SAC東京コースⅡ第7回月例会 事務局レポート

10月18日開催 SAC東京コースⅡ第7回月例会 事務局レポート


blog161018sac2-7-1東北大学加齢医学研究所と災害科学国際研究所の2つの研究所に兼務
している杉浦元亮教授です。「給与が2倍というわけではありません」と参加者の緊張をほぐしながら、4つのコンテンツの説明から講義は始まりました。

脳機能イメージングで何を見るか

脳機能イメージングで見るものは2つの種類の信号です。一つは、神経細胞群の電気活動で、脳波や脳磁図で見ます。もう一つは、神経細胞群のエネルギー需要(血液量増加)で、陽電子断層画像法(PET)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、近赤外分光法(NIRS)で見ます。本日のメインはfMRIです。一般に病院で行うMRIは脳の形をみますが、fMRIは脳の機能を見ます。

課題・解析デザイン

fMRIは高速撮影ができ1.5~2秒で脳全体を撮影することができます。脳の中の変化を見るために被験者に課題を与え、その反応を見ていきます。自己に興味のある杉浦先生は「自己の顔」と「知人の顔」を特定の認知要因として実験を進めてきました。髭を蓄えた笑顔で話す先生です。

基本原理

fMRIの基本原理は、脳の神経活動に伴う脳血管動態変化を血中のヘモグロビン濃度の違いで計測するものです。脳の中の動脈血が神経細胞に集中し、静脈血を洗い流す(濃度をうすめる)と説明続きますが、動脈血と静脈血の違いが分からない参加者には理解が及ばない世界のようでした。

特定の認知要因の量の影響

異性の顔の好みや、脳活動による予測で相関をみます。例えば、ある説明を受けた時に賦活する脳の部位が分かれば、そこを賦活させる説明の力をつければよいのです。また、一つの情報だけでは興味を持てないことも、その意味や理由が分かると興味がわいて理解ができると説明され、「なるほど」とうなずく参加者達でした。

脳における心

機能モジュール・階層性があり、大脳皮質は50か所ぐらいに分かれています。「どこでどんなことをやっているのか」はすでに概ね分かっているのです。ただし、高次になるほど分かっていないそうです。朝の挨拶を例に、瞬時に情報処理をしながら生きている我々の脳を説明されるとよく分かりました。この基礎が腑に落ちることで講義が面白くなってきます。

自己3層モデル

自己をテーマにしている先生です。精神科の医師も自己が好きな人が多く、統合失調症の人は自己意識ベースが崩れてくる話から、自己特異性脳領域を探っていきます。先生は、脳の中の「自己」を探す研究において身体的自己、対人関係的自己、自己の社会的価値の3つに整理しています。

自己とは何か

−内部スキーマを用いた順予測
−内部スキーマ:3層
・感覚運動スキーマ
・対人関係スキーマ
・社会価値スキーマ
−発達モデル
・成熟した下位スキーマを基盤に上位スキーマが発達

blog161018sac2-7-2ふるさと(唱歌)

この唱歌では1番で子供時代の運動感覚が、2番で中・高生時代の対人関係が、3番で社会人の社会価値が歌われていると紹介がありました。自然な階層。3層モデル。だからこの歌は心地よいのでしょう。多くのお年寄りがこの歌を好むのにはこうした根拠があったようです。

脳機能の加齢変化

若者が「1の力」でできることが、高齢者は「2の力」が必要となります。運動感覚の研究では、若者が無意識でやれる左右差運動などを、年寄りは大脳を使って「意識しながらやっている」そうです。確かにリズムに合わせて体を動かすことも、難しく考え過ぎてできなくなる方が多いです。逆に100歳でも軽やかにダンスができる人は「脳が衰えていない」ということなのでしょうか。

衰える脳

加齢とともに脳全体の処理能力は衰えていきます。実行機能系が衰えることも確かです。これらの研究から前頭前野の機能を上げればよいことが分かってきます。そうなのです。またしても「前頭前野」がクローズアップされました。

適応する脳

加齢イコール衰えとは限らず、社会的能力、個人差、認知症かそうでないかによって変わります。もちろん、衰えるのは脳だけではありません。残された人生の時間の中で、脳が動かないのではなく、どうでもよいことはスルーしているのではないか?と話す先生です。謎は多いですが、予防介入技術への期待は膨らみます。

ポジティブなエイジングのための2つの扉

1.身体の悦楽

身体の中の感覚を知る(身体の内の声を聴く)島皮質の働きが分かっています。高齢者に人気の登山で見られることは、身体を意識する点においてトップアスリートと高齢者が一緒であると語られました。同じ登山をしても「楽しかった」と感じる人と、「あぁ疲れた」と感じる人がいます。身体の声を聴きながら、自分の気持ちを意識することでポジティブになれると良いです。

2.不滅の魂

次は、次は、という壮大な目標をもって生き続ければ、不滅の魂が手に入れられることを、司馬遼太郎の話で紹介されました。「どうやって手に入れるのかを追い求め、来世を信じる。誰でもできるわけではないが、取り組みながら走り貫けば、不滅のまま生きていける」先生のこの意見は研究者を越して僧侶のように感じました。自己紹介で「実験をして、考えて、グルグル回している」と言っていた言葉の重みをあらためて感じて講義は終わりました。

blog161018sac2-7-3【アイスブレイクタイム】

「とても大学らしい講義でした」と言いながら、村田特任教授による用語の理解からです。
1. 自己3層モデルにおいて、脳の中の自己を探すとは何?
2. 自己3層モデルを身体的自己、対人関係的自己、自己の社会的価値の3つに分けた理由は?
3. 身体の意識化とは?
4. 「不滅の魂」の「不滅」という考え方は、アンチエイジング「不老長寿」に似ていないか?
などを中心に考え方を整理していきました。このアイスブレイクは講義内容の理解が深まると参加者から好評です。

【個別質疑】

Q1.若い頃は運動に優れた人でも脳の半分しか使っていないのか?
Q2.歳をとると抑制が効かなくなるのはなぜか?
Q3.ネガティブなエイジングとは?
Q4.残された時間への意識では、海外の人と日本人の比較は?

blog161018sac2-7-4 blog161018sac2-7-5

【パネルトークタイム】

3人のパネリストと先生によるパネルトークは、講義内容の深堀・パネリスト自身の企業展開に活かせるように質問形式で行われました。3人のパネリストが参加者の笑いを取りながら自己紹介からスタートです。会場を巻き込んでにぎやかに進行しました。

blog161018sac2-7-7 blog161018sac2-7-6

パネリストからの質問

Q5.本日のタイトルは、結局身体を動かして前向きに生きるポジティブシンキングか?
Q6.結果が出ると運動が続くシニアが多いが、はまるサイクルへ切り替えることか?
Q7.上司と部下の関係など、どの程度相手を理解して対応するのか?
Q8.小さな子供にはどう対応したらよいのか?
Q9.高齢者のツエのような脳活動の代償の外部からのサポートは?
Q10.運動脳が動いたら、鍛えられていると思っていいのか?
Q11.バーチャルリアリティーの脳の刺激はトレーニングになるのか?
Q12.報酬系、ニューロフィードバックの考え方との連動性は?
Q13.自己のアイデンティティ、個人から始まり、社会へつながる理解で良いのか?

blog161018sac2-7-8 blog161018sac2-7-9 blog161018sac2-7-10

会場を交えての質問

Q14.はまるサイクルは脳イメージ的に分かるのか?
Q15.高齢者になると新しいものにはまりにくいが、ツボはあるのか?
Q16.コストがかからずに高齢者に利用してもらうための良い報酬、ツボは?
Q17.旅行頻度の高い人にはポジティブな人が多いが根拠はあるか?
Q18.旅行が社会の役に立つと良いのか?
Q19.災害科学との関連性は?
Q20.シニアにならないと身体を意識することに気付かないのか?
Q21.入居者の満足を得る活動は?

blog161018sac2-7-11 blog161018sac2-7-12

【初参加者の声】

・身体快楽の追及の食品に興味が出た
・自分の身体の声が聞けている人と聞けていない人がいる
・義務感ではなく快楽のために仕組みを作ることが大切と思った

小川事務局長の質問「ポジティブなエイジングの2つの扉において、来世へ向かう前に、現生においての不滅の魂がいつまでもとは?」に対して、先生は「自分で残せるものがあることが最大の不滅の魂の持ち主です」と答えました。「そして僕自身、この話がリアルになったのは自動車事故で田んぼに突っ込んだから」だと体験談をもって人間は簡単に死んでしまうことを訴えました。

blog161018sac2-7-13

パネリストからは今後の抱負や研究への期待が語られました。そして、パネルトーク担当の小川事務局長の「今日の講義が、ある日突然腑に落ちると思います」の言葉で月例会は終了しました。

(文責)SAC東京事務局

過去のSAC東京月例会 事務局レポートはこちら

過去のSAC東京月例会 参加者の声はこちら

 

あわせて読みたい関連記事

サブコンテンツ

このページの先頭へ