SAC東京5期コースⅠ第6回月例会 事務局レポート

口からみた社会と健康の関係〜地域共生社会のつくりかた

コースⅠ第6回月例会は講師・小坂健教授によるテーマ「口からみた社会と健康の関係〜地域共生社会のつくりかた」の講義です。

小坂教授は自己紹介から始めていきました。ネパール、ベトナムなどとも関わりながら、子供達が死んでいく社会を見つつ、どんな社会が良いのかを考えてきました。そして今は感染症対策や在宅で困っている人の支援へと研究を進めています。
今回の講義は以下の構成となっています。

    1. 口の重要な機能とは?
    2. 大規模災害コホート研究からの教訓
    3. 地域共生社会への処方箋+α

口の重要な機能とは?

「目は口ほどに物を言う」ということわざがありますが、口の専門家である小坂教授としては「口は目ほど物を言う」というくらい口から分かることはたくさんあります。

食べること
呼吸すること
話すこと
表情を作ること

キスをすること、歯垢1グラム中には1〜3兆個の細菌があり、感染症の観点ではキスは?と小坂教授は微笑みました。口で絵を描いている星野富弘さんという画家もいます。あらためて口の役割はたくさんあることを確認していきます。
日本老年学的評価研究(JAGES2010-2013調査フィールド)によって、歯の数は様々な疾患と大きく関与していることが分かってきました。65歳以上の場合、健康寿命の長さと大きく影響していること、生活機能の維持が困難となりやすいこと、義歯を使わなければ転倒のリスクが2.5倍、認知症のリスク1.9倍、閉じこもりリスクが約2倍となるなど、歯がないことは脳卒中と同等のリスクであることを数値的に評価してます。

味覚障害と健康の関係

平均年齢80歳の高齢者の味覚障害は36.6%です。唾液がないとしょっぱさが分からない、つまり味が分からなくなります。人間が生きていく上で「うま味」感覚は重要であり、口だけではなく胃の中にも「うま味」受容体があり胃瘻であっても「うま味」を味わうことができます。

高齢者の嚥下障害、肺炎予防、治療に効果がある食材や薬、摂食・嚥下機能向上グミなど、さらに口腔ケアなどもあります。

岩沼市の介護のあり方共同研究〜震災が示した事実

小坂教授は「岩沼市の介護のあり方共同研究」など被災地の様々なデータを紹介しながら説明を繰り広げていきました。何を食べるかは大事なことですが、どこで誰と食べるかも重要です。

一人暮らしの男性は、一人で食事をしていると2.7倍うつになり、仮設住宅への転居によってうつ発症のリスクは2倍となりました。住宅被害は認知症症状を悪化させ、震災による被害は6歳分の加齢と同じIADL低下に相当する状態となることも分かってきました。

一方で、運動や歩行は抑うつ度の悪化予防に効果的であり、震災前の地域の結びつきを維持することによって外傷後ストレス障害(PTSD)の発症抑制につながります。宮城県は日本で一番歩かない県です。小坂教授も仙台では一日3,000歩程度ですが、東京に来ると10,000歩を超えるそうです。

健康や幸福の決定要因

米国人を対象にした2007年の研究論文によれば、死因に寄与する要因において、遺伝子が7%まで下がりました。社会状況が15% 行動が40% 、医療は10%のみにしか過ぎません。タバコを吸わない、戦争へ行かないという変化が大きく影響しています。

それではどのような要因が死亡率を下げるのか?
「ソーシャルサポート」と「複合的な方法による社会参加・統合」が禁酒・禁煙を抜いて上位にきています。2018年には英国で最初の「孤独担当大臣」が任命されて話題となりました。運動の実施頻度とスポーツ組織参加によって要介護状態の発生リスクは低下します。運度は一人より仲間で行うことがお勧めです。ワクワクするような内発的動機が高次な自己実現欲求の実現につながっているからです。

ポジティブサイコロジー

「健康」に関する研究も「病気」の研究をしているのが実態ですが、精神病を研究するのではなく、人間の成長や生活の質を高めるため、何が必要なのかに注目する「ポジティブヘルス」が重要となります。最近では「Elderly」という英語も差別用語だと言うと小坂教授は説明しました。次世代型として認知症の人が働くデイサービス、「障がい者が輝くレストラン」、老いも若きも障がいや疾病を抱えてもお互いのように支える「ごちゃまぜ」のまち「シェア金沢」の事例なども紹介されました。

社会的処方と新しい健康の定義

医療と既存の地域サービスを融合させる「社会的処方」という言葉を広げたいと考えている小坂教授です。「自立支援」という言葉自体にも矛盾があります。自立支援から地域共生社会へ、薬ではなく社会的処方が重要です。

WHOは健康の定義を「身体的、心理的、社会的に完全に良い状態」としましたが時代のニーズに合わなくなってきました。健康の概念の見直しが必要です。

最近の研究によれば、新たな健康の定義は、社会的・身体的・感情的な問題に直面した時に「適応しなんとかやりくりする能力」のことです。
「Health」ではなく「Wellbeing」、疾病に注目するのではなく、上達や楽しみを皆と共有するのがPositive healthです。

Giving Brings Happiness

「与えること」は「仕合せ」をもたらす、小坂教授は「誰が困っているのか、ひとを想像する能力が重要である」とまとめて講義を終了しました。

グループトーク後の質疑(質問のみを記載)

〔グループ質疑〕
Q1.歯の画像診断は実現可能か?
Q2.炭酸水の効果は具体的にどういう効能か?
Q3.社会的処方のコミュニティの場を作る、継続するためのうまい事例は?
Q4.歯の数以外にどの歯が大切か?
Q5.ソーシャルサポートが死亡率を下げる、フィジカルなネットワークが有効か?
Q6.健康寿命は社会参加、引きこもっている人、無関心層へのアプローチをどうするか?
Q7.在宅診療は逆に孤立の原因とならないか?
Q8.8020以外に次の歯の健康の目標は?
Q9.イギリスの孤独対応大臣の任命、誰が対象でどういう政策か?
Q10.モチベーションにおいて安定した高さだけではなくベースをあげる、柔軟性をあげる、どちらが大切か?
Q11.歯の数、歯科医が磨き残しをみた場合、MCIを発見できる方策はないか?
Q12.ウイルスコントロール、行動変容のヘルスチャックはどこまでできているか?

〔個別質疑〕
Q13.ポジティブヘルスを促進する事例は?
Q14.ソーシャルサポートと個人情報とどっちが重要か?

以上

(文責:SAC東京事務局)

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