SAC東京4期コースⅡ第10回月例会 事務局レポート

これからの介護ビジネスはどうなるのか

第4期コースⅡ第10回月例会は講師・SAC東京事務局長の小川利久による「これからの介護ビジネスはどうなるのか」が講義テーマです。

講義は時代、制度の変化から、SACで学んだ生命科学の各講義を振り返り科学的根拠を検証しながら、最後には世界の動きを読み解く領域まで展開していきました。

介護ビジネスはイノベーション

ゴールドプランが発表された1989年までの30年間を振り返り、6年後の2025年を予測しながら2019年の現在を見極めていきました。2000年に介護保険が制定され医療と介護のあり方が大きく変わりました。まだまだ変化し続ける社会において介護ビジネスは常にイノベーションであり続けます。

縮充していく介護保険事業

介護報酬は9兆円から21兆円へ拡大すると予測されていますが、財源確保からみるといかに支出を減らすかがポイントとなっています。すなわち介護保険事業は自立支援と重度者対応へ向けてサービスの質を充実させながら、コスト削減へ向かっていきます。

介護ビジネス領域のポイント

住環境の力、脳の力、食べる力、生ききる力が示されました。さらにこの4つの力を統合し、まちのコミュニケーションづくりへ広げていかなければなりません。超高齢社会を支えることは単体の介護施設、介護事業だけで成立し難くなっています。

共同住宅から共同居住へ

住宅供給を優先していた時代を経て、高齢者が住みやすい住宅として生活をシェアする共同居住のシステムづくりが介護施設や高齢者住宅にて応用されています。それは高齢期に要介護状態になっても、認知症になっても、安心で住みやすく、人生を終える場としてもふさわしい住環境づくりの要件となってきました。

住環境と食事

「歳をとると家事が大変である」、このニーズに応えるために多くの老人ホームでは食事提供サービスを行っています。これは老人福祉法第29条の要件になっているからです。ここで介護施設内における厨房とキッチンの形態が3種類示されました。要介護になっても高齢者の自立を支援するために必要な介護業務と生活行為を区分する食事サービスのあり方に関して、講師からの実践的な情報を持って検証されていきました。

摂食・嚥下機能評価

高齢期には咀嚼機能、嚥下能力が低下して誤嚥性肺炎発症リスクが高まります。食べる力を支援する介護現場における口腔リハビリテーション、口腔ケアの取り組みとメカニズムも映像とデータで示されました。

高齢者の脳活動や日常生活サポートなど、SAC東京で学んだ生命科学を日々介護施設において実践しているからこそ提供できる情報です。

認知症ケア

介護は認知症ケアにあるといっても過言ではありません。認知症には脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症に加え、レビー小体型認知症、ピック病、あるいはその混合型などがあることが介護現場でも認識され始めました。しかし、その診断が曖昧であり、まだまだ認知症ケアの現場には混乱があります。

最近では発達障害高齢者の周辺症状の解明が紐解かれはじめ、新たな認知症ケアへ舵取りが変わろうとしています。しかし、医療業界においてでさえまだまだ情報不足の段階であり、標準化に向けて相当な時間を要することが懸念されています。

介護現場における認知症ケア「学習療法」の実態

川島隆太教授が開発した非薬物療法による認知症ケア「学習療法」への講師自ら実践した取り組み、およびその成果が動画にて紹介されました。導入した介護施設から地域へ広がり、アメリカへも渡った学習療法です。さらにこの学習療法は一人当たり年間約19万円の社会コスト削減効果を作り出しています。

世界の動き

中国をはじめシンガポールや香港、台湾などでは日本同様に高齢化が進んでいます。各国のたくさんの介護ビジネス参入企業が日本の介護を学びに来ています。

一方で、まだまだ高齢化率が低い若い東南アジア諸国から、新たに創設された技能実習制度、特定技能制度を活用した介護人材受け入れが始まりました。フィリピン、ベトナム、ブータン、カンボジアなど送り出し国側の状況も刻々と変化しています。香港、カナダ、ドイツなどの国々と受入れ競争が始まりました。

日本語習得が条件となる外国人介護人材の受入れに対応することも新たなビジネスとなり得ます。

これからの介護ビジネスは、高齢社会最先端を走る日本の介護技術を海外へ提供し、一方で東南アジア諸国から介護人材を受入れる、この両面からとらえる必要があります。

介護ビジネスを世界へ広がる市場として見据えること重要なことがわかった参加者たちでした。

【グループ質疑】

各グループから出た質疑は以下の通り(質疑のみ記載)

Q1.外国人介護人材における日本とヨーロッパ諸国とのニーズの違いは?
Q2.2025年に介護市場は大きくなるのか、その時に介護人材は足りるのか?
Q3.食事が困っている人へ届ける仕組みは?
Q4.人材確保でうまくやっている事例とAI活用の可能性はどうか?
Q5.介護財源が減り、医療から介護へシフトしていくというからくりは?
Q6.学習療法はエビデンスがあるのに普及、定着しないのはなぜか?
Q7.介護において食事に対する比重が大きくなる理由、他のサービスと包括的に行うためのポイントは何か?
Q8.個別ケアが提供されると時間とコストがかかると思うが経営が成り立つのか、人材は足りるのか?
Q9.地域包括ケアがうまくいっている事例、都会と地方の違いは何か?
Q10.介護ビジネスにおいて異業種の連携が成功している事例はあるか?
Q11.予防の観点から見た介護ビジネスのポイントは何か?
Q12.介護人材はなぜブータンなのか?

総括

「これからの介護ビジネス」は介護保険内だけでは通用しなくなります。介護保険制度の変化をしっかりと抑え、そこだけではできない介護保険外事業へシフトしていかなければなりません。

介護を予防から健康寿命延伸、そして海外へ広げていくために、科学的エビデンスを持つこと、合わせて実践成果をシステム化し、さらに新たに解明されていく脳科学等の研究成果を介護ビジネスへ実装することがポイントです。

これこそがSAC東京で学ぶ生命科学を介護へ応用する理由です。

以上

 

(文責:SAC東京事務局)

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