SAC東京4期コースⅠ第6回月例会 事務局レポート

免疫機能を活用して健康支援産業を創出する

コースⅠ第6回月例会は加齢医学研究所生体防御学分野、スマート・エイジング学際重点研究センター生体防御システム研究部門長の小笠原康悦教授によるテーマ「免疫機能を活用して健康支援産業を創出する」の講義です。

小笠原教授は健康支援産業へ応用するために「健康を測る〜健康モニタリング事業構想」を以下の5つのポイントに基づいて講義を展開しました。

    1. 疾病とは?
    2. ゲノムと免疫受容体
    3. 免疫受容体解析
    4. 免疫受容体解析の産業化
    5. 産業化への戦
    6. 略と課題

1.疾病とは?

小笠原教授は科学者らしく疾病を「(遺伝+環境)×時間」と方程式で表現しました。遺伝情報はDNA解析によって分かります。さらに身体の動的状況を環境と時間から解析することができれば疾病罹患リスクがより詳細に分かることになります。

2.ゲノムと免疫受容体

遺伝情報は身体の静的情報で一生変わらず点突然変異を探すのは困難です。一方、一部病気のなりやすさの推定などへはすでに実用化され、今から始めても価格競争になるだけです。

そこで身体の動的情報を反映する「免疫受容体」に着目しました。T細胞受容体(TCR)やB細胞受容体(BCR)は後天的に刻々と変化しインフルエンザ感染やがんなど受容体が作られる疾患へ対応しています。TCRのバリエーションを正確に測ることができれば健康モニタリングに応用できるのではないかというのが小笠原教授の研究仮説です。

3.免疫受容体解析

TCRのバリエーション(レパートリー)分析は、身体の動的状態を測ることであり、健康を定量・評価できる新たなモニタリング手法の可能性があります。これに従来の、血液・生化学検査、ゲノム検査を組み合わせることでより精度の高い健康評価が可能となります。

さらにビッグデータ化することによって問診がなくても病歴が把握でき、より高精度に寿命を予測できる可能性があります。もちろん、倫理問題、個人情報保護問題もクリアしなければならない課題の一つです。

このテーマを理解するために、免疫機能の基礎を知っておく必要があります。小笠原教授はかなり難しい専門分野について比喩を加えながら丁寧に以下のように説明していきました。

体内に異物が侵入した際に最初に反応するのがマクロファージで、いわば「偵察隊」です。次に反応するナチュラルキラー(NK)細胞が「護衛隊」となり異物をすぐ殺します。その後、T細胞が免疫反応の「司令塔」となり、キラーT細胞が「兵隊」として動き出し1対1で戦っていきます。B細胞は「鉄砲隊」であり鉄砲の弾となる抗体を産出します。

免疫システムの特殊性

T&B細胞には多様性、特異性、記憶性があります。
レパートリーが1018もあり抗原に対して作られ得るバリエーションが多くどんな異物(タンパク質、糖類、金属イオン)にも対応できます。

特異性はカギとカギの穴に例えられ、選択された1つの受容体(抗体)は一つの抗原が対応します。記憶性によって予防接種のように次の侵入に備えることへ対応できます。

4. 免疫受容体解析の産業化

TCR分析を利用した産業化は創薬と健康維持の二つに区分されます。創薬は抗体医薬、ワクチン、細胞療法などです。今回、小笠原教授が提案するのは健康維持に関する健康食品、健康機器、保険などチェック・モニタリング分野です。

がんの免疫療法がノーベル賞

京都大学の本庶佑名誉教授が、がんの免疫療法で本年度ノーベル賞を受賞しました。研究成果から創薬につながったオプジーポの効果向上によってがんを攻撃するT細胞を特定するところまで基礎研究が進んでいます。これによって個別化がん治療への期待が高まりました。

5.産業化への戦略と課題

これからTCR解析は産業化のシーズになりうると小笠原教授は言い切りました。ビッグデータ化、バイオインフォマティックスによるリスクの評価と細分化によって個別化健康管理が可能となります。

商品化に向けてどの疾病にニーズがあるかを見極め、簡易化による低コスト化をはかり解析のキット化などの事業化作業が必要です。

しかし、大学の研究機関だけでは事業化は難しく、小笠原教授は参加企業に一緒に共同研究開発をしていきませんか、と産学連携を呼びかけ講義を終了しました。

グループトーク後の質疑

村田特任教授のアイスブレイクからさらに講義の内容を深堀し、グループトークによって抽出された質疑は以下の通りです。

Q1.世間でいう「免疫力を上げる」とは何を指すのか?
Q2.TCR解析によって健康マーカーの形や見極め方研究ができないか?
Q3.マーカーに向く病気と向かない病気の違いは?
Q4.解析したい病気を絞った場合はコストが上がるのか?
Q5.検診は病院でないとできないのか?
Q6.かかってもいない病気を教えられることの不安と倫理上の問題はどうか?
Q7.インフルエンザの場合、薬では免疫細胞が作れなくなる心配は?どういう影響を与えているのか?
Q8.腫瘍マーカーでT細胞が出ているということは体が健康なのではないか?
Q9.定期健康診断の履歴で年齢相当の健康体であるかどうか分かるようになるか?
Q10.10ccの採血検査に必要な資格は?
Q11.TCR解析によって出た結果をどう受け止め解決していくかどうかは医師の理解が必要なのでは?
Q12.認知症治療への見通しは?
Q13.がんにおける超早期診断と保険への適用は?
Q14.今検査が受けることができるか?
Q15.生活習慣の蓄積は把握できるの?

まとめ

TCR解析はゲノム解析だけでは分からない後天的な生活の履歴が分かる方法であり、疾病の超早期発見や個別の健康管理モニタリングへの応用は、新たな健康支援産業を生み出す可能性を秘めています。

ノーベル賞受賞で注目される日本の免疫研究成果を、海外に持っていかれる前に、いち早く事業化することが、日本企業に求められています。今日の月例会に参加したSAC東京参加企業はその一番近道にいます。

以上

(文責:SAC東京事務局)

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