SAC東京コースⅠ第6回月例会 事務局レポート

9月21日開催 SAC東京コースⅠ第6回月例会 事務局レポート

blog160921sac1-6-1今回の講師は健康寿命という概念の提唱者でもある辻一郎教授から「健康寿命延伸に向けた最近の動向」をテーマに講義をしていただきました。

辻教授は「どのくらい寿命は伸びるのか」という質問から講義をはじめていきました。年間、36万人がガンで亡くなっています。ガンという病気がなくなったとしたら平均寿命はどのくらい伸びるのでしょうか。「3年、5年、10年?どれかと思う期間に手を上げてください」と言う辻教授の質問に一番手がたくさん挙がったのは5年でした。しかし正解は3年です。意外と平均寿命は伸びないという印象です。実は若い時ではなく歳をとってから病気になっていることが統計的数字へ影響を与えているようです。

もう健康は量から質へ転換しています。すでに長寿は獲得できていますが、健康な生き方を模索していく時代となりました。

グリム童話からみる寿命

辻教授は寿命の長さについてグリム童話を引用して説明していきました。神様が提示した30年の寿命に対してロバは18年、犬は10年、サルは12年へと健康な時期だけとなる短い寿命を希望しました。人間は30年では短すぎると主張してロバ、犬、サルの寿命分をもらって70歳の寿命になりました。実はこれは300年前の話しですが、すでに健康寿命の概念が述べられていることに驚きます。

また、近代免疫学の父、エドワード・ジェンナーが種痘法という予防接種を発明したことがきっかけで、平均寿命が延びたと言われています。

2つの健康寿命

2010年時点の平均寿命と健康寿命をみていきます。男性の平均寿命は79.55歳、健康寿命は70.42歳、女性の場合は平均寿命86.33歳、健康寿命73.62歳となります。すなわち不健康な期間が男性が約9年、女性は約12年となります。しかし、この期間とは決して寝たきりという訳ではありません。

日常生活に支援が不要な期間が「健康寿命1」です。それに対して、日常生活動作が要介護状態ではない期間が「健康寿命2」となり、平均寿命との差は男性1.47歳、女性3.23歳となっています。

良好な生活習慣を維持できれば予防は可能であり、不健康になる時期を遅らせることができます。しかし、自分の意志だけで生活習慣を変えることが難しいことも分かってきました。

例えば一日の歩数は東京圏に住んでいる人は宮城県民より1,000歩ほど多くなっています。車と公共交通機関の利用頻度の差、すなわち社会環境の違いなども健康へ大きな影響を与えています。

そこで健康寿命の延伸策として健康日本21(第二次)、健康経営、介護予防・生涯現役社会、日本版CCRCなどが検討されています。高齢者の社会参加、生きがいづくりが重要であることは言うまでもありません。今日行くところがある、今日用事がある、すなわち「きょういく」と「きょうよう」なのだと辻教授は笑いました。

健康経営

日経ビジネスの表紙のタイトルにもなった「健康経営」という言葉が優良企業の新条件となってきました。職場ではタバコを吸わない、夜遅くまで仕事をしないなど、社員の健康維持向上や職場環境の改善に投資するなどの理念に基づく経営手法を健康経営と言います。

辻教授によると、本SACの参加企業である花王さんが健康経営のパイオニア企業だそうです。健康経営によって会社のイメージが良くなってきます。ブラック企業対策としても有効であり、ワークライフバランスがよくなり、ホワイト企業化へも貢献していきます。

日本健康会議

政府全体として健康づくりを推進するために、2015年7月10日に日本健康会議が発足しました。健康づくりの領域を拡げ、先行投資として捉え、新産業や雇用の創出、生涯活躍につなげることが目的です。

健康経営優良企業認定制度も創設され、健康経営銘柄は2016年は33社が指定されています(2015年25社)。株式上場だけを対象にしているわけではありませんが、大企業がリードしていくと促進効果が高くなります。それらの企業へは働きやすい会社という客観的な指標によって優秀な社員が集まってきます。

幅広い健康の解釈に基づいてヘルス・リテラシーの育成、ワークライフバランス、職場の活性化から経営の改善までを目標にしています。

健康なまち・職場づくり宣言2020

blog160921sac1-6-2まちづくりについては、予防・健康づくりについて、一般住民を対象としたインセンティブを推進する自治体を800市町村以上とする(宣言1)。健保組合等保険者と連携して健康経営に取り組む企業を500社以上とする(宣言4)、などがあります。

また職場づくりに関しては、中小企業対象の運動として、まずは大分県が最初に始め、社長らが健康宣言を行いました。いまでは全国に広がっています。協会けんぽ等保険者のサポートを得て健康宣言等に取り組む企業1万社の認定を目標としました(宣言6)。

健康企業宣言を行い、健康経営が評価された会社には融資の利率を下げ、JTBからクーポン券がもらえるなどのインセンティブを与えることなども実施されています。

ヘルスケア事業者も100社以上が参画し、辻教授がサポートしているそうです。健康経営を目指したいが、どこに委託してよいのかわからない、そのニーズに応えるためにアウトソーシング企業の公表も行いました。

今ではヘルスケアと関係がなかったような会社までもが参画してきています。後発医薬品の使用推奨事業は30事業者が名乗りをあげていますが、まだまだ足りないと指摘する辻教授です。

生涯現役社会の構築

目指すべきは姿は生涯現役社会の構築ですが、「身体の壁」、「価値観の壁」、「選択肢の壁」、「情報の壁」を乗り越えていくことが必要です。さらには認知症評価の仕組みを作っていくことも必要になってきます。

ポジティブサイコロジーの効用

生活習慣と医療費の関係性について行われた調査結果から、生きがいのある人は長生きすることが分かってきました。生きがいの有無は循環器疾患には影響を及ぼしますが、ガンにはさほど影響がないというデータも示されました。

映画のアカデミー賞の候補者の内、実際にアカデミー賞に「選ばれた人」と「選ばれなかった人」との寿命の差3.9年もあったという興味深い事例も紹介されました。これはプライドの差だと辻教授は指摘をしました。

ポジティブなプライドが寿命を伸ばします。しかし、ネガティブな思考はタバコを吸うリスクと同じくらい寿命延伸に悪影響を及ぼしています。「人生の目的」がある高齢者の要介護発生率が約40%も低下するという米国シカゴの調査結果も紹介されました。

生きがい・社会参加の重要性

知的活動と新規要介護認定との関連性を調べた調査結果によると、テレビ視聴時間は受け身の媒体がゆえには要介護認定数へ影響を与えていません。しかし新聞をほとんど毎日読む人は、ほとんど読まない人に比べてほぼ要介護認定数は3割減となっています。

ボランティア・NGO・市民活動、地縁的活動などの社会参加頻度が新規要介護認定数を減少させている結果となっています。ゆえに高齢者の社会参加が盛んな地域ほど健康寿命は長いのです。

辻教授から示された幾つかの事例紹介は、非常に興味深いものばかりです。AARPが主催する活動で、退職者が小学校での読み聞かせを行う「Experience Corps(経験師団)」、「りぷりんと」の読み聞かせボランティアも世代間交流となり、児童、高齢者、学校、地域をつなげる一石四鳥のモデルです。

フランスの多世代共生型シェアハウスは「ひとつ屋根の下プロジェクト」と呼ばれ、高齢者と学生・地域社会・行政すべてに有益だと報告されています。さらに日本版CCRC構想、生涯活躍のまちの実践事例も紹介されました。

高齢者が活発に社会参加することで、高齢者自身も若者も利益を受け、地域社会は活性化し、社会格差と社会保障負担も軽減される、と辻教授は要点をまとめて講義を終了しました。

村田特任教授による講義の用語の確認、内容確認の順にアイスブレイクを行い、グループトークへ入りました。

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【グループトーク】

そのグループトークで抽出されたら2つの質疑をグループリーダーが発表し、講師が回答します。(以下、質疑のみ記載)

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【グループ質疑】

blog160921sac1-6-11<グループ6>
Q1.財源を増額すると健康寿命延伸は実現するのか。その負担は国民なのか、医療保険内施策の話しなのか。
Q2.フランスの「一つ下屋根のプロジェクト」の今はどうなっているか。

<グループ3>
Q1.健康経営というが、現状は社内メールで健康情報が流れてきても社員は実行に移さない。そういう実態を脱却した成功事例はあるか。
Q2.なぜ個人からではなく、社会や企業の枠組みづくりからなのか。

<グループ1>
Q1.個人ではない国の視点、施策は何か成果があるのか。
Q2.生きがいのデータは高齢者関連事業者の立場から見ると疑問に感じる。生きがいと健康の因果関係、エビデンスはあるのか。

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<グループ2>
Q1.事例紹介にあったボランティアワークは何か? 建築費がかかると個人レベルでは無理なのではないか。
Q2.日本健康会議等への参画手続きは?

<グループ4>
Q1.健康経営は日本のどのくらいの企業がカバーできているのか。個人事業主などへの対応も重要なのでないか。
Q2.高齢者など生涯現役社会の壁 価値観の壁、情報の壁などを超えていくのはどうしたら良いか。

<グループ5>
Q1.健康経営の測定はどうして行うのか。
Q2.CCRCの成功事例はあるか。男性の参画例はどうか。

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グループトーク後の個別質疑は以下の通りです。

【個別質疑】

個別Q1.健康寿命2と健康寿命1との差をどうみるのか。

「健康寿命延伸に向けた最近の動向」は、昨年のSAC第1期においても辻教授から講義を受けましたが、この1年間で明らかに内容や活動が進化していることが分かりました。まちづくりや企業の健康経営の視点から進めることに比重をおきながらも、人生観と感情表現、さらには「生きがいのある人は長生きする」という極めて個人領域も要となっています。多義に渡るからこそ健康寿命延伸ビジネスの道は学び合い、支え合いが必要だと感じました。

以上

(文責)SAC東京事務局

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