SAC東京コースⅡ第10回月例会 事務局レポート

1月19日開催 SAC東京コースⅡ第10回月例会 事務局レポート

「あなたの健康と長寿を守る機能性ヨーグルト」をテーマに東北大学大学院農学研究科、生物産業創成科学専攻齋藤忠夫教授が笑顔で登壇です。

ヨーグルトの世界的普及

1908年、「免疫食細胞説」でノーベル賞を受賞したメチニコフのヨーグルト不老長寿説から講義が開始されました。ブルガリア地方に長寿者が多いのは、常食するヨーグルトに含まれる乳酸菌が腸内に増殖し、腸内腐敗を防止していると考えられ、瞬く間に、ブルガリア菌を使ったヨーグルトは世界中に広まりました。 

ヨーグルトに使われる優れた2菌と規定

サーモフィルス菌はストレプトコッカス属の球菌で、腸内細菌のバランスを整える役割があります。よって、便秘や下痢の改善などに効果的です。また腸内環境改善に関連して美肌効果があるといわれています。ヨーグルトやチーズを作る際に、元菌(スターター)としてブルガリア菌とともに国際規格で認定されています。

ブルガリア菌はサーモフィルス菌生育に必要なアミノ酸やペプチドを作り、サーモフィルス菌はブルガリア菌生育に必要なギ酸を作ります。このようにお互いが助け合って増殖するために多くの乳酸を作ることができ、短時間で美味しいヨーグルトを生成できます。FAO/WHOは、ヨーグルトとはこの2菌を使って発酵させることと規定していますが、日本にはその規定はなく、自由な菌を使って良いことに驚きました。

我が国のヨーグルトの生産量と市場規模の推移

平成20年には92万klであった生産量が平成26年には120万klを超え、最近の6年間は連続の増加です。常に右肩上がりの食品は少ない中、牛乳と同様の家庭内常備食品として不可欠なアイテムに定着しているヨーグルトです。韓国はドリンクタイプ、日本はプレーンタイプが主流だそうです。

世界に誇る機能性食品のシステム

平成3年から特定保健用食品制度「トクホ」がスタートしました。国が食品に健康表示を許可する世界で初めての画期的な制度であり、世界各国から注目されています。ビフィズス菌が広まったのはメディアが健康によいことを取り上げたからですが、日本人の多くが「お腹の調子を整える食品」に興味を示している証となりました。

筋肉量の減少を防ぐ

サルコペニア(筋肉減少症)は、加齢とともに減少する骨格筋の筋肉量が極度に低下する症状で、75歳以上の後期高齢者において急激に増加しています。タンパク質摂取量の低下が大きな要因と考えられており、充分なタンパク質に加え、ビタミンDの摂取と適度な運動の励行がサルコペニア予防に期待されています。

筋肉が落ちると転倒する

ヒトの筋肉量は、一般的に40歳から減少し始め、65歳を過ぎると減少スピードが速まり、80歳までにはピーク時の30~40%まで落ちてしまいます。外見は同じでも筋肉は減少し、筋肉を作るタンパク質が摂れていないため、転倒率と骨折率が高くなり、QOLが大きく低下してしまうのです。この「低栄養の悪循環」を断ち切ることが高齢者の栄養管理に重要なのです。

適度な運動とタンパク質摂取で筋肉を増やす

タンパク質は20種類のアミノ酸からできています。必須アミノ酸9種類の中で、筋肉を増やす能力の高いアミノ酸であるロイシンも、非常に簡単な化学構造ですが体内で作ることはできません。必ず食事から摂らなくてはならない成分です。筋肉は何歳からでも増やすことはできます。栄養の摂り方次第なのです。

ロイシンなどの分岐鎖アミノ酸(BCAA)

BCAAの含量は食品により大きく異なりますので、タンパク質を選び、吸収の速度も考える必要があります。少しきつめのウォーキングなどをして筋肉に負荷をかけた30分以内のゴールデンタイムに、吸収速度の速い牛乳一本を飲むことで確実に筋肉を増やせます。ただし、空腹時に運動をすると筋肉のタンパク質が分解されてしまうので要注意です。

高齢者の筋肉増大には1,6g/kg/日のタンパク質

体重が50kgのヒトが一日80gのタンパク質を摂る努力は少しの工夫でできそうです。「日々の食事内容と運動に留意して健康寿命を延ばし、介助や介護を必要としない素晴らしい老後を今から準備することが大切です」と講義する先生です。老人ホームの研修資料を示しながら、寝たきりにならないように生きていって欲しいと願っているようでした。

免疫力を上げる

「R-1乳酸菌」を含むヨーグルトを半年間、毎日食べたことでインフルエンザ感染率が激減したという2010年のデータから、リン酸化EPS(Exopolysaccharide)により活性化されたナチュラルキラー細胞(NK細胞)によるインフルエンザウイルスへの攻撃が解説されました。ヨーグルトが注目されている理由が解ってきます。

骨粗鬆症を防ぐ

「日本ではこれが一番大問題だと思います」と、もっとも吸収されにくい元素の代表がカルシウムであることへ講義は進みます。「ミルクは3秒以内にカルシウムを摂れる優れた食品です」と言われて、牛乳を飲む機会を作っていない自分を反省しました。野菜や小魚と比較してもCa含有量はダントツで、吸収率も優れた牛乳です。健康診断での骨粗鬆症の検査を考えていましたが、まずは牛乳を飲むことから始めようと決意しました。

カゼインホスホペプチド(CPP)入りの食品

リン酸化セリン集中部位は消化過程で切れ残りCPPとなり、Caの腸管からの吸収促進作用になっていくという説明は難しく首をかしげましたが、スーパーに並ぶ食品としての話で理解が進みます。「育てることが大切」なため、家畜の餌にもこの成分が使われているそうです。

MBP(乳塩基性タンパク質)

乳のカルシウム吸収性と骨への沈着性を高める成分であるMBPは、複数の生理活性タンパク質の混合物であり、破骨細胞を抑え、同時に骨芽細胞を刺激することを雪印乳業(株)が発見したそうです。これを添加利用した見覚えのある食品たちが急に大きな存在に感じました。

痛風を防ぐ

食品から摂取されたプリン体は、消化過程で3つの形態に変化し、それら全てが体内に取り込まれます。プリン塩基は、他の2形態(ヌクレオチド、ヌクレオシド)と比較して吸収率が低く、体内に取り込まれにくいのです。プリン体の過剰摂取は血清尿酸値上昇、高尿酸血症、痛風の原因となることはよく知られています。

分解能でPA-3株を選抜

プリン体を消化しにくいプリン塩基にまで分解する活性(分解能)で、各種乳酸菌を選抜しました。PA-3は3つの構造のプリン体を菌体内に取り込み栄養とします。高尿酸血症モデルラットが30日で尿酸値が低下した研究データは、「痛風の内服治療」以前の、その気配のあるヒトには朗報です。痛風はとっても痛い病気です。

ピロリ菌撃退ヨーグルト

40歳代以降で「70%を超える罹患率」といわれるピロリ菌。胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃ガンの原因といわれます。医療では抗生物質で除菌をしますが、ガセリ菌LG21の乳酸が溶菌作用を示す画像は驚きでした。メカニズムまでは解っていませんが、ピロリ菌に対する増殖抑制能が高いガセリ菌LG21なのです。

その他の機能性ヨーグルト

肥満を防ぐヨーグルト、血圧降下作用が期待されるヨーグルト、セシウム(C3)137の体内除染ヨーグルトなどが紹介されました。自閉症の原因物質が分かってきたと、自閉症を治療するものまで研究中であり、更に多くの機能性ヨーグルトの開発が進むことが期待されます。その背景には、基礎的な乳酸菌やビフィズス菌の特性解析のたくさんの研究成果が生かされていました。

個人の腸内フローラに合うオーダーメイドヨーグルト

近未来研究の課題は個人レベルのヨーグルトです。知能や性格にまで影響する腸内細菌叢の進展、乳酸菌の示す免疫賦活化や抗ガン作用機構の解明、長寿遺伝子をオンにするプロバイオティクスの研究、腸内フローラに不足している有用乳酸菌を健康時に貯菌(腸内有用バクテリア銀行の設立の提案)などが遠い未来の「夢」ではなく「身近なこと」に感じながら講義は終了しました。

【アイスブレイク・タイム】

参加者の目的の達成に積極的に関われるよう、村田特任教授が講師への質問形式で深堀りしていきます。メモを取る参加者が多いコーナーです。

1.FAO/WHOでは2菌を使って発酵させると規定されていますが、日本はなぜWHOのルールに従わなくてよいのですか?
2.運動直後に合成能力が上がるロイシンのメカニズムは?
3.ガセリ菌が多いとなぜ脂肪が減るのか?
4.オーダーメイドの今後の研究については?

講師の「1.の回答」に対して、「日本の方がイノベーションは起きやすいようですね」と参加者に期待する村田先生です。自社の事業展開にヒントを見つけた参加者もいたようです。

【個別質疑】

Q1.色々な種類のヨーグルトを摂るのがよいのか?単品がよいのか?
Q2.牛乳を飲んでもCaが増えない論(データ)はあるのか?ヨーグルトは?
Q3.乳製品を摂ることによってガンのリスクが高いといわれているが?
Q4.ヨーグルトは腸内菌叢が変化するのか、食べた乳酸菌が定着するのか?

一つひとつの質問に、「長くなりますので」と自ら笑いながらも丁寧に説明して下さる齋藤先生でした。講義の理解が深まっていくと感じたのは私だけではなかったようです。

【パネルトーク】

参加者代表の3人と教授によるパネルトークを小川事務局長のファシリテーションで行いました。会場も参加して先生への質問が飛び交いました。

Q1.乳にビタミンCが入っていないのは相性が悪いのが理由か?
Q2.固有の乳酸菌はいつの段階で固有科するのか?それは外部からか?
Q3.ビフィズス菌はなぜ減少するのか?
Q4.商品本体に「効果」の記載がなく高齢消費者に分かり辛いが、学会、食品業界ではどうなっているのか?
Q5.日本人はA型気質でお腹の調子が悪いのか?日本食との関係はあるのか?

Q6.現在の体内の菌を外で保存し、歳をとってから戻すのは有用か?
Q7.家内が自宅でヨーグルトを培養して食べているが、効果はいかがなものか?
Q8.理解していない国民のために海外のように2菌が入っているべきではないのか?
Q9.生きている菌へのこだわりについては?
Q10.ヤクルトは容器が小さく薬っぽく感じるが?
Q11.乳児の母乳は母親がたくさんのロイシンを摂らないといけないのか?

「加齢によって菌が減るが、参考にすべきことは腸の中を意識しないといけないこと。入れる(食べる)癖をつけると健康になる。色々なモノを食べると同時に菌を摂ると良い」と、まとめられました。

ヨーグルトなら「なんでも良い」と思っている人が多い話で、齋藤先生は「続けてヨーグルトを食べているヒトは他も気を付けていますね」と答えながら、アレルギーで炎症を起こしているヒトには「ヘルパーT細胞」は避けるべきであることを注意しました。なんでも良いわけではないのです。

消費者に正しい情報を与えること。消費者も正しい情報を得ること。どの業界のどの仕事にも必要なことです。乳酸菌やビフィズス菌から生き方を学んだ気分でした。

【総括タイム】

たくさんの知識を得ました。これを活かすために村田先生と今一度考える時間を取りました。機能性食品の年齢別消費動向で第一位の70歳代、第二位の60歳代が機能性を重視している中で、右肩上がりが続く市場は稀であり、ユニークであり、興味深いとシニアビジネスの世界に展開されていきます。

シニアの三大不安が「健康、経済、孤独」ですが、消費者のヘルス・リテラシーも上がってきています。提供側の業界努力が必要であり、そのためには正しい情報と知識を得る大切さが身に沁みました。SAC東京の仲間たちと世の中を変えていきたいと思った方も多かったようです。

(文責)SAC東京事務局

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