SAC東京2期コースⅠ第3回月例会 事務局レポート

6月21日開催 SAC東京コースⅠ第3回月例会 事務局レポート

blog160621sac1-3-1今回の講師は経済学研究科高齢経済社会研究センターの吉田浩教授です。加齢経済学・公共経済学、高齢社会、世代間所得再分配(世代会計)の第一人者から、「2045年人口高齢化と人工知能社会を考える~日本が直面する2つの『ジンコウ』問題~」のテーマで講義をいただきました。

人工知能と人口の推移

「人工知能(A.I.)を理系ではなく文系の頭で考える」と、まずは「ジンコウ」を人工知能から切り出した吉田教授です。人は30年後に要介護状態になったとき、人工知能に期待することになる、と言い切りました。しかし、髭剃りシェーバーが肌やあごの状態に合わせて動く、これは人工知能と言わないかも知れません。

2029年の未来を描いた映画「ターミネーター」は少し怖い印象を与えています。しかし、吉田教授の文系の立場で考えてみると「働く人がいなくなってしまう社会の方が怖い」ということになります。さらにその15年先にある2045年はどうなるのでしょうか。

「ムーアの法則」とSingularity(技術的特異点)

1965年に示された「ムーアの法則」を引用して話しは進みました。この法則は大規模集積回路の製造・生産における長期傾向について論じた一つの指標ですが、CPUの能力は18か月から24か月で倍になり、二次関数で計算し続けるとはるかに人間を超えてしまいます。

しかし、Singularity(技術的特異点)は、最近の動向から「ムーアの法則」の終焉、限界が見えてきたと指摘しています。人間によって「ムーアの法則」はつくられてきましたが、ほっといてもそうなることが法則だと吉田教授は言われました。例えば、小型化と発熱にも壁があります。モノを小さくすると放熱がおきることなど、コトやモノには限界があることが分かります。すなわち、人工知能は常に人の下にあると吉田教授は説いていきます。

人口の推移

もう一つの「ジンコウ」である日本の将来の人口はどうでしょう。
日本の人口は国立社会保障・人口問題研究所で管轄し、高齢者数は2045年に最大数となることを予測しています。高齢化率はその後も上がり続けます。その後は、高齢者数は減少していきますが、まだまだ高齢化率の上昇は止まりません。

つまり若者が高齢者を支える割合が増加していく社会を「どうすればよいか、私は考えてみた」と吉田教授は持論を展開していきました。

今はすでに過去で作られています。日本の将来のことは、これからのことでしか対処できない。前回の講義では「子どもをどれだけ産んだらよいのか」と力説した教授でしたが、今回は「もう間に合わない」という視点に変わっていました。そして日本の将来に対して「ロボットも参画しなければならない時代」と位置付けをしました。

イギリスの経済学者ケインズは、”Economic possibilities for our Grandchildren”(1930)の中において、100年後は社会の進化によって生活水準は現在の4倍から8倍も高くなる。その結果「人は余暇をどう過ごすか悩むだろう」と予言しました。

人工知能の発達と社会

吉田教授は「コンピューターはなぜすごいのか」と会場を見渡しました。その答えは「莫大なデータを短時間に処理する」からすごいのだそうです。

コンピューターはもともと電子計算機でした。今ではコンピューターからA.I.へ変わろうとしています。数字以外も数字化できるようになりました。音もデジタル化し、画像も分解して数字化しています。ペッパー君も「もし〇〇だったら」という知識を与えると相手の気持ちを汲みとったようなやりとりができるようになります。

人間はやらなければならないことに躊躇しますが、コンピューターにミスを与えるとそれを躊躇なくこなしてしまうという怖さがあります。

ディープランニング

インターネットの進化によって、情報の再生産と共有が容易できるようになりました。グーグルの「猫の学習」というアプリがあります。それは何百枚の写真から猫を認識するディープランニングという機械学習です。同じように写真で判定して不審者を見分けることも可能になるかもしれません。

人間はすぐにだまされやすく、からくり人形のような自動制御に対して驚きます。しかし、それはA.I.とは言いません。

ここで吉田教授は「今日は映画を幾つか紹介します」と、まずは「War Games」(1983 アメリカ)の引用に入りました。「コンピュータネットワーク下の戦争」を題材とし、コンピューター制御の戦争システムの危険性を描いた作品です。

コンピューターは感情を持つか

人はコンピューターに支配されてしまうのではないかという不安を持っています。人間に敵意を持つのではないか、だまされるのではないか。これらは見えない思考への恐怖によって引き起こされます。しかし、コンピューターへ感情を持たせるためには人間に対する知見が重要となり、自己を再生産する機能と場所、手段などの「欲望」をプログラミングしなければならないのでとても難しい作業となります。

やはり人間がどういうプログラミングをするのか、これも人間の業なのです。
「感情とは何か?」という定義にもよりますが、コンピューターは感情をもつことはありません

人工知能の失敗事例から学ぶ

blog160621sac1-3-2ここから吉田教授は様々な人工知能を使った失敗例を紹介していきました。
「ディープブルーはなぜチェスで1回負けたのか」、「ボナンザはなぜ将棋は負けたのか」、
「Alpha碁はなぜ1回負けたのか」、これらには過去の勝利パターンにない動き、人間が設定する評価関数における失敗、機械学習における相関関数と因果関係の相違による失敗の理由がありました。

また、「みずほ証券ジェイコム誤発注事件」は警告を無視して取引を中止してしまったように、人間の判断を優先させたことによって起きた失敗です。逆に人口知能を優先させたことによっておきた「Google自動運転」の失敗もありました。人工知能がまじめすぎて人間のいい加減さと合わないケースです。

「大韓国機襲撃事故」は人工知能の過信によって起きたものです。「500円玉と500フォンを見分けることができない自動販売機」、これはインターフェィスにおける失敗例です。いずれも人間による設計の不誠実さによって起きた失敗事例です。

人工知能と人間の労働

10年以内に無くなる仕事が紹介されました。それは人工知能が担いやすい仕事群です。
その判断は「IF」、「Then」、「elles」で構成されるものだと教授は言いました。これらの労働は人工知能に取って代わってしまいやすいのです。だから裁判官もいらなくなるかもしれません。人間はより人間だけが行うべき仕事をしなければならない時代です。コンピューターは人間を手伝う高級なデバイスでしかないのです。

社会の計量化、見える化

そして、社会の「デジタル化」が必要になります。人工知能と人間の労働をシェアするために社会の計量化、見える化を行っていかなければなりません。
また人工知能活用のための社会変革も必要です。競合他社をつぶしても業績をあげるというやり方は正しい経営か、その評価関数にはカント倫理主義かベンサム主義か、と経済学者らしい講義が続きました。

人工知能活用による社会変革

ここで、吉田教授はロボットが殺人を犯すミステリー映画「アイ、ロボット」(2004、アメリカ)を引用しました。人間が機械に合わせるのか、英語よりも機械語を話すべきか、人工知能活用による社会変革が起きていきます。

そこには究極の建前社会が登場していきます。A.I.制御ソフトは著作物なので製造物責任を避けるための証拠主義が謳歌するかもしれません。働かなくてもいい社会は給料がもらえない社会です。給料を払わなくてもいい社会は消費のない社会です。そこでは誰が税金を払い、誰が税を徴収するのでしょうか。

第3の資本主義

このような人工知能を利用する社会には新しい第3の資本主義が台頭してきます。それは以下の3つになると吉田教授はまとめました。
1.公共事業の登場
2.福祉国家の登場
3.資本主義の生き残り策としてのベーシックインカム

人口の推移と人工知能、2つの「ジンコウ」は、新たな人の役割を創造しながら、社会経済から資本主義までも変革させていくことを示唆して、吉田教授は講義を終了しました。

【村田特任教授による講義内容の整理】

次は個別質疑に入る前に、村田特任教授が講義内容を整理してくれました。
2045年は人口の高齢化は極高齢社会となり少子となる。その社会をロボットやA.I.でカバーするためには、A.I.と人間との関係性を紐解くことがカギとなる。まさしく介護ロボットがそうであるように、A.I.が担うものと人間が行うべきものを分けて考えてみる。さらには資本主義まで変えていかなければならない。

【個別質疑】

このまとめを受けた後、以下の個別質疑がありました。質疑のみ記載します。

Q1.感情をA.I.で表現することはすでに難しくないのではないか。
Q2.目の動き、センサーなどで感情を測定できるのではないか。
Q3.A.I.の失敗事例を重ねて経験していくことによって数年後に解決しているのではないか。
Q4.失敗をディープランニングで解決できるのか
Q5.先進国は人口減少するが、その対策はロボットなのか外国人労働者か、先生の意見は
Q6.ロボットを入れるべきか

blog160621sac1-3-3 blog160621sac1-3-4

【グループトーク】

次はグループトークへ入りました。
グループトークは他業種の参加者が質問を出し合うことによって、講義内容を深めるために行っています。その議論の中でまとめられた質問項目をグループリーダーから講師へ質疑してもらいました。ファシリテーターは村田特任教授です。

blog160621sac1-3-5 blog160621sac1-3-6

【グループ質疑】

blog160621sac1-3-11<グループ4>
Q1  高齢社会でA.I.はどこまで必要か
Q2  シニアがA.I.へ寄与することはどうか

<グループ1>
Q1  第3の資本主義とは何か?もう一度説明を加えてほしい
Q2  A.I.における人間の役割、人間ってなにをするべきか

<グループ3>
Q1  A.I.を生かす人の倫理教育の在り方はどうか。
Q2  A.I.が求める最終着地点は何か。

blog160621sac1-3-12<グループ6>
Q1  社長職はA.I.に置き換えることができるか
Q2  介護ロボットは必要か 介護をする側にとってよいことか。

<グループ2>
Q1  A.I.が進化したとしても、人間に残しておくべき役割はなにか。
Q2  A.I.の日常の生活の場での活かし方はあるか。

<グループ5>
Q1  経済学的視点、感情的視点の価値が上がり、労働的価値が変わった事例はあるか。
Q2  A.I.によってGDPがどのくらいあがるか。

<追加質問>
Q1  A.I.導入によって人間は単純労働を行うことになり、うつ病の発症は増えるのではない。

blog160621sac1-3-9 blog160621sac1-3-8

最後に
高齢化の後に人口減少が起こります。皮肉にも極高齢社会を支える若者と、介護が必要になった高齢者の生活を支えるために人工知能A.I.が台頭してきます。しかし、その中心には「人」がいるということが再確認できた講義でした。
2045年は、さらに人の生き方や価値観が問われる時代のようです。

以上

(文責)SAC東京事務局

過去のSAC東京月例会 事務局レポートはこちら

過去のSAC東京月例会 参加者の声はこちら

 

 

あわせて読みたい関連記事

サブコンテンツ

このページの先頭へ