SAC東京5期コースⅠ第4回月例会 事務局レポート

美しさと加齢

コースⅠ第4回月例会は講師・阿部恒之教授によるテーマ「美しさと加齢」の講義です。

講義テーマの柱は以下の3点です。

  1. 加齢に対する2つのイメージ:老醜と老賢人
  2. 加齢の実態:加齢(aging)≠劣化(老化:senescence)
  3. 減点法の美意識と加点法の美意識:時分の美とまことの美

1.加齢に対する2つのイメージ

阿部教授は「17世紀オランダにおける人生の諸年齢」、ゴヤ「スープを飲む二人の老人」、映画「ハリーポッターの賢者と石」に登場する魔術師・アルバス・ダンブルドアの絵画や人物を示しながら、加齢に対するイメージを説明していきました。

水戸のご老公の「老」は尊敬の意味、「隠居」とは公務が免除された特権を意味します。

加齢とは心身機能の衰退をイメージする「老醜」だけではなく、経験・知恵を蓄積した「老賢人」のイメージを持つことが重要です。

2.加齢の実態

「老いの泉」(西村出版1995年)を引用して講義が続きます。

加齢による知能の低下ではなくて、自分への意味を求めてしまうなど実生活上の知恵が邪魔をして正しい答えを導き出せなくなってしまうことがあります。これも高齢者に対するネガティブなイメージの一つとなってしまいます。これらは流動性知能(20歳代を過ぎると衰退)と結晶性知能(生涯成長)の違いによって生じています。

アフォーダンス(affordance)

「老いはこうしてつくられる」(中公新書)を引用して「老いる」ことへの偏見、勘違いを再考していきました。

人が「自分」にとっての意味や価値をものさしに環境を計ることは生態学的測定、生態学的値となります。

「アフォーダンス(affordance)」とは「〜することを可能にする」という意味であり、アフォーダンスと行動にズレがある高齢者は情緒的な幸福感が低くなります。

コミュニケーションギャップ

65歳以上は擬音語(onomatopoeia)による表現が苦手になってきます。実際に面白くても顔が笑っていないので、他者には高齢者が笑っているようにみえません。高齢者自身も他の高齢者の笑いが見て取れ無くなります。

このように、加齢によって表情が出にくくなり、無意識の体動には現れていき、「コミュニケーションギャップ(思いのすれ違い)」が起きてしまいます。
現実、自己認識と他者認識のコミュニケーションギャップが孤独感へつながっていきます。

3.減点法の美意識と加点法の美意識

「あなたはおいくつですか?」という問いに対して、60%の人が少なめにサバを読んで答えてしまいます。「美しさは若さである」という信仰が根付いているからです。

阿部教授は肌の加齢変化に対する美しさと健康評価データを示しました。視覚的な老化の印が現れていないことに注目した「減点法の美意識」だけではなく、若さを無理に求めない「年齢なりの美と健康」を良しとする意識への転換を説いていきました。

美の規範

美の規範は、加齢に伴って変化します。
加齢による肌への刻印による減点だけではなく、加齢とともに蓄積される何かの要素があるという意識の存在、それが加点法の美意識です。

世阿弥「風姿花伝」に置き換えれば、「時分の花(若さゆえの美)」から「まことの花(時分の花が消えた後に修練で備わった美)」への転換、これこそが「加齢による美しさ」です。

グループトーク後の質疑(質問のみを記載)

Q1.男性の美しさの調査はあるか?
Q2.シニア層が表情を出しにくい、他の表現方法は?
Q3.減点法、加点法に絡めて人生の終盤の準備の必要性は?
Q4.美しさの観点、アンチエジングの否定、性別の時代的変遷は?
Q5.加齢とともに蓄積されるものとは具体的に何か?
Q6.美しさと外見と立ち振る舞いのビジネスのウエイトは?
Q7.高齢者は擬音語が苦手になる、発信側の課題は?
Q8.(調査データに対して)各世代の女性は何を美しさとしたか?
Q9.世界では美意識について、何を求めているか?
Q10.介護事業者などBGMで行動を変える事例は?
Q11.講義データが古くないか?有効か?
Q12.コミュニケーションギャップを生まないようにするための手法は? あるいは読み取る事例は?

総括

美しさの認識は認知機能の変化、時代性の変化によって変わり、自分事へシフトしています。
自分と他者の意識レベルには必ずギャップがあり、そのギャップを埋めるところにビジネスチャンスがあります。そのポイントはネガティブをボジティブへ変え、意識を現実へ近づけ、受け入れる事です。
人生100年時代だからこそ、「もっと働きましょう」、「もっと健康でいましょう」と呼びかけるために必要なスマート・エイジングの学びです。

以上

(文責:SAC東京事務局)

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