年を取って涙もろくなったのは感情の抑制機能が低下したから

脳の感情抑制機能の低下について、村田特任教授の記事が掲載されました。

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第131回より転載

3月9日 シルバー産業新聞

年を取ると涙もろくなる本当の理由は?

最近、涙もろくなったと訴える中高年が多い。「朝のテレビドラマを見ると感情移入しやすいのか、必ず涙ぐむの」「先日映画を見たら冒頭から涙があふれ出て、最後まで止まらなかった。年を取ったら感受性が豊かになったみたい」こういう話は特に50代、60代の人からよく聞かれる。

しかし、年を取ると涙もろくなるのは、感情移入しやすくなったのでも、感受性が豊かになったのでもない。大脳の中枢の機能低下が真の理由だ。「背外側前頭前野」と呼ばれる部位が脳全体の司令塔となり、記憶や学習、行動や感情を制御している。涙もろくなったのは、この部位が担っている感情の抑制機能が低下したからだ。

なぜ、高齢社会では「暴走老人」が増えるのか?

また「キレる高齢者」も目立つ。携帯電話店で若い店員に突然怒鳴り始めたり、駅や病院で暴言を吐いて乱暴に振る舞ったりする高齢者を時々見かける。2016年版『犯罪白書』によれば、20年前と比べて高齢者の「暴行」は49倍に増加している。

こうした「暴走老人」の増加も、背外側前頭前野の機能低下により、感情を抑制できない高齢者が増えたためだ。この部位の中核機能の一つに「作動記憶」がある。これは短時間に情報を保持し、処理する能力で、その容量は加齢とともに減少する。これが感情の抑制機能を低下させるのだ。

会話に「あれ」「これ」「それ」が増えたらご用心

一方、誰かにあいさつされても名前が出てこない、会話の中で俳優や歌手の名前などの固有名詞がぱっと思い出せないといった具合。「あれ」「これ」「それ」といった指示代名詞を会話の中で多用するようにもなる。

これらの「物忘れ」は過去に経験した記憶を脳の貯蔵庫(側頭葉下面など)から取り出す能力の低下によるものだ。

自分の行動や新しい情報を脳に記憶として書き込むのが苦手になることによる物忘れもある。例えば何か考え事をしている最中に携帯電話にメールが入り、その返信をした後、先ほどまで何を考えていたのか忘れてしまう。これは記憶の書き込みをつかさどる背外側前頭前野の機能低下の症状である。

特に高齢期になると一般に新しいことをしたり、覚えたりするのが苦手になる。例えば、省エネのために家電製品を買い替えようとしたが、あまりの多機能に気持ちが萎えて買い替え自体がおっくうになる、といった具合だ。

記憶の書き込み機能の低下に意欲の低下が加わり、より深刻な状態になったためだ。若いころにパソコンを使っていない高齢者にスマホが一定割合以上普及しないのも、これが大きな理由だ。

脳の作動記憶容量を増やすトレーニングが有効

ここまで挙げた「感情の抑制機能の低下」「記憶の書き込み機能の低下」を食い止めるには脳の作動記憶容量を増やす脳トレが有効だ。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターではセンター長の川島隆太教授を中心に民間企業との産学連携で、この作動記憶容量を増やすトレーニング手法を開発、商品化している。

その代表商品は任天堂3DS用ソフト「ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング」、通称「鬼トレ」だ。このソフトで作動記憶トレーニングを続けると記憶容量が増えるだけでなく、感情を抑制する力も強くなることがわかっている。

これに加えて脳の実行機能、予測や判断力、集中力も向上し、仕事や勉強の効率が上がったり、家事のスピードアップやスポーツが上達したり、様々な効果が期待される。

ちなみに、私が担当している東北大学スマート・エイジング・カレッジ(SAC)東京では、こうした最先端の脳科学の知見を事業に役立てる場となっている。

「キレる高齢者」になりたくなければ、作動記憶量の脳トレをお勧めするとともに、SAC東京でその原理をきちんと知ることが役に立つだろう。

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