SAC東京第12回月例会 事務局レポート

3月24日開催 SAC東京第12回月例会・修了式 事務局レポート

講義をする村田特任教授

SAC第1期第12回講師は村田裕之特任教授です。
シニアビジネス分野の第一人者にふさわしく、講義テーマは「超高齢社会をビジネスチャンスに変える秘訣〜シニア市場の今とこれからを読む視点」です。SAC東京11回各講義のファシリテータを務めてきた村田特任教授がそれらをどう受け止め、自らのテーマにどう総括していくのか、参加者の期待の大きさは会場に張り詰めた緊張感からも伝わってきます。

講義は日本の人口動態を再確認しながらスタートしていきました。シニアとシニアビジネスの定義が重要です。現在、我が国は高齢者を「65歳以上の人」と定義付けしています。昔は55歳であり時代とともに変わってきました。ドイツでは67歳に変更しつつあり、中国では60歳であり、国によっても様々です。

シニア(senior)には本来年齢の定義はないようですが、村田特任教授は「シニアは60歳以上の人」と定義付けをしました。

さらにシニアビジネスの二つの定義を示しました。一つは「シニアが商品・サービスの使い手になるビジネス」、二つ目は「シニアが商品・サービスの担い手になるビジネス」です。この講義では介護保険報酬に依存しないビジネスが中心となります。

これまでシニアビジネスは多くの業界で、様々な場面で取り上げられてきましたが、定義付けは曖昧だったように思います。だからこそ、この定義はとても明快に、かつ新鮮に聞こえたのは私だけではなかったと思います。参加者が一斉にメモをとり始めました。

講義内容は以下の6テーマによって構成されています。
1. 市場の見方を誤るな
2. 世代特有の嗜好性は、消費行動にどのような影響を及ぼすか?
3. 時代性の変化と消費行動の変化
4. いかにしてシニアの消費心理を踏まえた商品提案をするか?
5. シニアの消費行動は今後10年間でどう変わるか?
6. これから世界中と日本企業のとるべき方向
今回の配布資料は通常の倍の厚みとなっています。

市場の見方を誤るな〜マス・マーケットではない100兆円市場

blog160324sac12-2.jpg各年代の正味金融資産を見ていきます。世帯主が60歳以上の世帯の正味金融資産合計は482兆円(2015年)となっています。この1割、48兆円ほどが消費に回ると2016年度の一般会計の約50%に匹敵し、期待が大きいシニアの消費潜在能力です。それではシニア層は他の年齢層よりも「お金持ち」なのか。村田特任教授はシニア市場の俗説に切り込んでいきます。

世帯主の年齢階級別年間所得等のグラフを示しながら、「シニア層は、他の所得層より資産は多いが、所得は少ない」というシニア市場の正しい見方を解いていきました。「シニア層は、資産持ちなので日常消費も多い」という俗説も、「日常消費は、資産ではなく、所得にほぼ比例する」という正しい見方へ訂正されていきました。

それではシニア層の消費は単に「年齢」によって決まっているのでしょうか。年齢階級別にみた「受療率」からは加齢による身体の変化との関係性が見えてきました。退職をきっかけとした具体的な行動変化や消費動向などを様々なデータからクロス的に見ていきながら、村田特任教授は「シニア層の消費は、シニア層特有の『変化』で決まる」という解を導き出しました。その変化は以下の5つです。

1. 加齢による肉体の変化
2. 本人のライフステージの変化
3. 家族のライフステージの変化
4. 世代特有の嗜好性とその変化
5. 時代性の変化

さらに、これらの変化は人によって異なります。確かにシニア層は人数が多いのですが、新しい価値観で括られる「多様なミクロ市場の集合体」となっています。すなわちシニア市場はマス・マーケットであるとの俗説も見直す必要があります。

世代特有の嗜好性は、消費行動にどのような影響を及ぼすか?

そもそも「世代(generation)」とは何か?と村田特任教授は参加者へ問いかけます。
シニア世代は、「大正世代」から始まって「昭和ヒトケタ世代」、「焼け跡世代」を経て、「団塊の世代」へと推移してきました。これらの世代特有の嗜好性は20歳頃までの文化体験、すなわち世代原体験で形成されています。

そして40歳代以降には「ノスタルジー消費」が起きやいのです。世代別にその事例を示しながら「ノスタルジー消費」の心理行動学的考察をしていきます。ここは前回の筒井准教授から学んだ報酬系の応用範囲です。わくわく・ドキドキ機会からドーパミン系刺激を求めたくなるのです。加齢と共に、新しいものより、馴染んだ安心なものを求める傾向が強まっていきます。どうもこの辺りに健康寿命延伸ビジネスのヒントがありそうです。

村田特任教授は、特に50歳代以降は「時間開放型消費」が起きやすいと続けていきます。その事例として20歳代に注力していた「自己復活消費」や、若い時にはなかなか実現できなかったことに対する「夢実現消費」が紹介されました。これらはやはり人それぞれですが、心理行動学的に以下の共通項目が考察されます。

1.50歳代を過ぎると時間にゆとりがつくれる
2.20、30歳代に比べて経済的に余裕がある
3.身体の感覚器が衰え、毎日の生活での刺激が少なくなり、このままだと身体機能(特に脳)が衰えていく危機感を覚える
4.自律的保護作用として、ドーパミン系刺激を求める
5.全く知らないものより、昔から知っていて理解しやすいものに向かう

私も含めて、参加者の50歳代の方々が強く頷いているのが印象的でした。

時代性の変化と消費行動の変化

村田特任教授は過去10年の消費行動の変化を紹介していきました。従来、介護や葬儀は「他人事」でしたが、現在は「自分事」となりました。従来は、退職後は「毎日遊んで暮らす」というイメージがありました。現在は退職後も、「週3日は仕事をする」時代へと変わってきています。「高齢者の就業者数の推移」のグラフをみると、それは60〜64歳より65歳以上の方が顕著な傾向を示していることがわかります。年金があってもあてにならない、何か仕事をしていないとやることがないという事情もあります。しかし、働くことは身体のリズム感を整えてくれることも分かってきました。

現在はシニアもネットを使いこなす時代になったことは周知の通りです。深掘りしていくとネットショッピングの支出額は50歳代以上の増加率が目立ちます。70歳代以上でも11.4%の世帯が利用しています。それでは何を購入しているのでしょう。ずばり医薬品と健康食品、それらの購入単価は結構高いのです。

一方で、スマートフォンの保有率は65歳以上で減少傾向を示しています。それは何故か?村田特任教授は通信コストが高いこととまだまだ使いにくいことを理由にあげました。ガラケーに戻る傾向があるそうです。タブレットの保有率は70歳以上で減少しています。通信コスト増の割にはまだ用途が見つからないことが原因のようです。男性はパソコン中心、特に60歳代の男性はよく使います。女性はまだまだガラケー派です。デバィス利用状況は年齢層や男女によってまだ差があります。

メディア広告はどうでしょう。新聞広告でモノが売れる時代ではなくなりました。SNSは50歳代までがよく利用しています。30歳代はLINEとツィッター、50歳代はFacebook、そして子供との連絡はLINE利用となっています。FacebookもLINEも使えない中国では、中国版LINEともいうべきWeChatの利用者がなんと8億人もいるという驚きの数字まで紹介されました。

さらに劇的に変わったシニアの消費行動として、以下の2つの事例が紹介されました。
一つは老人ホーム、高齢者住宅の選び方です。高いものは買わない、ゆえに入居一時金はダウンしました。ゼロのところも珍しくなくなりました。シニア層が豊富な情報をもつようになりました。パンフレットだけはたくさんもっている、しかし簡単には入居はしないのです。

次に、家電量販店での買い物の仕方もショールーミングへと変わりました。お店はショールーム化し、お店では買わないのです。これらの層をショールーマーと呼びます。
村田特任教授が16年前に提唱したスマートシニアが増え、シニア市場は買い手市場となりました。クレーマーシニアとも呼ばれています。従来の「売り手の倫理」が通用せず、マスマーケティングがやりにくくなりました。

いかにしてシニアの消費心理を踏まえた商品提案をするか?

なぜ、ストックが消費に回りにくいのか解明しなければなりません。
そこにはここ数年のトレンドがヒントになります。それは「モノ消費」から「コト消費」へのシフトです。「コト」は「時間」のことです。コト消費を意識した事例をいくつか紹介しながら、その理由を整理しました。モノ余り・成熟経済はモノ消費の減少をもたらしました。

個人のライフステージの変化である退職は、所得と活動の機会を減少させ、家族のライフステージの変化である子育て終了は、家族数を減少させる原因となっています。さらにコト志向の強まりは、「モノの満足」から「心の満足」へと変わっています。これは後半生の脳の生理的変化・心理的発達とも関係しています。

脳の生理的構造の加齢変化をみていきましょう。SAC東京で講義を担当した加齢医学研究所の瀧教授によれば、脳の灰白質(神経細胞)の体積は20歳を過ぎると直線的に減っていきます。しかし、脳の白質(神経繊維)の体積は年齢とともに増えていきます。すなわち年齢とともに、計算や記憶のスピードは落ちますが、「利用できる情報量」は増えていくのです。ジョージ・ワシントン大学のコーエンの「後半生の心理的発達の4段階」を引用すれば、60歳以上の人の多くは『開放段階』に達しています。

「いま、やるしかない」、「いいじゃない、それがどうした」という気持ちが強くなります。それは身体の変化とライフステージの変化が相互影響し合い心理面の変化をもたらしているからです。情報量が増えると、封印してきたものから開放されインナープッシュ(自己開放を促す精神のエネルギー)が湧き上がってきます。
衝動・欲求・熱望・憧れ・探求から生まれる開放型消費を促す以下の「3つのE」がポイントです。
1. Excited(わくわくする)
2. Engaged(当事者になる)
3. Encouraged(勇気づけられる)

JR九州の「ななつ星in 九州」など、その具体的な事例が紹介されたことで、これまでのSACの各講義で学んできたことが一気につながってきました。

シニアの消費行動は今後10年間でどう変わるか?

2025年の人口構成から検証してみましょう。後期高齢者となる75歳を過ぎると要介護認定率が急カーブで上がり始めます。村田特任教授の読みが示されました。
75〜82歳のネット利用率は50%を超え、タブレットが低価格になり普及する、つまり「2025年には『通販』の役割が飛躍的に高まる」
店舗だけでは成立しません。オムニチャンネル、ディバイスの開発もまだまだ可能性を秘めています。

シニアの消費行動は、ICTを駆使して情報を匠に扱いスマートシニアがますます増え、要介護にならない「予防」のための商品を購入する、ずばり「2025年には『予防市場』が飛躍的に拡大する」

お金が動く「相続トラブル予防」なども増える可能性があります。
このふたつに集約した健康寿命延伸ビジネスの提案です。

これから世界中と日本企業のとるべき方向

村田特任教授はもう一歩、話の視野を拡大していきました。高齢化するのは日本だけではありません。日本の高齢化率を追いかけている香港、韓国、シンガポール。これらの国々は近い将来、急速に訪れる高齢化の危機感が高いのです。そして日本に学ぼうとしています。しかし残念ながら日本からの製品が殆ど入っていません。日本企業のマーケティングが進んでいないため、ヨーロッパの企業からどんどん製品を購入しています。

世界のシニアビジネスにおける日本の窓口の一人である村田特任教授から大きな示唆が示されました。それは日本がシニアビジネス分野で世界のリーダーになれる可能性が高いということです。

日本は「高齢化先進国」がゆえに、ビジネスチャンスが早く顕在化しています。シニアビジネスは世界で求められていますが、シニア市場は「多様性市場」です。
きめ細やかな対応力のある日本に優位性があります。

SAC第1期の講義の締めのメッセージは日本から世界へと向かいました。

【個別質疑タイム(質問のみ掲載)】

Q1.ひとつの商品だけを出しても選んで貰えない。何をどう選んでだしたら良いのか。
Q2.機能性をどこまで優先したら良いのか
Q3.2040年、人口が減少して日本の国が消えてしまうという情報もあるがどうか。
Q4.シェアリングエコノミーはどうか、なぜシニアが暴走するのか

【グループトークタイム】

講義内容が多義に渡ったため、今回のグループトークはテーマを設定せず、グループごとに自由にディスカッションをしていただきました。

【グループ質疑】

〈グループ3〉
口コミは脳科学的に証明されているのか、原点回帰をビジネスにどう応用したら良いのか

〈グループ2〉
リアルな対面サービスとネット上のコミュニケーションは関係の深さに違いがあると思うがどうか。モノがあふれ選択肢が増えることはどうか。

〈グループ1〉
男っぽい事例が多かったが、男女差をどう捉えるべきか。今すぐ必要ではないものにどう備えるか。

〈グループ7〉
予防ビジネスのきっかけはいかにあるべきか。で不安をあおらないようビジネスとは。

〈グループ6〉
ミクロ・マーケットの話しが出たが、まだマス・マーケットもあるのではないか。

〈グループ5〉
日常生活の中で資産と消費をどう捉えるべきか。家族の消費は家族の絆によって生まれるのか。

〈グループ4〉
介護施設と子どもの施設の併設はどうか。ミクロ・マーケットは小さいのではないか。

 

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以上を持ちまして、SAC第1期の全てのカリキュラムを終了させていただきました。

SAC全12回の講義の学びを統合し、産学連携の下で参加企業がゆるやかにつながり、各社のノウハウを集結することができれば日本発のシニアビジネスは世界へ羽ばたくことができるのではないかと強く感じました。

SAC第1期にご参加を賜り共に学んだ方々、ご協力をいただいた全ての方々に心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。

SACはこの活動を第2期へつなげ、さらに学びを深め実践段階へ入っていきたいと思います。

以上

(文責)SAC東京事務局

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