SAC東京4期コースⅠ第7回月例会 事務局レポート

SAC東京第7回月例会コースⅠは講師・大学院生命科学研究科の筒井健一郎教授によるテーマ「脳内『報酬系』『罰系』は消費行動へどう影響するか」の講義です。

筒井教授はサルを使った高次脳機能研究の第一人者ですが、さらに人間の脳機能イメージング研究も行っています。

 

脳・神経系の基礎知識

反射など意識に基づかない生命の維持機能は脳幹の下にあり報酬系の話は中脳から大脳へ及びます。

電子回路と神経回路は見た目と機能は同じ基盤となり、神経回路へ電気が巡ることによって生命活動が発揮されます。例えば、膝蓋系反射は筋肉の検査だけではなく脊髄の反射機能をみる神経回路の検査にもなっています。

神経細胞のつなぎ目には隙間があり、その間の情報伝達をしている神経伝達物質にはグルタミン酸 GABA、 ドーパミン、セロトニン、ノルアドナレリン、アセチルコリンなどがあります。これには興奮性と抑制性の2種類があり、たとえば、グルタミン酸は興奮性、GABAは抑制性です。

ここで、味の素「グルタミン酸」とグリコのチョコレート「GABA」を例に出し、「食品の経口摂取で効果がある?」という問いを投げかけ、「これらを食べても血液脳関門を通過できないため、効果がない」と笑顔を見せた教授です。

脳の「報酬系」とドーパミン

ネズミを使った頭蓋内自己刺激実験においてドーパミンの放出によって起こる行動が分かりました。

ドーパミンの分泌を促進する物質の例としてコカイン、アンフェタミン、カンナビノイドなど、いわゆる麻薬や覚せい剤があります。外部から摂取する麻薬は依存性があるので危険です。一方、お金をもらった時、予期しない報酬、ユーモア、美しい顔を見た時、プラセボによる不快軽減、社会的制裁など、あらゆる種類の報酬に関わるのが線条体という中枢です。
「やる気」「元気」を生み出すドーパミンニューロンが活性化し、脳内にドーパミンが放出されるのは以下のときです。

  1. 不確実な嬉しい出来事を期待しているとき
  2. 予期していなかった嬉しい出来事が起きたとき
  3. 嬉しい出来事が確実に起きると予想されたとき

日常生活において脳内のドーパミンを増やすには

  1. 達成型の生活
  2. 「予期しない嬉しいこと」を与え合うことができる人間関係

脳の「罰系」とセロトニン

扁桃体が不快や不快情動に関係しています。この扁桃体から発達する神経系を罰系と呼びます。罰系に調節的に作用するのがセロトニンです。

セロトニンの機能は以下の通りです。

  1. 体温の調節、摂食行動の調節、覚醒水準の調節(上昇)など、様々な生体機能を調節する役割を持っている。
  2. 情動に関しては、不安を抑制し、負の記憶が過剰に形成されてしまうことを抑制する。

セロトニンは睡眠を促すメラトニンの原料となります。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから生合成されます。太陽の光に当たるとセロトニンの分泌が増え、夜メラトニンに変換することで、睡眠を促します。

日常生活において脳内のセロトニンを増やすには?

  1. 規則的な生活、早寝早起き
  2. 太陽にあたる(外出をする)
  3. よく噛んで食べる
  4. リズミカルな運動

筒井教授は近年うつ病の研究にも取り組んでいます。
脳機能イメージング研究によって、うつ病は報酬系・罰系の神経ネットワークの不調によるものであることが示唆されてきました。

現在のところ、うつ病の主な治療法は、セロトニンの脳内濃度を上げる薬SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)を服用することです。

脳と社会行動とオキシトシン

興味深い事例が紹介されました。平原ハタネズミは一夫一婦、協力して巣作りと子育てを行います。山岳ハタネズミは一夫多婦、父親は子育てをしません。実は平原ハタネズミの脳には多くのオキシトシン受容体があることが研究でわかりました。

オキシトシンの分泌は即坐位(腹状線状体)の活動を促進し協力行動を増強します。また扁桃体の活動を抑制し、恐怖・不安を抑制します。人ではオキシトシン投与の実験により他者への信頼感が増強することが示されました。自閉症の治療として投与され一定の成果を上げています。

オキシトシンを増やすには?

  1. ふれあい
  2. 協力・信頼関係を構築

まとめ

脳内の神経伝達物質は神経系の機能を調節し、正常な機能の発現に必要不可欠な役割を持っています。
ドーパミン、セロトニン、オキシトシンなどそれぞれの役割を理解し日常生活におけるちょっとした心がけや習慣が、これらの機能の維持・促進に役立ち、脳の健康を保ち、元気なこころを持って生活することにつながります。

グループ質疑

グループトークにて抽出された質疑は以下の通りです。

Q1.調節系の持続時間は?
Q2.ハタネズミにおけるオキシトシンのオス、メスの違いの研究はあるか?
Q3.報酬系と罰系を同時に刺激することは可能か?
Q4.口に入れたものは脳に届かないと

言われたが、どう食事と関連づけたら良いのか?
Q5.ふれあいでオキシトシンを増やす場合、日本型よりハグや握手に慣れている欧米型が有利か?
Q6.ノスタルジーに関する食品の事例はあるか?
Q7.やみつきや突拍子もない期待感で報酬系は起きるのか?
Q8.ドーパミンが出るタイミングは?
Q9.口腔摂取以外で香りや塗り薬などの事例はあるか?
Q10.報酬系は人によって違うのか?先天的、後天的なものは影響するのか?直接脳に刺激を与えることは可能か?
Q11.日常的な期待、ポジティブシンキングは年齢とともに少なくなるが認知症予防になり得るか?
Q12.報酬系に関する意識への依存、ヒエアルギー、AIへの活用について?

個別質疑

Q1.珈琲店におけるドーパミン放出、セロトニン減少の対応策は?
Q2.夜、高齢者がよく眠れる方法は?

総括

報酬系と罰系の応用はシニアの加齢に伴う不具合、不安、不満を解決させ、人を元気にさせるヒントとなります。

シニアの消費行動を理解するには、人間の脳活動・神経系が行動にどのような影響を及ぼすのかを知ることが不可欠です。

以上

 

(文責:SAC東京事務局)

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