SAC東京4期コースⅡ第5回月例会 事務局レポート

口からみた社会と健康の関係 地域共生社会のつくりかた

歯学研究科国際歯科保健学副研究科長の小坂健教授が、「口からみた社会と健康の関係、地域共生社会のつくりかた」をテーマに初登壇です。災害科学国際研究所で災害医学研究部門にも所属する小坂教授の講義は多岐に渡りました。

口の役割

機能的に食べること、呼吸をすることは絶対条件です。加えて話すこと、表情をつくることなど、コミュニケーションの役割の重要性を楽しそうに説いていく小坂先生です。感覚の優れている口を意識しながら講義は進みました。

研究データ

3年毎に10万人以上の高齢者データを追ってきた日本老年学的評価研究などから、高齢者の残存歯数とその4年後の要介護状態の発生リスクのデータが示されました。自分の歯が19本以下だった人は20本以上あった人に比べて要介護状態になるリスクが1.21倍高かったのです。

幼いころ虐待をうけた高齢者は歯を失うリスクが14%高いこと。自分の歯が多いと健康寿命が長くなり要介護でいる期間が短いこと。歯が少ないほど3年後の自立した日常生活が困難になることなどがデータで示されました。

何となくは分かっていることですが、データで見ていくことで現実問題になっていきます。歯が無いことの影響は、脳卒中が起こったのと同程度の影響があることも分かりました。

歯を失い、義歯を使わなければ転倒リスクが2.5倍になること、認知症発症リスクが高まること、誤嚥性肺炎との関係などを研究データと事例で理解していきました。

東日本大震災被災地で義歯をなくした被災者は、食事や社会生活の困難が増加したのです。現場を直に見てきた教授の言葉を重く感じる参加者たちでした。

IWANUMA Project

岩沼市は震災前のデータがありました。それが強みとなり、震災後、市と協力して社会的データも取ることができたのです。自宅を失うことによるダメージは大きく、歯も失い、認知症も悪化させる要因となることが分かりました。

高齢者は仮設住宅への転居で鬱発症リスクが2倍にもなります。岩沼市はコミュニティを保つ努力をし、町内ごとに仮設住宅に転居したそうです。少しの工夫にみえますが、大きな智恵と工夫であることが分かります。

被災者のデータから、避難所での運動参加やグループでのお茶会などが大切なことが示されました。災害が起きた時には、この知識を活用できるようにしたいものです。

死亡率を下げる要因

複合的な方法による社会参加・統合が死亡率を下げることが分かってきました。日英比較研究では、日本人は、男女ともに高齢者は「やせ」からの脱却と、男性では友人との交流を増やし喫煙を減らすことが長生きのための改善ポイントであることが分かったそうです。

食事も運動も一人より仲間とすることが勧められました。ひとり暮らしの男性がひとりで食事をしていると2.7倍鬱になりやすいというデータに、男性参加者は苦笑いでした。男性のひとり食対策が急務な日本なのです。

ポジティブサイコロジー

今までの病気の研究ではなく、HAPPYになる方法を考えるポジティブヘルスが必要です。老いも若きも、障がいや疾病を抱えても、お互い様で支えるごちゃまぜのまちが紹介されました。生活支援も介護予防も、提供する側もされる側もごちゃまぜです。いかにコラボするかに興味を持った参加者たちでした。

社会的処方

皆で活動(働く)するなど、社会とのつながりを処方する社会的処方の話に参加者の多くが惹きつけられました。リンクワーカーがつなげる役目を担うイギリスですが、30箇所の活動する場を紹介できる医師もいるそうです。

病気の治療を目標にすると上手くいきません。いかにポジティブヘルスにするかが大切です。自立支援から地域共生社会へ方向が示されました。薬ではなく社会的処方を進めていく決意を感じられる小坂教授の講義でした。

口からみた社会と健康との関係、地域共生社会のつくりかた。ここからどうするか?日本人として大きな課題を示されました。

アイスブレイク

村田特任教授の質問に小坂教授が答える形で理解を深めていきました。

Q1.歯を20本で区切る理由は?
Q2.虐待を受けた人が歯を失うリスクが高い理由は?
Q3.転倒リスクとの関係は?
Q4.歯の本数と友人(ネットワーク)の数の関係は?
Q5.社会的結びつきの定義は?
Q6.震災後の死亡リスクは?
Q7.死亡に寄与する要因を認知できているの?
Q8.社会参加している人の方が死亡率が低いとは?
Q9.イタリア・サルデーニャ島の大家族は?
Q10.鬱になりやすいのはなぜ男性?
Q11.社会的処方をするのは誰?

講義のポイントを確認することで、理解と質問したいことが深まって行く参加者たちです。「そういうことか」と、講義中の自分の解釈を正せる時間にもなっているそうです。

グループトーク

グループの仲間たちと深掘りしたい質問を決めていきました。異業種の参加者の視点が、色々なことを気付かせてくれる時間です。初参加の方が「議論の発展するスピードが速く、レベルの高いグループワークですね」と驚いていました。

グループからの質問・講師コメント

Q1.社会的処方は誰がどのようなレベルで処方すると良いか?
Q2.虫歯予防のシーラントが日本で普及しない理由は?
Q3.社会的処方を進める上での介護事業者の役割は?
Q4.社会的処方をつなげていくための企業メリットは?
Q5.男性の社会参加を促す事例は?
Q6.男性がモチベーションもてる処方は?
Q7.家の全壊と認知症の関係は?
Q8.コミュニテイへの参加は?
Q9.歯が無い人に対しての義歯の効果は?
Q10.共生社会は福祉の丸投げでは無いのか?
Q11.行政が担うことと民間が担うことは?
Q12.SNSを使ってのコミニュケーション効果は?
Q13.社会、地域、言葉の使い分けは?

参加者の熱心な議論に、丁寧に答えてくれた小坂教授でした。

総括

村田特任教授が今日のポイントを総括しました。

  1. 口の重要な機能とは?
  2. 大規模コホート研究からわかったこと
  3. 高齢社会への処方箋

参加者が興味を持った社会的処方をどう広げて行くのか?にスマート・エイジングにおけるビジネスチャンスも見えてきます。

学習療法も社会的処方でしたが、改善すると介護報酬が減るためにやらない事業者が多かったようです。

クスリの処方モデルと社会的処方モデルが併存する社会。明らかにその方向であることを感じた月例会でした。

以上

(文責:SAC東京事務局)

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