項目です。

市場に訴えるために、難しいテーマですが酸化ストレス防御の重要性をしっかりと確認できた講義でした。

以上

 

(文責:SAC東京事務局)

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