SAC東京5期コースⅠ第8回月例会 事務局レポート

大規模バイオバンクと社会との接点

「大規模バイオバンクと社会との接点」をテーマに東北メディカル・メガバンク機構 長神風二特任教授のご登壇です。

東北メディカル・メガバンク機構が誕生したきっかけは東日本大震災です。未曾有の震災を経験した長神教授は、震災の現場で起きていたことやそこで得られた教訓を後世に伝える語り部としての使命を強く自覚され、今回の講義でも東日本大震災の甚大な被害状況やそのとき感じたさまざまな想いや教訓を伝えることから講義が始まりました。

創造的復興に向けた強い想い

被災地住民の長期的健康支援、医療情報のIT化と次世代型地域医療体制の確立、若手医療人を引きつける魅力あるプロジェクトの必要性など、被災地で感じた強い問題意識から、東北メディカル・メガバンク計画がスタートしました。

総計15万人以上のコホート

地域住民コホートは、宮城県、岩手県で8.4万人規模、三世代コホートは7.3万人規模を実現しました。コホート調査は、34mlの採血、アンケート調査票、詳細検査と追跡調査で構成されているとのこと。調査に協力している被災地住民の未来に貢献したいという想いが、この世界有数のバイオバンク構築を支えているのだということを実感しました。

コホート調査へのアドオンによる産学連携

15万人の調査データ自体も利用価値の高いデータですが、加えて、産学連携を指向する各企業がこの15万人の一部の方々を対象とした独自調査をアドオンで実施できるのだそうです。これは企業にとってはかなり魅力的なデータベースインフラだと感じました。

個別化ヘルスケアへの挑戦

東北メディカル・メガバンク計画によって構築されたコホート調査と乳幼児健診や学校健診などの公的データとを連携することによって、ライフステージに応じた健康情報の収集・蓄積が可能となっています。最終的には、これを活用することで一人ひとりにあった個別化医療と個別化予防の実現を目指しているとのことです。健康長寿の国づくりに挑戦する東北メディカル・メガバンク計画のビジョンに強く共感しました。

バイオバンク利活用環境の整備

バイオバンクに蓄積された膨大な試料・情報は、構築にあたった東北大学のみならず民間企業を含む全国の研究機関で利活用可能な仕組みが整えられています。

こうした仕組み構築のためには、個人情報保護をはじめとしたセキュリティ面の対策、ヒト由来の試料・情報を利活用するための倫理面の配慮、有効に利活用されるための知的財産面のルールの整備など、利活用の前提となる課題をクリアしなければなりません。先駆的な取り組みだけに、その実現にはかなりのご苦労があったものと推察されます。

期待高まる産業界との連携

これまでに26件の試料・情報分譲、130件以上の共同研究が実施されています。
今後さらに、多種多様な業種の企業とのさまざまな連携が、加速していくものと思われます。 

産官学の総力をあげて個別化ヘルスケアに挑戦し、是非とも世界の潮流を牽引してほしいと願わずにはいられません。

グループトーク後の質疑(質問のみを記載)

〔グループ質疑〕
Q1.他の地域にも前向きコホート・バンクの事例はあるのか?
Q2.長期的な追跡調査を実現するためにどのような工夫が必要か?
Q3.コホート研究の中で最もエキサイティングな発見は?
Q4.日本人基準ゲノムを使うことによるデメリットやリスクはないのか?
Q5.コホートの協力者にどのように情報をフィードバックしたのか?
Q6.日本人基準ゲノムの活用によって、精度に加えて処理効率や解析スピードもUPしたのか?
Q7.追跡調査の頻度・タイミングは? アドオン調査にかかる費用は?
Q8.個別化予防に関する製品・サービスの市場はどの程度の規模か?
Q9.日本人基準ゲノムに関連して、国内での地域差はあるのか?
Q10.「分譲」とはどういう意味で、その手続きはどうすればよいのか?
Q11.ジャポニカアレイ®が一般のクリックなどで利用可能になるまでどのくらいかかるのか?
Q12.三世代コホート、他地域への展開計画はあるのか?

これらの質問に丁寧にかつ的確に応えて頂いた長神先生でした。

以上

(文責:SAC東京事務局)

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