SAC東京2期 コースⅡ第2回月例会 事務局レポート

5月26日開催 SAC東京コースⅡ第2回月例会 事務局レポート

blog160526sac2-2-1紫綬褒章をはじめ、たくさんの賞を受賞されている山本教授のご登壇です。「偉い方なのだろうなぁ・・」と緊張している参加者に向けたなんとも優しい「皆さんこんにちは」の笑顔に、会場は一度に和みました。

「一昨日ネイチャーに発表し、昨日プレスリリースした」と、タイムリーな新薬の話題から始まりました。内服で炎症が良くなる可能性の新薬で慢性炎症に苦しむ人の役に立ちたい・・・「これが本職です」と研究の紹介です。

そして講義テーマである『東北メディカル・メガバンク計画とゲノム医療』が、先の3.11の震災がきっかけになったのですと続きました。

女川とのつながり

blog160526sac2-2-2冒頭紹介の漁港の動画に参加者はググッと引き付けられました。サンマ漁、女性シンガーの切ない声、歌詞の重み・・♪あなたを守るつよさを手に入れた♪・・・と。

震災後、教授は「本当に生きていけるのだろうか?」と思ったそうです。そして、「私は何をしたら良いのだろう」と考えたそうです。悲しくなっちゃう・・・と何度もつぶやきながらそんな想いを伝えてくれました。

実際に復興に立ち上がっている人達は「強い人たち」であり、この強い人達の健康をどう守っていくのか、どうやって復興のために働けるのか・・・と考えたそうです。涙腺が緩んできてしまうと言いながら、震災を振り返ってくれました。

カルテが流されないシステムが必要

津波でカルテは流され、データが消滅してしまいました。患者さんが「あの薬が欲しい」と言っても情報が消えてしまったのです。

東北メディカル・メガバンク計画

長期被害を受けた人と向き合い、次世代型地域医療体制を整え、若い医師にも魅力のあるプロジェクトを立ち上げるために霞が関を何度も訪ね、補助金を獲得して作っていったそうです。「未来型医療って何さ?からの始まりだった」の言葉に胸がギューっとなった方も多かったのではないでしょうか。何かを作り出す時の覚悟の必要性を強く感じました。

個別化医療・個別化予防

個に応じた「個別化医療」が重要なのはもちろんですが、どうせなら「個別化予防」(PHC, Personalized Health Care)ができたほうが良いと考えるのは当然です。身体の元は遺伝子です。遺伝子研究が大切だということが身近なことに感じられました。

21世紀に必要な健康長寿の社会作り

平均寿命から健康寿命を引くと、おおむね10年間寝込んで人生を終えているのが日本の高齢者の現状です。より健康で豊かな生活を実現し「健康長寿の国」を作るための予防が必要です。「10年寝込むのは嫌だよね」「2~3か月ぐらい寝込むぐらいが理想形だよね、違うかなぁ」の教授の言葉の深さに共感してうなずく参加者が多い場面でした。

遺伝要因と環境要因

要因が複合的に影響してヒトの病気となっていく。普通の人の罹る病気を治したい。塩分と高血圧の関係なども分子メカニズムで解いていく。塩分を摂り過ぎたすべての人が高血圧になるわけではない。それぞれの事柄が研究の重要性に向けて整理されていきました。

コホート調査 (実績)

平成25年秋より開始し、平成28年までの3年間で15万人の情報を集めるのはギネス級です。アメリカやイギリスでも行いましたが、リクルートがうまくいかず中止になったそうです。日本のこの調査実績は東北大学と宮城県民との信頼関係があったからこそ成功したものなのです。

コホート調査 (福音)

34mlの採血は一般の検査に比べて高精度の内容を網羅しています。ピロリ菌検査で陽性の場合は除菌治療後に胃カメラでの確認をおこなうため、早期胃がんの発見にも役立っています。震災後の避難所環境が悪かったことでピロリ菌が広まったのではないかとの心配も解消しました。

調査会場に歩いて来られる人を対象としていることで、今後認知症になった場合などに比較・評価のデータとして役立てられることにも意義があります。ビフォー・アフターを知ることは、その人の人生のものがたりを支えるためにも大切な情報となることでしょう。

個人への結果説明会では大学側もわかりやすい説明を工夫し、6割の人からの賛同を得ることができたそうです。調査協力者の健康管理に役立ててもらうこと自体が予防であり、相手の健康を思う対応がこの調査を成功させていると感じました。

TMMは複合バイオバンク

バイオバンクは、人体に由来する試料と情報を匿名化し、体系的に収集・保管・分配するシステムです。TMMバイオバンクの構成では200万本を超えるサンプルを有し、制度の高いサンプルができています。情報の分譲を始めているので「良かったらどうぞ」と教授はおっしゃいますが・・・。スーパーコンピュータがなければできないことのようです。

dbTMM

TMMの日本一のスーパーコンピュータでは、ゲノムコホートの調査情報と解析情報を統合するデータベースを開発して全国のゲノム医療研究者に分譲するそうです。理解しようと頑張る私の頭はまるで「頭蓋内圧亢進状態」でしたが、このあたりのことは「すごいことだなぁ」で納得するしかありませんでした。

Missing Heritability (失われた遺伝率)

遺伝子変異と疾患をつなぐエビデンスが圧倒的に不足しているため、ゲノムコホート研究に家系情報やより多彩なサンプルを盛り込むことが重要です。ここにも人生初期からの環境要因の把握が必要となりますが、今の我々は家系図もなくなり、家計情報が途絶えてしまっていないでしょうか。

東北メディカル・メガバンクにおけるゲノム解析

平成25年には「月にロケットをぶつけるようなものだよ」と言われたそうですが、平成28年4月時点で1000人分のゲノム解析が完了して公開されています。30回以上も同じことをして出す答えはクオリティが高く世界初。さすが日本だなぁと感心します。これも日本人の遺伝子なのでしょう。

ジャポニカアレイによる疑似フルシークエンス

ここまでの講義でこれをどのように広げていけるのだろうと考えていました。NGSにおける全ゲノム解析は1人分が30万円かかります。ジャポニカアレイは1人分が1万円であり、より大勢の調査が可能になるではありませんか。

疑似的補完

ゲノム情報が不足する場合、ToMMo全ゲノムから疑似的補完が行える設計がされているジャポニカアレイだそうです。補完できる仕組みも解りました。「できれば8000人やりたいので助けてください」とニッコリ微笑む教授でしたが、情報量の獲得が必要ですね。

コホート調査にて

15万人の協力者の中に1歳の子供を持つ母親の血液に白血病の細胞(T細胞)が発見されたそうです。すでに大学病院にて移植手術を終え、治療成績も良好であり、論文発表の予定だと話してくれました。調査協力をしたことで発症前に発見・治療ができたこの方の人生。これも運命なのでしょう。

きっかけは震災でした・・

「朗らかに話すように心がけていますが、うつ病になりやすい仕事ですよ」と語る教授。震災の悲劇を直視してきた方の重い言葉と感じました。

この研究データは皆に使ってもらいたいこと。そして、利用データを雪だるま式に大きくして戻してもらいたいとの願いで講義は終了しました。

アイスブレイクタイム

blog160526sac2-2-3村田特任教授の元で講師への質問と講義の整理の時間をとりました。山本教授も参加者に合わせて内容・資料をご準備くださいましたが、専門用語、初めて聞く言葉が多いため、用語の理解を深めてからの質疑応答となりました。

 

 

 

【用語の解釈】

Q1、個別化予防(PHC)
Q2、前向きの研究
Q3、世代累計情報
Q4、PTSR
Q5、フェノタイピング
Q6、Missing Heritability
再度確認したことで、より理解ができたようです。

【個別質疑】

Q1、コホート調査の進め方について
Q2、試料の取り扱いについて
Q3、健常の人のデータはメンタル予防につかえるか
Q4、病気の罹りやすさについて

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【パネルトーク】

新しい取り組みとして教授と参加者代表3名によるパネルトークが小川事務局長の進行で行われました。パネリスト達は自社の特性の中から質問をすることで教授とのトークを繰り広げてくれました。

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【パネリストからの質疑】

Q1.ジャポニカアレイの日本以外での性能
Q2.遺伝子要因と環境要因の相互作用の重みづけ
Q3.実証実験の相談窓口は

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【パネリストへの教授の期待】

製薬関係者のMさんには「皆に効く薬の時代は終わったよね」と人に合わせて薬ができる時代のニーズが語られました。「おくすりスマホ開発」など個人の情報の大切さを共有し、「早く社長さんになってね」と応援されました。

食品関係者のTさんには、塩分摂取と関係のない高血圧の話題で「まずは病気を正しく診断することが大切」と説きながら、秋にはサンマを10匹は食べようなど消費者が意味を理解して食品を選べるようにして欲しいとの願いが託され、「体に良いものを開発してください」とエールをいただきました。

街づくり関係者のSさんには、アメリカモンタナ州での事例から病気の人マップ、化学工場が近くにないかなど、家を求めるときの「健康指標」を作る考えが提案されました。トータルデベロッパーとしての期待は、個人の質疑応答時から「アドバイザーになってもらうといいな」という言葉にあらわれていました。

新しい取り組みでしたが皆さん素晴らしいパネルトークでした。身近な事例に置き換えるとわかりやすいですね。会場の参加者たちも仲間の活躍を真剣に見つめていました。

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【会場からの質疑】

Q1.漢方薬において体質を読み取って生薬の成分調整につなげるには
Q2.環境要因のほうが大きいのではないか
Q3.タバコを吸う人でも長生きの人がいるが
質問を受けるたびに「素晴らしいご指摘をありがとうございます」などと丁寧に対応して下さる教授でした。

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人々が住んでいる道を地図にプロットして駅との関係を考察する話では、難しく考えがちなデータ分析が身近に感じられました。駅と健康の関係では2kmを越すと車での送迎となりBMI値は高くなるという情報は、解っているようで忘れていることでした。この情報をJRと連携していることは、まさしく健康長寿のための環境要因となります。このように活かせる情報はたくさんあります。それらをつなげる力が必要だと感じました。

タバコの話では東北大学キャンパス全面禁煙の話がとても腑に落ちました。「学内で昼間から酒は飲まない」と同じように、大学内で昼間タバコを吸うのはNGだよね「家に帰ってからにしたら」と説明したという話では「なるほどそうだわ」と妙に納得したのは私だけでしょうか。

時代に合わせて価値観を変えていくことの大切さをたくさん学んだ講義となりました。

以上

(文責)SAC東京事務局

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