SAC東京コースⅠ第8回月例会 事務局レポート

11月24日開催 SAC東京コースⅠ第8回月例会 事務局レポート

blog161124sac1-8-1今回は加齢医学研究所所長の川島隆太教授によるテーマ「脳科学を応用して新産業を創成する」の講義でした。

脳機能イメージ概論
近赤外計測装置(NIRs)

講義の冒頭、川島教授は「脳波の研究が脳科学研究ではない」と切り出し、脳機能イメージング研究の説明を始めていきました。

機能的MRI装置(fMRI)は神経活動の変化で起こる局所血流増加に伴う還元Hb(反磁性体)/酸化Hb(常磁性体)の比の変化を見ています。神経活動の変化が血流量の変化に現れるまで6秒程度の時間の遅延があり、完全なリアルタイムの計測ではないという特徴があると川島教授は自らの脳のfMRI計測写真を示し信号変化の説明をしました。このようにある活動を行う時に脳のどの部分が関わっているのかを明らかにする作業を「脳のマッピング」と表現します。

神経活動の変化で起こる局所血流増加に伴う還元ヘモグロビン(反磁性体)/酸化ヘモグロビン(常磁性体)の比の変化測るための、より自由度のある計測装置が近赤外計測装置(NIRs )です。NIRsは近赤外光を用いるために、安全で赤ちゃんの脳も計測できるメリットがあります。

加齢研と日立製作所との共同研究により、ウェアラブルタイプの超小型NIRsを近年商品化しました。現在は日立ハイテクノロジーズが販売しています。

ウェアラブルタイプの超小型NIRsは従来の脳計測装置にない手軽さがあり、実験室ではなく生活空間のなかで計測できる大きなメリットがあります。一方、研究者のなかにその計測原理をよく理解しないで実験を行い、誤った報告がなされる例が過去いくつかありました。NIRsを使った脳計測を行う際は、その原理をきちんと理解している専門家のアドバイスが不可欠です。

脳波(EEG)・脳磁図(MEG)について

神経細胞の電気的活動に伴う電場の変化が脳波、磁場の変化が脳磁図です。どちらも頭表に多数の電極を張り付けて計測します。

古くから脳計測装置として用いられていますが、計測した変化が脳の何の変化に対応しているのがわかりにくいのが欠点です。時々「脳波を使った機能性表示食品の評価手法を開発」などといったニュース記事を目にすることがありますが、こういう記事は眉唾であると思ってください。

JINS MEME(ミーム)

メガネ会社のJIN(ジェイ・アイ・エヌ)と産学連携で開発した眼鏡型センサーJINS MEMEが紹介されました。

これは眼電計と頭部加速度計を内蔵したアイウェアで、眼鏡をかけるだけで目の周りの電位の変化を測定できます。また、瞬きすると目が上を向く反射速度は眠くなると遅くなります。このような計測データをもとにトラックの運転手の事故予防への応用が始まっています。

アスリートにも応用してハムストリング障害を早期発見した事例もあります。ゴルフのスイング時の頭のブレも測定可能であり、プロ野球選手も実践に活用するなど、その応用範囲は広がりつつあります。

脳トレ

大脳は4つに分かれています。認知機能の面で重要なのが前頭前野です。特にメタ認知(認知制御)を司る背外側前頭前野が重要です。うつ病、自閉症の子どもたちはこの部位の機能が下がり、機能不全が起きています。

脳の機能は一般に加齢と共に低下していきます。20歳から低下が始まるという事実は、世界中の多くの論文で示されています。だからこそ脳のメンテナンス=脳トレをしないといけない、それはカラダと同じなのです。

脳の機能の加齢変化

脳の機能の加齢変化で重要なのは、知覚速度(回転速度)と記憶能力の低下です。頭の回転速度が落ちるのはパソコンで言えばCPU(Central Processing Unit=中央処理装置)の劣化です。この機能が低下すると様々な症状が出てきます。

一方、記憶できる量の低下は、パソコンで言えばRAM(Random Access Memory=主記憶装置)の劣化です。作業している机が小さくなると作業性が劣るのと同じことです。

予測とは現状認識の上で行うことであり、記憶の容量と関係があります。この機能が低下すると料理の時間がかかるようになった、感情コントロールが苦手になる、怒りっぽくなるなどの症状が現れてきます。

最近のニュースに取り上げられ問題視されているのが高齢者は車の運転が下手になるということです。免許返上の問題が広がっていますが随分前から議論されてきた課題です。川島教授は脳トレの活用で自ら運転可能寿命を延ばすことができると主張しています。

脳のスマートエイジング 頭の回転速度のトレーニング

blog161124sac1-8-2ここで川島教授は参加者へ頭の回転速度のトレーニングを行いました。1から120までの数字を小さな声を出し数える際のスピードを測ります。これも加齢と共に時間がかかるようになります。しかし、音読と計算によってスピードを向上・維持することができるようになります。

一般にゲームをすると前頭前野に抑制が働きます。任天堂からDSをプラットフォームにした脳トレアプリを開発したいという相談がありました。そこでゲームをしている時の脳をNIRsで測定した結果、どのゲームアプリでも抑制がかかることがわかりました。

この結果を踏まえて開発したのが、「前頭前野に抑制がかからないぎりぎりのレベルで脳トレを継続できるアプリ」、これが「脳を鍛える大人のDSトレーニング」というアプリです。
このアプリは世界中で3300万セット以上売れた大ヒット作で脳科学を応用して脳トレ産業という新産業を創出した事例となりました。

脳のスマートエイジング 記憶の量のトレーニング

次に一度に処理できる記憶量のトレーニングを行いました。
参加者は簡単な計算はすぐにできます。しかし、その計算とグー・パー・チョキという行動を組み合わせてみます。今度は、参加者は簡単に同時にできないことが分かりました。

しかし、大学生はいとも簡単にできると川島教授は微笑みました。参加者の年齢層はすでに脳機能の低下が始まっていることが露呈してしまいました。

Nバックトレーニング

さらに「Nバックトレーニング」にチャレンジしてみました。これはN回前の質問に答えるというトレーニングです。

まずは2バッグトレーニング、ここまでは何とかできる参加者がいます。しかし3バックトレーニングになるとほとんどの参加者が途中で天井を見上げました。すぐに付いていくことができなくなります。

なんと川島教授は22バックできるそうです。仙台を早く出た今朝はして来なかったと言いながらも、日常的に脳トレーニングをしているそうです。

これは「鬼トレ」というソフトに組み込まれています。相当に脳に負荷をかけるトレーニングのために5分という制限時間を設けました。しかし「5分は長すぎた」と振り返る川島教授です。

学習療法

認知症ケアはこれらの組み合わせで、簡単で優しく、頭を使う方式となっています。 まずは学習療法のNHKスペシャル(2007年2月25日放映)の映像が披露されました。 脳血管性認知症の76歳女性の事例です。無表情、無気力のその女性は学習療法1年の成果によって笑顔が戻ってきたことをものの見事に映し出しています。

次に学習療法のSIB(Social Impact Bond)調査結果も示されました。学習療法によって1年間で約20万円の費用削減ができることが分かりました。 厚労省が学習療法を非薬物療法の認知症ケアとして認め、ホームページに掲載してくれるようになりました。

将来に向けて

これからは効果的な高齢者向けの生活介入、特に栄養介入です。ニューロフィードバックを応用し、自分の脳活動のコントロールを身に付ける活動です。この研究によって、脳トレ効果を上げることができれば、精神的負荷を下げ、かつ高齢者にも十分に効果を出すことができるのではないかと期待しています。

講義はここまでです。

【アイスブレイク・タイム】

村田特任教授がアイスブレイクを行いました。

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【グループトーク】

講義内容を深堀りし、整理した後で、グループトークに入っていきました。6グループに分かれて、各自の疑問点などを出し合い、グループ質疑事項をまとめていきます。

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各グループ質問はグループリーダーが発表し、川島教授が回答していきます。

【グループ別質疑】以下、質疑事項のみ記載

blog161124sac1-8-8<グループ1>
Q1.イギリス留学して行なっている栄養介入研究とはどんなものか。
Q2.学習療法のより良い活用方法とは。

<グループ3>
Q1.脳のトレーニングは特許で保護されているのか。
Q2.学習療法の頻度について。

<グループ5>
Q1.食べ物と脳の機能の関係はどうか。
Q2.学習療法の導入とサポーターの能力差はどうか。

<グループ6>
Q1.マルチタスクについて。
Q2.栄養と運動を合わせてやった方が良いか。

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<グループ4>
Q1. 個人の能力の差、学習文盲の他国への応用はどうか。
Q2.予防段階の研究はどうか。

<グループ2>
Q1.楽しい運転は良くないのか。
Q2.ニューロフィードバックの車の運転への応用はどうか。フィードバックは効果が高いか。

以上で月例会を終了いたしました。

blog161124sac1-8-9【ランチョン意見交換会】

今回は月例会終了後、参加者と川島教授、村田特任教授とともにランチョン意見交換会を開催しました。

脳科学と産学連携、シニアビジネスの可能性について様々な質疑が出ました。 月例会とはまた一味変わった意見交換は、参加者の「ビジネス脳」を刺激したようです。

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川島教授の脳科学研究によって、今まで見えなかったものを見ることができるようになりました。そして、知らなかったことを知ることができるようになりました。

人類が初めて歩んでいる超高齢社会への応用はまさにこれからです。 「脳科学を応用して新産業を創成する」、これはSAC東京の最大のミッションです。

以上

(文責)SAC東京事務局

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