SAC東京2期 コースⅠ第2回月例会 事務局レポート

5月26日開催 SAC東京コースⅠ第2回月例会 事務局レポート

blog160526sac1-2-1今日の講師は、我が国シニアビジネスの第一人者である村田裕之特任教授によるテーマ「スマート・エイジング・ビジネス」の講義です。

シニア(senior)という言葉にはもともと社会的定義や年齢の定義はありません。しかし、村田教授は「シニアは60歳以上の人とする」と定義づけをしています。

シニアビジネスはシニアが商品・サービスの使い手になる場合と、担い手になる場合に分けることができます。さらにこの講義では介護保険に依存しないビジネスが中心としています。

 blog160526sac1-2-2今日の講義は以下の5つのパートに分けて進められました。

1. 市場の見方を誤るな
2. スマート・エイジング・ビジネスと多様なミクロ市場へのアプローチ
3. 時代性の変化と消費行動の変化
4. シニアの消費行動は今後10年間でどう変わるか
5. これから世界中で起こるシニアシフト、高齢化する世界と日本企業のとるべき方向

【パート1】市場の見方を謝るな〜マス・マーケットではない100兆円市場

資産と所得と消費の関係

村田特任教授は、世帯主の年齢階級別の持ち家率、正味金融資産(貯蓄−負債)、さらには年間所得等のデータを示しながら、シニア市場の俗説からシニア市場の正しい見方へと導いていきました。

正味金融資産は50歳代ではシニア層の半分、さらに40歳以下はさらに負債が多いことが分かります。それでは、果たしてシニア層は金持ちか。なんと79.7%のシニア層が年間所得400万円以下です。年間所得1,000万円以上の人は2%弱しかいません。 資産が多いが所得は少ない、という事実が浮き彫りになってきました。 20歳代はこの視点から見ると最も気の毒な世代です。ここもなんとかしたい、高齢者は使い手、ビジネスの担い手を若い人にしたいと村田特任教授は言います。

ここで、ビジネスのターゲットは誰なのかを考えてみなければなりません。 資産持ちは日常消費が多いという俗説もありますが、シニア層はいざというときのために貯めこんでいます。日常消費は所得に比例する、これが平均的なシニア層の市場の正しい見方です。

消費は単に年齢で決まるわけではありません。 「55歳以上はシニア」のようなセグメントは大きすぎるのです。これまでのマス・マーケットの大雑把な習慣はもうすでに通用しなくなってきています。

シニア層特有の変化

年階級別に見た受病率(入院・治療で医者にかかる率)や、サプリメントなどの健康保持用摂取品の支出金額データも示されました。乳酸飲料は子どもではなくシニア層が飲んでいます。これらの消行動の変化は加齢による身体の変化によって起きている、という事実を村田特任教授は解き明かしていきました。

さらにシニア世代本人のライフステージの変化が消費行動へ変化を与えています。 退職は行動が変わる大きなきっかけです。退職前後にもっとも多い消費行動の変化は「夫婦で旅行」、次に家も年をとるわけですから「家のリフォーム」へと続きます。 保険の加入見直しも始まり、株などお金周りのことが気にかかり出します。

示されたデータをまとめると、退職後の行動は①健康維持②老後準備③趣味・自分探しの3つに分類されることが分かります。

パック旅行費の年間支出も増加傾向を示しています。 若年層向けの安価な旅行企画が主流だったHISも今ではシニア層をターゲットにしているそうです。村田特任教授は自分自身の若い頃を思い出しながら「HISは、昔はバックパッカーしか客がいなかったが、今は違う」と言い、同世代の参加者の笑いを誘いました。

さらに家族のライフステージの変化も見ていきました。夫が退職しても妻の自由時間が増えるとは限りません。これは夫の63.5%が「自宅引きこもり派」であり、夫が退職後に家にいるために料理に手間がかかってしまうのが主な理由です。そして、中食(なかしょく)市場が伸びている原因ともなっています。

村田特任教授は会場の参加者に「家にいる時に話し相手はいますか」と尋ねてみました。その反応は様々なようです。シニア層は話し相手を探し求めて新しい仕事や、社会のためにとボランティア活動を探し求めていくようになります。

そこで台頭してきたのが「第三者の場所」です。 第一の場所は自宅、第二の場所は職場、そこにいることができなくなったシニア層の行き先となっているのが村田特任教授が「第三者の場所」と位置付けるところです。

ここがビジネス対象としてまだまだ可能性があると訴えかけます。 例えば午前中のコメダ珈琲店やカラオケ店「まねきねこ」は高齢者だらけ。しかも「まねきねこ」は弁当持参が可能です。朝の利用は、昼間から夜利用へつながり稼働率を押し上げています。

このようにシニア層の消費はシニア層特有の変化で決まっているのです。 シニア層は他の年齢層に比べて「変化の要因」が多いのです。しかもそれは人によって異なります。

村田特任教授は、シニア層本人の消費行動は以下の5つの変化によって構成されるとまとめました。

1. 加齢による肉体の変化
2. 本人のライフステージの変化
3. 家族のライフステージの変化
4. 世代特有の嗜好性とその変化
5. 時代性の変化(流行・生活環境)

【パート2】スマート・エイジング・ビジネスと多様なミクロ市場へのアプローチ

みんなが貧しかった時代の市場は均質な消費によって成り立っていました。今はモノ余りの時代となり、市場は多様化しています。その中で、2040年まで高齢者は増え続けます。しかし、人数は多い、だからマス・マーケケットである、という俗説は通用しません。

シニア市場は、新しい価値観でくくられる多様なミクロ市場の集合体となっています。マス・マーケッティングの代表的な手段である新聞広告はあまり効かなくなってしまい、新聞社にとっては大変な時代となりました。テレビはなんとかしのいでいますが、安泰ではありません。マス・メディアは知恵の出しどころです。

日本の人口の重心が若年層からシニア層へ移動しました。それをシニアシフトと呼んでいます。

こうした超高齢社会時代には「単なる長寿」より、「いかなる長寿」かが問われる時代となりました。だからこそ、東北大学が提唱するスマート・エイジング(Smart Ageing)の思想が重要となると村田特任教授はあらためて説いていきます。

スマート・エイジングのための四大要素は以下の通りです。

1. 脳を使う習慣
2. 体を動かす習慣
3. バランスのとれた栄養
4. 人と積極的に関わる習慣

事実、介護が必要になる理由は一番が脳卒中、二番が認知症、さらに高齢による衰弱の順です。骨折・転倒は女性に多くなっています。

スマート・エイジング・ビジネスの一番は脳を使う習慣を支援するビジネスです。2015年、認知症高齢者525万人となり、推計方法が変わりましたが増え続けることには変わりがありません。75歳、すなわち後期高齢者になると急増していきます。

脳を使う習慣を支援

脳を使う、その脳の中の前頭前野が重要です。脳のほかの領域を制御する最も高次な中枢機能を持つヒト特有なところです。前頭前野の大きさはヒトとサルとでは大きく異なります。

前頭前野を中心に、脳のいろいろな部位を活性化させる研究を下に開発された学習療法では、一人ひとりの能力に合わせた簡単な手書き作業、音読、計算をコミュニケーションとともに行います

それを村田特任教授は映像を使って紹介してくれました。 老人ホームに入居してきた認知症高齢者が険しい表情で「死なせてください」と訴えています。その方が学習療法をはじめて、表情が変わり、笑顔が戻ってきました。前頭前野が活性化した証しです。エビデンスをきちんとつくった認知症ケアであることが重要なポイントです。エビデンスがないと他者から攻撃を受ける場合も少なくありません。

次に東北大学のスマート・エイジング・スクエアで実施している「脳のいきいき学部(脳の健康教室)」の様子も映像紹介されました。これは予防を目的として行っています。 村田特任教授は「脳のサビ取り」と表現しました。

確かに映像に打ちし出された人たちは「頭の速さがはやくなった」、「認知症予防のために来て良かった」と口々に言い、脳梗塞で言葉が出にくくなった人にも、リハビリ効果が現れました。「言葉が出せるようになった」となめらかな言葉でインタビューに応えています。始める前は口外へよだれが出ていた人だそうです。飲み込み能力も向上しました。

最初は「こんな簡単な計算、馬鹿にするな」と言っていた人たちも含めて、皆さんが 「生活に張りができた」、「生きる意欲が湧いてきた」、「気持ちが明るくなった」と笑顔で言うようにメンタルヘルス(精神的な健康)が大きく改善しました。

使用教材は対象者の能力によって異なり、60数種類以上もあります。適切な教材を選択する、まさにこれこそが多様なミクロ市場へのアプローチの見本です。

川島隆太教授が開発した任天堂のDSトレーニング事例も紹介されました。3,300万本以上も売れ、このビジネスの成功が、現在の加齢医学研究所の研究インフラ整備の基礎作りにも大きく貢献しました。

身体を使う習慣を支援

缶ビール1個分、150kcalの消費を目指し、室内で回転するベルトの上を黙々と歩き続ける一般のフィットネスクラブ、少し人間ブロイラー工場がイメージされ、「今はやめた」という方がたくさんいます。

ここでは「カーブス」の事例が映像で紹介されました。「最高ですね」という女性の笑顔が映し出されました。利用者の95%以上が40歳代以上、40%以上が60歳以上のシニア女性です。住宅地にあり、買い物ついで30分、「簡単で、近くて、しかも安い」が受け入れられました。さらに室内にはお風呂やプールなどの水を使う設備がないために投資が少なく済むこともビジネスとしては重要なポイントでした。

さらにシニア層女性のニーズに応えた「スリーノーM」、これは「男性がいない(No Man)」、「メイク不要(No Make)」「鏡がない(No Mirror)」、こんな仕掛けを作って今では1,675店舗、74万人が利用するビッグビジネスへ成長を遂げました。 日本へ紹介した村田特任教授でさえ、「ここまでいくとは思っていなかった」と言います。

多様なミクロ市場は「ばらけた市場」とも言えます。 そこに「価値の重層化」をすることができればビジネスは成立することを「カーブス」の事例が証明しています。 さらに女性は元気になると消費行動が変わります。筋トレや有酸素運動でシェイプアップし、元気になると洋服や靴を買ってお出かけをするようになります。

「脳トレ、筋トレで財布のひもがゆるくなる」と村田特任教授は笑いました。 これが「ニューロ・ソーシャル経済学研究」です。

【パート3】時代性の変化と消費行動の変化

過去10年間の消費行動の変化を見ていきます。従来は「他人事」だったことが、今は「自分事」となってきました。特に介護と葬儀。現在は「終活イベント」をスーパーでもやっている時代です。実際に棺桶に入ってみて「狭かった」というのも自分事になった事例の一つです。

さらに従来は「退職後は毎日遊んで暮らす」、現在は「退職後も週3日は仕事をする」と変化してきました。70%の人が働き続けたいという希望を持っているそうです。 従来は「シニアはネットを使わない」、現在は「シニアもネットを使いこなす」時代となりました。

これから10年後はどうなるか、先行き不透明ですが年齢別のネット利用率は予測がしやすいと言います。男女差がありますが、ネットをよく使っているシニアの消費が多いこともデータで示されました。刻々と変わっていることが分かります。

買っているものは健康食品、医薬品が多くなっています。デバイスで見てみるとパソコンは男性、女性はまだガラケー利用中心ですが、今後はスマホももっと増えると予想されます。

お店で、目でみて、触ってみてもそこでは買わない。「店舗はショールーム化」しています。これが家電量販店における買い物の仕方で「ショールーミング」と呼ばれている新しい消費行動です。老人ホーム、高齢者住宅の選び方も変わりました。

スマートシニアの増加で、シニア市場は「買い手市場」になり、従来の売り手の論理が通用しなくなってしまいました。

【パート4】シニアの消費行動は今後10年間でどう変わるか

2025年、ネット利用率と健康、要介護認定率の関係を紐解かなければなりません。 まずは団塊世代の最年少者が75歳を超え、要支援、要介護者の割合が増加します。 その中で、75〜82歳のネット利用率は50%を超えます。 そして、タブレットが低価格になり普及します。 その結果、2025年には「通販」」の役割が飛躍的に高まります。

さらに、ICTを駆使して情報を巧みに扱うスマートシニアがますます増え、要介護状態にならないよう、「予防」のための商品を購入します。 ゆえに2025年には「予防市場」が飛躍的に拡大し、その予防の中には、相続トラブル、家族関係トラブルなどの予防も含みます。

村田特任教授は自らの予感を惜しみもなく披露しました。

【パート5】これから世界中で起こるシニアシフト

高齢化する世界と日本企業のとるべき方向

世界中が高齢化していきます。香港、シンガポール、台湾などの老人ホームや高齢者住宅の写真が紹介されました。まだまだ大部屋利用です。 しかし、香港では高級CCRCや高層マンションの垂直型CCRCもできています。 その中にはヨーロッパを中心とした外国製の製品ばかりが使われていました。 日本製はTOTOのみだったそうです。

日本の企業はアジアの中に起きている高齢化の市場へまだほとんど入り込めていない、と村田特任教授は嘆きつつも、ビジネスチャンスの横の広がりを示唆しました。 日本がシニアビジネス分野で世界のリーダーになれる可能性は高い、なぜならば日本は「高齢化先進国」であり、ビジネスチャンスが早く顕在化しています。

シニアビジネスは世界で求められています。シニア市場とは「多様性市場」、きめ細かい対応力のある日本だからこそ、優位性が高いのです。

ここで、村田特任教授の講義は終了しました。

【個別質疑】

質疑内容のみ紹介させていただきます。

Q1. あらためて、村田特任教授のこれからの10年間の予測は何か?
Q2. 団地において一つのプログラム利用だけで結果を出すことは可能か?
Q3. 今後は認知症発症率が変わる予感はあるか?
Q4. シニアの人とともにサービスを作り上げている事例はないか?

blog160526sac1-2-3 blog160526sac1-2-4

【グループトーク】

6グループに分かれて、業界や立場が異なる方々の共通した質疑の抽出作業を行いました。

blog160526sac1-2-6 blog160526sac1-2-7

【グループトーク質疑】

<グループ1>
ミクロな市場へはどういう階層から入ったら良いか?
ネット通販のあり方は?

<グループ2>
シニアがサービスの担い手となるビジネスは?
スマート・エイジングのための4大要素のうち最も重要なのはどれか?

<グループ3>
EC(エレクトリニックコマース)は引きこもりを増やすのではないか?

<グループ4>
第三の場所の必要性は?
若者向けのものをシニアに向けて転用する事例はないか?

<グループ5>
タブレットを使ったサービス事例はないか?

<グループ6>
日本版CCRCについてどう考えるか
海外の成功事例を教えて欲しい

blog160526sac1-2-8 blog160526sac1-2-9

blog160526sac1-2-10

ひとつ一つの質疑に丁寧に答える村田特任教授です。そのやり取りを見ていると参加企業の高い意欲の裏にある「もがき」も見て取れました。

本講義は、コースⅠの参加企業にとってはまだまだ2回目です。 変化の激しい時代だからこそ、新しい変化に対応するためのエビデンスを求めて、これから学んでいく中で必ず起きる参加者の変化も楽しみです。

以上

(文責)SAC東京事務局

過去のSAC東京月例会 事務局レポートはこちら

過去のSAC東京月例会 参加者の声はこちら

 

あわせて読みたい関連記事

サブコンテンツ

このページの先頭へ